第5話魔王の圧倒的な力
旅立ちから一日足らずで魔王と遭遇。これには流石のリスティもエリアも驚愕を露わにした。
「ま、魔王! 貴方が……!?」
「これは……!」
魔王を名乗った少女はその証明とばかりに空高くに飛び上がり、呪文を唱える。魔王の手から闇の球体が無数に放たれ、こちらに襲い来る。
「危ない!」
俺は咄嗟に前に出て剣を盾に光の障壁を張った。出来ると思ってやった事ではない。この体が勝手にやっていたのだ。。光の障壁のぶつかり闇の球体は次々に爆ぜていく。なんとか攻撃を受け止める事が出来た。これも神の御加護のおかげだろうか。それを見た魔王の少女はふぅん、と呟く。
「それなりにはやるみたいね。でも、わたしを討伐しようなんてくらいだから、この程度では済まさないわよ」
魔王はそう言い、さらに闇の球体を無数に発生させ、こちらに放つ。俺は光の障壁でそれらを受け止めていたが、その合間を縫ってリスティが駆ける。
「あんたが魔王だって言うのなら、話は早いわ!」
そう言い、飛び上がり、片刃の剣で斬りかかろうとする。これを魔王は自身も剣を出現させ受け止める。魔王は空を飛んでいるが、リスティは飛び上がっただけだ。地上に降下する。その隙を狙い魔王は闇の球体を無数に放つ。それらを受けたリスティは悲鳴を上げて後ろに転がった。
「ぐうう……!」
その冒険者服の上に着込んだ軽鎧が早くもボロボロになっている。魔王の魔法を受けたのだから仕方がなかった。
「ふふふ、面白い。ちょっと付き合ってあげる」
そう言うと魔王は空から降下して来て、地面に立つ。エリアが槍を手に魔王に挑みかかる。神速の槍の刺突を魔王は剣でいなし、反撃の剣を繰り出して来る。この力、間違いなく魔王だ。圧倒的な力でエリアの槍も捌き、剣でエリアに斬り付ける。鎧ごと切り裂かれ、聖教会の紋章が施された鎧が無残に裂ける。エリアもダメージを負い、後ろに下がる。
「リスティ! エリア! くっ!」
俺は精神を集中して呪文を唱えた。それは回復呪文。そんなもの使った事はないが、この聖女の体なら習得しているようだった。リスティとエリアに回復呪文が施され、二人の傷を治癒する。そんな俺を魔王は見た。
「貴方……ひょっとして聖女? そうよね。そうでもないとわたしの魔法を受け止めたり、それだけの回復呪文を使ったりは出来ない」
「そういう、事です……!」
魔王にロックオンされた。その事に身震いしつつも、剣を構える。魔王はこちらに向って地を蹴る。その剣を神の御加護で光の輝きを帯びた剣でなんとか受け止める。それでも一撃の重さに体が後ろに下がる。こちらは神の加護を得ている剣だと言うのにそれを力尽くで弾き飛ばすとはなんという暴虐な力か。流石は魔王と言った所だが、このままではこちらは全滅だ。
「こんのぉ!」
「聖女様に手を出すな!」
リスティとエリアが俺の回復呪文を受けて立ち上がり、片刃の剣と槍で魔王に攻撃を仕掛ける。魔王はそれらをも剣で軽々と凌ぎ、後退する。その間際に闇の球体を無数に放つ。それらは爆発し、リスティとエリア、そして、俺を吹っ飛ばす。
「ぐうう……!」
なんとか立ち上がるが、高級な鎧も既にボロボロであった。所々に亀裂が入り、中央に刻まれた聖教会の紋章も虚しく亀裂に形を成していない。剣を構える。剣には相変わらず光の輝きが纏わり付く。これでなんとか魔王に対抗出来ないものか。俺は地を蹴って、魔王に斬りかかる。
「ふふふ、聖女が相手か。面白い」
そう言い、魔王は剣で俺の剣を受け止める。ただの剣で神の加護を得た俺の剣を受け止めるなど無茶苦茶だったが、それくらいやってのけるのが魔王という事だろう。何度か斬り付けるがそれら全てを魔王の剣は受け止める。リスティとエリアも戦線に加わり片刃剣と槍で魔王に攻撃を仕掛けるが、それらも魔王は剣を振るい、全て捌き切って見せる。魔王の称号は伊達ではないらしい。こんな幼い少女にしか見えないというのに。
