第2話 無名の能力の一端
俺が答えるやサリアは両手で顔を覆う。
「あの、無名様。それは正気でしょうか?」
顔を覆っている両手の指の隙間からこちらを見て訊ねるサリア。まるで冗談であって欲しいと言いたげではあるが、残念ながら正気だし、冗談でもないし、勿論聞き違いでもない。
「当然!具体的に考えているのは、毎晩定時になると始まるパレードとか、ハラハラドキドキ胸躍るアトラクションなんかがあると良いかもな!ふっはははははっ!」
「馬鹿だ……ここに馬鹿が居ます……」
まるで泣き声であるかのように声を震わせながら頭を振るサリア。頭がおかしいと言いたそうだが悪いのは全てこの世界である。この俺にストレスばかりを強いてきた世界のせい。だから俺に罪は一切無い。それに元はと言えば俺を勝手に魔王にした他の魔王連中が悪いのだからこちらに責任など端から無いはずだ。
「まあ、もし俺に付き従いたいのであれば、そこら辺は融通を利かせる事だな!ふはははははっ!」
そう言うと俺は自分の部屋へ荷物を取りに向かうべく歩き出す。
これからの事を考えると楽しみ過ぎて笑いしか出て来ない。そんな俺とは打って変わり、サリアは溜息を吐く。
「というわけでこれから支度をする!それが終わるまでにどうするか考えておいてくれ!」
「いえ、無名様に付き従うのはもう決まっている事なので。それより手伝いますので早々に支度を済ませましょう」
「おうとも!では早速――」
そこまで言うと、俺は足を止め、すぐ近くのドアノブを掴む。するとすぐに自動で鍵が開く音が聞こえので、そのままノブを回して扉を開ける。
因みに、自動で鍵が開くのは俺の部屋の扉だけである。何故俺の部屋だけなのかと言うと、それは俺がユニークスキルで扉を作成し、そういう仕様にしたからだ。
俺や既に俺のスキルを承知である関係者達にとってはごくごく自然の現象。だがどうやらサリアからしたら奇異な現象だったらしい。ここで彼女は愕然とし「えっ!?勝手に鍵が開いた!?」と声を上げる。
「むっ、そうか。そう言えば君は知らなかったか」
「と、言いますと……?」
「私のスキルについてだよ。私は創造というスキルを所持していてな、思った通りのものを作り出す事が出来るのだ」
ありのままを告げるとサリアが何か思いついたのか、邪な笑みを浮かべた。なので変な提案をされる前にこう続ける。
「一見すると万能そうに思えるスキルだが、想像が曖昧だと変なモノが作られてしまう。例として挙げるのであれば、失敗した場合、大抵はどす黒い物体として現れたりする。因みに今まで創造した事があるのは最小であればペンだったり、飴玉だったりで、最大であれば一軒家程度だな。更に因みに言うと、創造の代わりに魔力がごっそり持って行かれるから、それ以上の大きさのモノはまだ作った事がない」
そう言いながら右手を前に出し、その先に飴玉を二つ生成して一つを自分の口へ。そして残りをサリアに手渡す。
「へぇー、それはなかなか……ん、という事は魔物とかも作れるのでしょうか?」
それを受け取り、訝しげに見つめた後、サリアは恐る恐るという感じに口へ運び、口に入れる。
「あー、それに関しては未経験だ。命あるモノを作った時の代償が何になるのか分からないから怖い。それに、そもそもだが魔物を作りたいのであれば、召喚魔法で作り出せば良いしな」
物事には得手不得手というものがある。それに適材適所という言葉もある通り、それに最も合った方法というものが必ずしも存在する。俺のスキルはまだまだ得体の知れないもの。それ故に生命なんてものを生成してしまったら、果たして俺はどうなる事やら。考えるだけでもおぞましい。
そんな意を込めて俺は両手を肩の位置まで上げて頭を振って見せる。
「それは、確かに……」
俺の意をきちんと把握してくれたのか、サリアは軽く身震いしながらそう言った。そんなサリアを横目に部屋へと足を踏み入れる。そして部屋の中心に汎用魔法である異空間収納の入り口を作成し、その中へ荷物を詰める、というか放り投げてゆく。
「適当に放り投げますね……」
「まあ、異空間収納は汎用魔法であり、収納したものを意のままに取り出す事が出来るからな。適当にものを入れても大丈夫だろう」
