よろず怪談
紫藤 楚妖
第1話 花見怪談
皆様初めまして。突然ではございますが、「都市伝説」、というものをご存じですか。
人の顔をした犬、人面犬。
大きく裂けた口をマスクで隠した女性、口裂け女。
ほかにも色々ございましょう。
今月今日お話ししますのは春の都市伝説にちなんだこんなおはなし。
はじまりはじまり。
「おう、久しぶり。待たせたな」
「遅いぞ和樹。もう飲んでるぞ。って、なんだその恰好。和服か」
「せっかくの花見だからな。親父から借りたんだ」
「めかしこんできたな。その調子だと今日は飲むんだろ」
「まあな。それにしても今年の花見はいい場所とったな。光平の家からも近いから酔っぱらっても歩いて帰れるな」
「もちろん。今日は夜通し飲むぞ」
「相変わらずだな、それじゃ」
「「かんぱーい」」
それから二人は酒を片手に思い出話や会社での出来事を話しだしました。光平はタクシー運転手なのでいろいろなお客さんの話をしてくれました。
「そうそう。先日怖い体験をしたんだよ」
「お、怪談か。花見で怪談も乙なもんだな。聞かせてもらおうじゃないか」
「びっくりして腰ぬかすなよ。よくテレビとかで深夜に女性をタクシーが墓場まで乗せる、ていう話があるだろ」
「ああ、よく聞く話だな」
「俺もよ。それを体験したんだよ」
「ある日の深夜にな、お客さんを駅まで乗せたんだよ。そのお客さんなんだが酔っぱらって足元がおぼつかないから心配でな。でもうちの会社は規則が厳しくて、降ろした後もお客さんにはさわれないんだよ。それで改札まで車の外から見送ったんだ。無事にホームに入ったから安心して車に戻ったら、いたんだよ。髪の長い女性が。おまけによ、行き先が墓地っていうんだよ。もう乗ってるから降ろすこともできないし、仕方ないから墓地まで行ったんだ」
「その女性、やっぱりうつむいてて、一言も話さないのか」
「ああ、誰もがイメージする姿そのものだったよ。それでな、車をはしらせている間はもう心臓ばくばくだったよ。そんな時に限って信号には引っかからないし、すごくスムーズに行けたんだ。で、ついに墓地についてしまったんだ。」
「ほほう、それで、どうなったんだ」
「それがな、その墓地の近くにお寺があってな、そこの娘さんだったんだよ。」
「な、はー、おまえなー」
「いやーわるいわるい。期待を裏切っちまったな」
「あーあ。まあ、花見の席で怪談話するより、笑い話のほうがいいか」
「そうだろ」
「ったく、怖い話って言ったのは誰だよ、まったく。よーし、ならこっちは正真正銘の怖い話だ」
「よっ、待ってました」
「ち、調子いいな」
「この公園が埋め立て地っていうのは知ってるか」
「ああ、もちろんだ。埋め立て地を整えて桜を植えたり、遊具を設置したり、市民の憩いの場になったんだよな」
「そうだ。でもこれだけの広さを埋め立てる土、どこから持ってきたと思う」
「さあな、どっかの山でも削ったんじゃないか」
「問題はそこなんだ。光平は数年前の地震を覚えてるか」
「当たり前だろ、そのせいだ俺は住むところがなくなったんだから」
「ああそうだったな。その災害でいろんな建物が倒壊した。おそらく生き埋めになった人もいるだろう」
「お、おい。話の雲行きがおかしくなってきたな」
「あの地震で倒壊した建物はかなり多かった。そんな大量のがれきはどこにいったんだろうな」
「し、知るもんか」
光平は酒を一気にあおるが、和樹は気にせず話を進める
「きれいに咲く桜の根元には死体が埋まってるていう都市伝説があるだろ。この公園の桜を写真にとるとうつるんだってな、アレが。
この公園の埋め立てに使われたのは地震で崩れた建物が使われているんだよ」
「おまえ、それほんとかよ」
「っふふ、うそだよ。でたらめ。おまえにからかわれたからな。おかえしだよ」
「なんだ、うそかよ」
「ああ、うそだ。からかわれたのが悔しくてな」
「は、よかった。和樹の演技がうますぎて信じかけたよ」
「はは、そりゃよかった。さて、そろそろおひらきにするか」
「おいおい、まだまだ宵の口だぜ」
「寒くなってきたからな。花見で酔いつぶれて風邪ひいたなんて馬鹿らしいよ」
「わかったよ。次あったら店で飲もうぜ。」
「ああ、じゃあな」
「ねえ、今帰っていったおじさん。ずっとひとりでしゃべってて気味悪かったね」
「落語家なんじゃない。和服だったし。練習してたんじゃないの」
これにて終わらせていただきます。お読みいただきありがとうございました。またお目にかかる日をお待ちしております。
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