第13話魔物の襲撃


 今日も今日とてベイルロディア山脈に鍛錬に行こうかと思って宿から出た所、ベイルの町が騒がしくなっていた。なんだろうと思って周囲の人に訊いてみるとなんでも魔物の大群がこのベイルの町に押し寄せて来ているらしい。これは放っておけない。俺たちは魔物を迎撃する事にし、兵士たちと共にベイルの町の防衛戦に加わる事にした。


「このベイルの町を私の村みたいにはさせない。絶対に守って見せます!」


 魔物の襲来で故郷を滅ぼされたクーは猶更、やる気のようであった。リスティやエリアも意気込みを見せる。


「魔物たちの好きにはやらせないからね」

「ここで迎え撃つ。聖女様は下がっていても良いのですよ?」

「いえ、私も戦います。私には神の御加護がある。並の人間よりは戦えますよ?」


 他の面々に任せて自分だけ下がっているなど論外だ。神の加護と言うチート能力を得ている身だ。ここでベイルの町を守るために戦う事になんら異論はなかった。そうしている内に魔物の集団がやって来る。なるほど。かなりの数だ。これは厄介な魔王の襲撃と見るべきだろう。ベイルの町の守備隊の兵士たちが弓や弩を放ち魔物たちに先制攻撃を仕掛ける。それで倒れてくれる魔物たちもいたが、それを掻い潜り、攻め寄せて来る魔物たちもいる。まずクーが前に出て剣を振るった。


「はあ!」


 クーの剣で魔物が切り裂かれ、地面に倒れる。リスティとエリアも前に出て片刃剣と槍で魔物に対抗する。兵士たちも剣や槍を手に前に出て魔物に立ち向かった。俺も剣を引き抜き、剣が黄金の輝きを帯びるのを確認すると迫り来る魔物たちに剣を振るい、倒していく。魔物の集団は厄介な敵であったが、個々の能力はそこまで高くはない。ベイルロディア山脈で鍛錬を積んだリスティ、エリア、クーは魔物たちを次々に打ち倒していく。俺も神の加護を得た剣で魔物たちを切り裂いていく。魔物たちは次々に倒れるが、いかんせん数が多い。兵士たちも負傷して後ろに下がる者がそれなりに出て来た。


「こんのぉ!」


 リスティが片刃剣を振るって魔物を切り裂く。ベイルロディア山脈で相手にしているドラゴンたちに比べれば今回の魔物たちは大きく質で劣る。打ち倒すのは造作もないが、いかんせん数が多い。数の暴力で攻め寄せて来る敵の魔物たちにエリアも槍を振るい対抗しているが、点の守りは出来ても面の守りは出来ない。そこら辺はこのベイルの町の守備兵に期待したい所だが、守備兵たちの力は俺たちに比べれば遥かに劣る。魔物の大群の圧力に押されつつあった。


「やらせない!」


 クーが意気込み、剣を振るい、魔物たちを斬り捨てていく。俺も前線で剣を振るい、魔物たちを次々に討ち取るがいかんせん数が多い。兵士たちも奮闘しているが、魔物の大群を前に苦戦を強いられる。ここは魔物の筆頭格を潰すのが得策か。俺はそう判断した。この魔物の大群も頭となって率いている魔物がいるはずだ。それを潰せば勢いも弱まるはずだ。


「私が魔物の頭目を倒します! エリア! 援護してください!」

「聖女様! 危険です!」

「ですが、このままではジリ貧です! この戦況をひっくり返すのは魔物の頭目を倒さなければ!」


 俺は強引にエリアを説き伏せると前線に繰り出す。エリアが援護して槍を振るい、魔物たちを倒してくれる。俺は神の加護で黄金のオーラを纏った剣を振るい、魔物たちを倒し、魔物の頭の元まで辿り着く。大型の獣人であった。狼の頭を持ち、剛腕を誇る大柄な存在だ。こいつが頭目で間違いはないだろう。俺は神の加護を受けた剣を振るい、そいつに斬りかかる。


「ウガア!」


 狼の獣人はいきり立ち、俺に反撃を繰り出す。それを剣で受け止め、こちらの斬撃を放つ。こいつを倒さなければベイルの町を守り切る事は出来ない。その思いで神の加護を得た剣を振るって攻撃を仕掛ける。神の加護を受けた俺の肉体は強化されていて、このような屈強な獣人にも立ち向かう事が出来る。