言いながらもあからさまな程、雑に荷物を放り投げてゆく。
「ああ、手伝いはいらないよ。それよりもだ、これから長旅になるかもしれないから少しでも休んでおくと良い。ベッドに腰掛けるだけでも楽になるぞ」
「は、はあ……」
相槌を打ちながら辺りを見回し、すぐ近くにあった椅子へと歩を進める。そしてサリアは躊躇いがちにこちらを見ながらそれに腰掛けた。
それから暫しの沈黙。聞こえるのは物が雑に放り投げられたり、崩れ落ちたりする音、そして互いの呼吸音だけだったが、粗方片付いた辺りでふと思ったのか、サリアは「あのー、そう言えばなのですが……」と恐る恐るといった感じに口を開く。
「む、どうした?トイレか?」
「んなっ!?ち、違いますー!これからどうするのか聞きたかっただけですー!」
態度からそうなのだろうと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。しかも見当違い過ぎたのか、激怒したように顔を真っ赤にしている。
「……これから?」
「はい……例えば、どこへ向かうおつもりだとか、その向かった先で何をするつもりなのか?とか、色々と聞いておかなければなりません」
――確かにそれは聞いておかなければ、か……
少し考えてみる。
――ひとまずは支度から、と思っていたがそこら辺はちゃんと考えていなかったな。とは言っても、一つだけ思い当たる場所はあるのだが……まあ、まずはという事で行ってみるとしよう。
「そうだな、まずは東方の魔王領へと向かおうと思っている」
言いながら異空間収納を右手で漁り、そこからひし形でメタルカラーの鉱物を取り出してそれを右手人差し指でタップする。
「東方……という事はエインズの街でしょうか?でもあそこは既に第一の魔王の領土だから行っても意味が無いのでは?」
サリアがそう言っている間にひし形から立体的な球形の映像が映し出される。
この鉱物はこちらの世界では地図の役割を果たしている。
とは言っても、俺が創造スキルにより作成したものなのであまり出回ってはいない。ついでに言えば、この存在を知っている者も数える程しかいないだろう。
なので鉱物が地図を展開している最中、エインズの街について語っていたサリアの声は次第に大きくなっていっていた。
「ご名答。魔王城を作る事は出来ないから行っても意味は無い。しかしあそこには私の経営する孤児院があるのだよ」
と、ここで地図以外の荷物を異空間収納へ入れ終えたので、その入り口を閉じて両手の埃を拍手するかの如く叩き落とす。
それから何かを言おうとしたサリアが口を開く前に右手を前に突き出してこう続ける。
「まあ、色々と言いたい事があるのは分かる。だがあそこへは暫く足を運べないだろうからね。今のうちに挨拶の一つでもしておきたいのだよ」
「そう、ですか……」
相槌を打つかのようにそう呟くサリア。その際も何かを考えているらしく、小首を傾げて視線は斜め上を向いている。きっとかなり思う所があるのだろう。しかし静止された以上は言うに言えないという状態のように思える。
――何を言いたいかはそれとなく察しがつく。どうせ可能であれば孤児院から仲間をスカウト出来ればとか思っているのだろう。しかし魔王城勤務、いや、魔王の配下となる以上は危険が付きものだ。子供を危険な目に遭わせるわけにはいかない。もしその事について何か言って来たらそれとなく断るとしよう。
「支度はこれにて終了だ。早速移動する事になるのだが……その前に最終的な確認をさせてもらう。本当に私の配下になるつもりか?」
「はい!勿論です!」
この返答次第でサリアには様々な制限が付く事になる。働く上ではありがちな事ではあるのだが、例えば時間の制限だったり、あらゆる自由の制限が付いてしまう事になるだろう。それでも良いのか?との意を込めて質問したらサリアは笑顔で即答した。
――全く、事の重大さを分かっているのだろうか?新任した魔王の配下だぞ。危険は大きいだろうに。
サリアの頭が少々心配になってくる俺であった。
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