初恋の架け橋

成瀬昭彦

明石海峡大橋開通前の・・・

朝から曇り空のこの日、あるイベントに参加した中村紀子。兵庫県の舞子に来ていた。1998年3月、感動的な長野冬季オリンピック、パラリンピックも終わり。いつもの日常を取り戻しつつある春分の日、盛大なイベントが行なわれようとしていた。翌4月5日に開通する予定の、兵庫県本土と淡路島を結ぶ、世界最長の吊り橋、明石海峡大橋を歩いて渡り初めをする「明石海峡ブリッジウォーク」というイベントだった。1988年5月に着工、10年の歳月を賭けて完成した明石海峡大橋を歩いて渡るというイベントに紀子は、参加する事にした。紀子は神戸市内に住む中村家の一人娘だったが、1995年1月17日の阪神・淡路大震災で父親を亡くしていた。その時、紀子は25歳、大阪市内に就職し、一人暮しをしていた。そんな矢先での大惨事だった。地震の後、紀子は勤めていた会社を退職、神戸に戻り、ボランティア活動をしながら、母親と暮らし始めた。あれから3年後、応募した「明石海峡ブリッジウォーク参加」に当選し、この日を迎えたのだ。舞子トンネルの非常口から開通前の高速道路に入り、列を作りながら、ゆっくりと明石海峡大橋に向かって歩いて行った。紀子と母親もそれについて行くようにゆっくりと歩いて行った。橋の上に差し掛かると、記念写真を撮る人やホームビデオを回しながら歩いて行く人が目立った。

「あ・・・あのう、すみません・・・」

橋の真ん中あたりまで来た時、突然声をかけられた。

「は・はい」

紀子はやや驚いた様子で返事した。

「あっ、すみません、写真撮ってもらえませんか?」声をかけてきたのは、二十歳前後の青年だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る