 剛腕の一撃を剣で受け止め、反撃に斬撃を繰り出し、獣人を圧倒していく。

 流石に魔物の頭目だけあり、これまでベイルロディア山脈で戦ったドラゴンたちよりも厄介な相手だという印象を抱かざるを得なかった。その猛攻をなんとか神の加護付きの剣で凌ぎ、こちらの反撃を繰り出し、獣人に傷を付けていく。自身が傷つけられている事に獣人はいきり立ち、こちらにさらに猛攻を仕掛けるが、それもなんとか防ぎ、こちらの斬撃を繰り出していく。

 神の加護というものは本当に大したものだ。本来ならこの聖女の細腕と華奢な体ではこんな屈強な獣人と戦う事は出来ないだろう。しかし、それも可能となる。この獣人を討ち取り、魔物の軍勢の士気を削ぐ。その目的で俺は戦っていた。周りの魔物たちが邪魔だてしようとしてくるが、それはエリアが槍を振るい、押し留める。エリアに神の加護はない。凶暴な魔物の群れを相手にそこまで長くもたないだろう。それまでにこの獣人を倒さなければならない。俺は黄金のオーラに包まれた剣を振るい、獣人の左腕を切断する事に成功した。


「グガアアアアア!」


 獣人は咆哮を上げて、俺に襲い掛かって来る。隻腕となったが、勢いはさらに増した感じだ。俺に猛攻をかける獣人の勢いを神の加護の恩恵で真っ向から受け止め、剣を振るう。獣人の体に次々に傷が刻まれていく。この勢いで倒し切る。その意気込みで剣を振るい、ついに獣人の首を落とす事に成功した。首を落とされては獣人も流石に息絶える。獣人の大柄な体が倒れ込み、これに魔物たちは露骨に動揺した。


「今が好機です! 皆! 攻めるのです!」


 俺はベイルの町の防衛兵たちに檄を飛ばし、兵士たちは守りから一転。一気に攻勢に転ずる。その勢いで魔物たちを押し返し、倒していき、魔物の集団は明らかに勢いを失っていた。そこからの人類軍の大逆襲で魔物の大群は撃退され、人類軍は勝鬨を上げる。ベイルの町を無事に守り切った格好だった。

 戦いが終わり、俺たちはベイルの町を守る守備兵隊の兵士長に呼ばれた。ベイルの町防衛戦で活躍華々しいから呼ばれただけかと思ったがどうやらそうでもないようだ。


「貴方は聖女様ですな?」


 兵士長が俺を見て、そう問い掛けて来る。ここで誤魔化すのは簡単だったが、俺は頷き、それを肯定する。


「はい。魔王討伐の旅に出ていて、この町をしばらくの拠点としておりました」

「やはりそうでありましたか。ベイルの町を守れたのはあなた方のおかげです。心より感謝します」

「そんな……皆さんの活躍もあっての事です」


 確かに魔物の頭目を討ち取った俺の功績は大きいのだが、ここは謙遜しておく。あんまり傲慢な聖女もいないだろう。


「まぁ、私たちがいれば当然ね」


 リスティは強気にそう言ってのける。それをエリアがたしなめる。


「リスティ、あまり調子に乗るな。聖女様の言う通り、町を守れたのはここの兵士の皆さんの活躍も大きい」

「私たちは少し手助けをしただけですからね」


 エリアの言葉にクーも頷く。リスティはバツが悪そうな顔をしたが、それっきりで文句を言う事はなかった。


「聖女様たちは魔王討伐のためにこの町を旅立たれるので?」

「いえ、しばらくはベイルロディア山脈で鍛錬を積もうと思っております。今の私たちではまだ魔王を倒せる程の域には達していないので」

「そうですか。それなら宿はこちらが用意しましょうか?」

「そこまでご厚意に甘えるのは……宿は既に取ってありますし」


 その後も何かと便宜を図ってくれようとする兵士長の言葉を退け、俺たちは宿に戻った。


「やれやれ、大変な一日だったわね」


 リスティがため息を吐き、言う。確かに。彼女の言う通り、今日はなかなかに激動の一日だった。


「でも、ベイルの町を守れました!」


 嬉し気にクーが言う。魔物に滅ぼされた故郷と同じ目にこの町もあわずに済んだのだから嬉しさもひとしおだろう。


「これからもこの地で鍛錬を重ねないといけませんね。そして、魔王を倒すのです」


 意気込みをエリアが示す。その通りだ。この地で鍛錬を重ねて魔王を倒すだけの力を身に付ける。それに異論は全くなかった。

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