「しつこいよ」
魔王はそう言うとリスティに手をかざす。そこから闇の波動が放たれ、リスティの体を後ろに吹っ飛ばす。軽鎧はもう砕けて鎧の体を成していなかった。次いでエリアにも闇の波動を放つ。エリアの体も吹っ飛ばされ、聖教会製の鎧の所々が砕け散る。俺にも手をかざしたが、
「……っ!?」
光の壁が俺を守り、俺は吹っ飛ばされる事はなかった。
「聖女の加護か。面倒だね」
魔王はそう言い切る。どうやら聖女であるが故になんとか魔王の攻撃を受けても致命傷は避けれているようだ。それでもこちらの攻撃が全く通用しないのであれば話にならない。
「ま、聖女でも斬れば死ぬでしょ」
魔王は剣を振りかざし、こちらに斬りかかって来る。それを妨害するリスティもエリアも今は動けない。俺一人でどうにかするしかないと言う事だ。俺も剣を構える。刀身は黄金の輝きを帯びており、普通の相手なら圧倒出来るのだろう。だが、魔王は普通の相手ではなかった。魔王の剣をこちらの剣で受け止める。それが出来るだけでも神の加護のおかげだ。おそらく普通の剣士の剣であればあっさり砕け散っているであろう。魔王の剣をこちらの剣で受け止め、なんとか押し返す。そのまま反撃で斬り込むが、魔王は自身の剣でこちらの黄金の剣を受け止める。半端じゃない。こんな旅に出て早々に魔王と遭遇するなんて事が想定外過ぎるのだ。
「この!」
俺は手をかざす。聖女であるのなら攻撃魔法も神聖なものが使えるはずだ。そう思っての事だった。実際、俺の手からは光の波動が放たれ、魔王に命中する。これを受けた魔王は後ろに吹っ飛ばされた。効いている……? 半信半疑ながら、俺は魔王を見つめる。
「なかなか……このわたしに埃を付けるなんて……」
ダメージは全くなかったという訳ではないようだが、微量。魔王を倒すには程遠い。
もっとだ。こんなもんじゃ足りない。もっと聖女としての力を引き出さなければ。
その思いで俺は意思を込める。その俺の体が黄金の輝きに包まれる。
「? 聖女の力かな?」
それでも魔王は動じない。俺は全身の力が跳ね上がっている事を感じ取り、同じく黄金の輝きに包まれた剣を構えて魔王に向って駆け出す。
「はああっ!」
黄金の剣で魔王に斬り付ける。これを剣で受け止めた魔王が初めて苦悶の表情を見せた。
「わたしと張り合える程に……? いくら聖女だからって!」
魔王は苛立った顔を見せると剣を押し返そうとする。だが、今の俺の振るう剣は魔王の剣にも負けない。剣と剣がぶつかり合い、その末に魔王の剣がへし折れた。
「わたしの剣が!? 馬鹿な!」
魔王はそう言いながら後退。闇の球体を無数に放ち、こちらを攻撃して来る。
それらは俺に命中したが、黄金の輝きがそれらを弾き飛ばし、俺はダメージを受けず、魔王に追撃を仕掛ける。
「はっ!」
「くっ」
黄金の輝きの剣で斬りかかる。いかに魔王といえどこれを素手で受け止める事は出来ないようだ。後ろに下がり、攻撃を避けようとする。しかし、逃がしはしない。黄金の剣で魔王を斬り付ける。袈裟懸けに体を斬り裂き、魔王は絶叫する。
「ぐあ! ……く、この聖女め!」
忌々し気に俺を睨み、魔王は空高く飛び上がる。こちらに空を飛ぶ力はない。眼下から俺は魔王を見上げる。
「ここでは殺さないでおいてあげる。でも、貴方たちがわたしを殺しに来るなら、いずれ、貴方たちを全滅させてあげる」
そう捨て台詞を吐いて魔王はいずこへと飛び去って行った。
俺は半ば呆然とそれを見送る。体を包んだ黄金の輝きは晴れていた。そうだ、とリスティとエリアに回復魔法をかける事にする。二人共魔王との戦いで消耗している。
今のが、魔王。その圧倒的な力を思い知りつつも聖女の力なら対抗出来ない訳ではない。そう俺は思うのだった。
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