第5話 煙を味わうおはなし

だめだ、もう限界だ。がまんできねえ。

「ハァハァ…。クソ、寒気までしてきやがった」

ブルブルッ!

カチンッ!シュボッ!

スー、ハァー

(あー、生き返る。朝から休憩入れる暇なかったからな)

まったく、喫煙者は肩身がせまくなったもんだ。昔ならタバコ休憩に堂々といけたのにな。

マンションの室内でも会社でも吸えねえとは、いまじゃコンビニのおもてだけだ。

人間ドッグでも毎回小言をいわれるし、そろそろやめどきか?)

「あ、お疲れ様です。こんなところにいたんですね」

そんな世迷いごと考えてたら新入りがきやがった。

「おう、お疲れ」

「部長もサボりですか?」

「馬鹿、さぼりじゃねえ。タバコ休憩だ」

「あはは、最近じゃ似たようなもんですよ」

「ちっ」

ああいえばこういいやがる。たくっ、最近の若いやつは。

かちっ、かちっ

「なんだ、ライターつかないのか?」

「はい、使い捨てなので長くは使えないんですよ」

「しょうがねえな、ほら」

カチンッ!シュボッ!

「あ、ありがとうございます」

しばらく二人でタバコを吸いながらボーっと会話もなく過ごす。

「部長のそれ…」

「あん?」

「いや、部長のそのオイルライター。かっこいいですね」

「なんだ急に」

「部長のオイルライター何度か見てますけど、やっぱりかっこいいな、と思って」

「ああ、これか。これは学生時代にライターの火がタバコの味に影響するって祖父から聞いてな。そんでバイト代はたいて買ったやつだ」

「へえ、かっこいいおじいさんですね」

「お前、かっこいい以外ほめ言葉しらねえのか…。それにそんないいじいさんじゃなかったよ。道楽もんでな。周りから借金までして掛け軸やら茶碗やら買い集めといて、死んだあとに全部売り払ったら安物とニセモノばかりだったんだよ」

「あっじいさんで思い出しました。社長が部長のこと探してるみたいですよ。なんか、すごい怒ってるみたいです」

「あー…。どうせ、うちの部が成果をあげてないとかそんなはなしだよ。ほとぼりが冷めたころにいくよ」

「それでいいんですか」

「いまさらだ。それにお前が早く思い出さないのが悪い」

「まあ、そうですけど…」

「たまには、タバコの味をかみしめようや」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る