第21話 膝枕で耳掃除をするおはなし
ガチャンッ!
「ただいまー」
夜、玄関の戸が開くと同時に元気のない女性の声が男の耳に届いた。
「おかえりなさい。今日は遅かったね」
「うん、あとちょっとで終業だったのにあのお局様が」
彼女のいうお局様とは自分に厳しく、同じくらい他人にも
厳しいという人らしい。別に彼女に意地悪をしているわけではなく、
お局様もしっかり残業をしているのも分かっているので
彼女も愚痴を言ったりはしない。
「今日のご飯はなに?」
「今日はお鍋だよ。帰ってくる時間が読めなかったから、まだ煮込んでないよ。
先にお風呂はどう?」
「ありがとう。お先にいただきます」
女性はそそくさと着替えてお風呂に向かう。その途中で足を止めて言う。
「ねぇ、たまには一緒に入る?」
彼女が頬を赤らめながら言った。
私は笑いながら答えた。
「お鍋の火を見てないとだめだから。また今度ね」
その言葉に彼女は残念そうな顔をする。
そんな彼女を見て私は言葉を続けた。
「明日ならいいよ」
彼女の表情は一転して笑顔になり、足取りも軽くお風呂に入った。
「「いただきます」」
彼女と私は両手を合わせていった。
「春雨は入ってる?」
「入ってるよ。鳥肉のつくねも入れておいた」
この二つは彼女の好物である。ちなみに
我が家では鍋のしめは卵を入れた雑炊である。
これも彼女が鍋のしめは雑炊派であるからだ。
私は彼女が好物を食べてにこにこと笑うのを見るのが大好きだ。
「あの、片付けが終わってからでいいから、また耳掃除してもらっていい?」
後片付けの後、約束通り彼女に耳掃除をしようとしたら、
膝枕でしてほしいといわれた。どうも今日は甘えたいらしい。
ざっと見たところ特に耳垢らしきものは見当たらない。
それでもおねだりをされたらやらないわけにはいかない。
耳の中を傷つけないよう注意しながらかいていく。
たまに声をかけるのを忘れない。
「大丈夫?痛くない?」
「ん~きもちい」
「かゆいところあったら言ってね」
「はーい」
リラックスできているようでよかった。
「ぁー、そこ。もっと奥のところ。そこ。そこが気持ちいい」
「かなり奥まで入れてるけど痛くない?」
「痛くない。もっとかいて」
「はい、わかりました」
こうして夜は更けていった。
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