第3話 状況確認
いや、強制的に覚まされた、と言っても良い。
「おいィ、早く起きろやァ女共ォ」
「「…………ッ!?」」
二人は初めて聞く声に動揺を禁じ得ない。
「よすのだ。
この声は、気絶する前に聞いた声……と二人は声の主を見る。
「少しは落ち着いたかの? おっと、
「え、えぇ。もとより助けて頂いた立場である私たちが異議だてることではありません」
「ちったァ自分の立場わかってんじゃねェかよ」
「ッッッッッッ……」
時雨が答えたあと聞こえたもう一人の声に千花が警戒色を示した。
「んだよォ、そんなにビビらなくてもいいじゃねェかよォ」
と声の主は言うが、この者の顔を見たものならば皆一歩引くだろう。
左眼には切り傷が入り目があいておらず、右頬には耳まで切られ、糸で縫った傷がある。
しかも、その男がだす覇気に常人なら身動ぎひとつ起こせないだろう。
「
「わかってるよォ。つか俺ァ脅してねェからなァ! こいつらが勝手に怯えてるだけじゃねェか!」
炎えんと呼ばれている男が弁明しているが、千花と時雨の様子を見れば一目瞭然だ。
「助けて頂いた上で申し訳ありませんが、あなた方は一体何者なのでしょうか? あの〈異形〉のものたちと関係があるのでしょうか?」
と時雨が目の前の二人に疑問をぶつける。
「〈異形〉ったァ言い当て妙だなァ」
「ふむん。そなた等の疑問はもっともだ。故に今より、状況確認をしにそなたらに着いてきて欲しいのだが、良いだろうか?」
「そういうことならば、私たちに拒否権はありません。ただ、自己紹介だけはしたいと思うのですが……」
「オウ、女ガキお前ェ、図々しいな。オイ」
「使える時に、使えるものを、最適確に切る。お父さんから教わったことです」
時雨の父は政治家で様々な話術や交渉術を使う。
この技術を娘である時雨も受け継いでいたのだ。
「なれば、私オレからゆこう。私オレは
「俺ァ、
「………………世界政府……ですか…………?」
「ふむん。そうだが」
「世界政府というとあの世界政府ですか?」
「何故、そうも疑うのだ?」
「いえ…………父がたまに世界政府に出向くことがあるのですが………………神楽坂さんの第八○八中隊なんて聞いたことがありません。本当に世界政府の人間ですか?」
「なれば、これを見るが良い」
そう言い那由多が取り出したのはなにかの手帳のようなもの。
「これは…………?」
「世界政府の身分証明書だ」
「…………本当に世界政府の人ですね。疑ってしまって申し訳ございません」
「よいのだ。疑ってかかることは生きていく上で重要だからな!」
なぜか、那由多がとても嬉しそうに疑われたことを誇っている。
「それなら、獅子極さんにも聞きたいことがあります」
「あァ?」
「ひっ……」
千花が炎に威圧された。
「よせ、炎。怖がっているではないか」
「だからァ、別に脅してねェって! 俺ァこれが通常運転なんだよ!! ……それでェ女ガキ俺ァに聞きてェことってなんだァ?」
撰王組とは…………やはり……極道なのでしょうか…………?」
「あァ、そうだぜェ。元は一つの組の特攻隊だったんだがなァ、俺ァが独立したのを節目として一つの組になったァ、ただそれだけだァ」
「…………そうですか……」
「あァん? 納得いってねェみたいだなァ」
「ごめんなさい。極道にあまりいい印象をもっていませんので」
「まァ、そうだよなァ。そこは、受け止めて欲しいなァ。じゃねェと俺ァが泣くぞ」
「フフっ。それなら信じないとダメですね」
「オウ、
謎の二人の紹介が終わり次は二人の番だ。
「私は華彩時雨です」
「私………は…………栖本千花……です」
まだ〈異形〉と出会った時のショックが抜けていないのだろう、千花の自己紹介はたどたどしいものだったが、神楽坂と獅子極は意に介さなかったようだ。
「早く行こぉぜェ。灰峰の野郎ォがクソうるせェ」
そうさな。華彩殿と栖本殿もよいかの?」
「えぇ。分かりました」
「あの、私のことは呼び捨てでお願いします」
千花の調子が少し元に戻ってきた。
「なんだァ? 女ァ? 急に元気になりやがって
ェ?」
「今、怯えていても仕方ない。それに時雨が頑張ってるのに私だけ後ろに隠れてること、出来るわけない!」
「くぁはァ! そりゃァ、お前ェクソかっこいいじゃねェか!」
どうやら、千花の言葉が獅子極の琴線に触れたようだった。
______________________
千花と時雨が彼ら二人について行くと、右側の壁は一面ガラス張りで外は真っ白。
床や左側の壁はとても上等な大理石のようなもので作られている。
歩いていく感覚では廊下は円形に回っていくことが分かる。
「あの、ここは一体どこなんですか?」
千花から当然な質問がとぶ。
それに答えたのは、今まで聞いたことのない声だった。
「なに、ただの
ここ、通称
千花と時雨はいままでいなかった気配に心臓を掴まれた気がした。
「
それは申し訳ないことをした。
ただの剣士にしては肩書きに当主とあった気がしたが今の二人はそこを気にする余裕などなかった。
その後約十分ほど歩いたところで不意に神楽坂から声がかかった。
「ここが、我らの上司たる王たちがいる。王と言ってもこうべを垂れなければならない訳では無い。我等と会話していた時の話し方で良い」
「王つってっけど、俺らと大した違ェはねェ。ただあいつらの方が強かっただけだ」
「王たちと話せば私達の今の状況がわかるのですか?」
と、時雨が再確認をする。
「ふむん。分かるだろう」
「神楽坂さんたちは、なぜ先に情報をくれなかったんですか?」
と、千花が当たり前のように聞く。
「そりゃァよォ、お前ェ、アイツらが自分たちで話してェって言うからだよォ」
すると獅子極が当たり前のように答える。時雨が緊張しているので、ツッコミ不在である。
「あの〜、私たちってこの服装で大丈夫ですかね? 王様に会うならこんな制服じゃなくて、しっかりとした服装じゃないと………………」
「確かに、そうね。ドレスコードが必要なら一度着替えてこなくてはならないわね」
千花が自分たちの服装をみて、王に会うのにふさわしいかが不安になってきたみたいだ。
「別に大したことは無い。その服装でも良いと思うが」
「そうだなァ、服装なんて事ァ、気にしたことがねェなァ。まァ大丈夫じゃねェか?」
「着いたぞ」
那由多が示した場所には大きな扉がある。
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