第9話 秘密の耳かきのおはなし

最近不思議なうわさを聞いた。耳鼻科やイヤーエステではやらないようなやり方で耳を癒してくれる人がいるらしい。おかしな噂だが耳を癒してくれると聞いて興味がわいた。なんとしてでもその人を捜し当てよう。

 そう決心したとき、私の目の前に怪しい男があらわれた。

「耳掃除してほしいのか」

この季節だというのに黒いロングコートを着た男はそういった。

「耳鼻科医やイヤーエステではやらないような耳掃除をしてほしいのか、と聞いてる」

「!そうです。あなたが噂の…」

「ついてこい」

そうつぶやくと男は歩き出した。慌ててついていき、しばらく歩くと小さな一軒家についた。

「さっそくやるぞ。入れ」

私は誘われるままにふらふらとついていってしまった。中に入ると一つの部屋に入るよう言われた。入ってみて驚いた。そこにはまるで美容室のような椅子と洗面台が備えつけられていた。男は椅子のそばに立ってさっさと座れとばかりにあごをしゃくった。

指図どおりにあおむけに座ると

「では開始する」

まずは熱いおしぼりが右耳にのせられた。

「これをするとこのあとがやりやすくなる」

そういいながら男は細い剃刀を手に取った。たしかに、耳がほぐれてきた気がする。

そしておしぼりをとり、耳たぶの産毛を剃りだした。

スーッ、スーッ

「よし、耳たぶはできた。さて、耳の中は…、うーむ…、よし」

なんか…、考えこんでるな。そう思っていると、

ガッ!グゴボッ!

「うおっ!」「動くな!鼓膜の近くに耳垢が固まっている」

ゴボッ、ボゴッ!ゴホッ!

「よし取れた、みてみろ」

そういってさしだされものは驚くべき大きさだった。

(この大きさを痛みも無く、これはたしかにそこらへんの医者やイヤーエステにはできないことだな)

「では、次に耳毛のショリをする」

そういって男はさっきよりも細い剃刀を手に取った。

(あれはまさか、うわさに聞く穴刀では、はじめてみた)

ショリッ!  ショリッ!

穴刀が耳の入り口から剃りだした。

ショリッ!  ショリッ! クルッ!

穴刀はどんどん耳の奥に入っていく。

「あの、そろそろ鼓膜の近くじゃありませんか?」

「大丈夫だ」

「いや、でも…」

「大丈夫だ」

少し不安だが男の腕を信頼しよう。

……いや、しかし鼓膜のギリギリを攻められるこの感覚、たまらない。

ショリッ!  ショリッ! スッ!

「これで終わりだ。仕上げをするぞ」

そういいながら男は穴刀をおき、小さいシャワーのようなものを手に取った。

「いくぞ」

スーッ、シャーーーッ!

「おおっ!」

いきなり耳の中に水が流れ込んできた。

「これで残った耳垢や耳毛を洗い流す」

「よし、綿棒で水気をとるぞ」

ごしゅっ、ごしゅ

「保湿クリームもぬるぞ。これで終了だ」

すごい、想像以上だ。力が抜けて立ち上がれない。

「……、サービスだ」

そういうと男は私の頭をお湯で洗い出した。

突然のことに驚いているとさっさと髪をふき取り、髭剃りに使うような剃刀で私の前髪の生え際、ひげ、うなじのあたり、と剃りだした。

「シャンプーもしてやろう」

しゅこー、カシャカシャカシャッ!

(あー、頭皮がほぐれて、脂がとれて、………)

ここで私の意識は途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る