第6話 初デート?


「いただきまーす」


 今日も夕飯がうまい。カレーは最高だ。母さんと父さん、いつものように三人で食卓を囲む。


「そうそう、隣のテイラーさん、カメラマンなんだって」

「カメラマン? じゃぁ、仕事で日本に来たのか?」

「近所の人から聞いたんだけど、しばらく滞在して写真を撮り終わったら帰国するんですって」

「そうか、じゃぁソフィアちゃんにとっては小旅行だなー」

「いいわねー、外国に小旅行。楽しいでしょうね」


 両親の会話を聞き、なんとなく違和感を感じた。

隣に引っ越してきたソフィア。公園に一人でいたけど、何をしているんだろうか。

それに、さっきも一人で部屋に帰っていったし。

たぶん誰とも話していないし、つまらないんじゃないか?


「あのさ。隣の子、今日も一人で公園にいたよ。鍵も持ってたし、家にお父さんいないんじゃないかな?」


 自分がさっきしたことを二人に伝える。少しだけ、食卓が静かになってしまった。


「唯人、明日と明後日遊びに行ってこい」


 初めから遊びに行く予定だった。

 明日は土曜日、公園に行けばきっと誰かがいる。


「行くよ。多分明日は、圭介と博と……」

「いやいや、ソフィアちゃんと一緒に出掛けてきてくれ」

「え? なんで?」

「テイラーさん、仕事で不在なことが多くどこにも連れていけていないそうなんだ。お前と年も同じだし、どこかに連れていってやってくれ」

「嫌だよ。あの子と話できないし、俺も友達と……」


 会話ができない。意思の疎通ができない。どこに行けばいいかもわからないし、何をすればいいのかもわからない。


「お前、新しいゲームほしいって言ってたよな」


 っく、ものでつるのか。


「交通費や食事代も全額だす。さらにそれとは別に小遣いもやろう」


 さらに、小遣いまで……。


「な、何でそんなに気前がいいの? お父さんケチだよね?」

「ケチとは失礼な。先方から娘と遊んでほしいとお願いされたんだ。ここはお互いに助け合うのが人情ってもんだろ?」

「お父さんは何をするの?」

「何も? 遊ぶのはお前だしな」


 笑顔で食事を続ける両親。……ソフィアも一人でつまらないだろうな。

 しょうがない、別にソフィアの為じゃない。ソフトと小遣いの為だ。


「わかったよ。明日と明後日出かけてくればいいんだろ」

「お、乗り気だな」

「小遣いの為だよ」


 俺は早めに夕飯を終え、準備を始める。どこに行けばいいんだ? 海外の子って、何して遊ぶんだ? 全く分からない……。

 何も予定が決まらないまま、朝をむかえてしまった。どうしよう……。

 着替えて、朝ごはんもそこそこ、出かける時間になる。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい。事故には気を付けてね」


 母さんに見送られ、隣のソフィアをむかえに行く。


──ピンポーン


「こ、こんにちはー」


 声を出した直後扉が開いた。まるで、ずっと玄関で待機していたような速さだ。


 目の前に出てきたソフィアは後ろで髪を一つに結び、ふわりとした白いワンピースを着ていた。そしてピンク色の可愛いポーチをぶら下げている。

 青い瞳を輝かせながら、俺の方をジーっと見ている。


「お、おぅ、おはよう」

『おはよう。よろしくね』


 ソフィアの後ろから黒い影がせまってきた。


「ヨロシクネー。アリガト」


 片言でお礼を言われる。だが、この後どうすればいいのか、何も決まっていない。


「行ってきます」


 とりあえず、駅の方に向かって歩き始める。少し離れて後ろからソフィアがついてくるが、会話はない。俺は立ち止まり、振り返ってソフィアに話しかけた。


「おい、どこに行きたいんだ?」

『なに?』


 そう、これだよ。お互いに何を言っているのかわからない。


「どこでもいいんだよな? 暇つぶしになれば近くでもいいのか?」

『ごめんなさい。何を言っているかわからないの』


 あー、めんどくさい! 俺はソフィアの手を取り、歩き始めた。

 握った手は少しだけ冷たく、ひんやりしている。そして、思った以上に小さくて柔らかい。


「と、とりあえずついてこい」

『どこに行くの?』


 言葉がわからない以上、こうして無理やり連れていくしかない。


 ついた場所は駅の近くにあるショッピングモール。とりあえずここに来れば何かできるだろう。

 早速中に入り、ぶらぶらする。ソフィアはキョロキョロ周りを見回しながら歩いていた。


「アイスでも食べるか? えっと、何といえばいいんだ? アイースゥ食べぇーるか?」


 ソフィアにも見えるようにアイスの看板を指さす。流石に看板を見ればわかるだろう。


『アイス、おいしそう』


 アイスはなんとなく通じ、ソフィアに少しだけ笑みが戻る。そして、二人でお店に並び、俺は好きなアイスを選んでいく。


「すいません、これとこれ、ダブルで」


 ソフィアは少し頬を赤くし、もじもじしている。何を照れているんだ? 早く頼めばいいのに。


「いらっしゃいませ、どちらにしますか?」

『ここから、選べばいいんだよね? どれでもいいの?』

「好きなもの選べよ。一個でも二個でも」

『えっと、この青いのと白とピンクの混ざったものを』


 ソフィアは指でアイスを指しながら選んでいく。色はわかるぞ! 早速お店の人に伝える。


「すいません、これとこれ。俺と同じダブルでお願いします」


 お店の人に伝え、俺とソフィアのアイスが出てきた。ここで食べてもいいけど、このモールはテラスもある。アイス片手に、テラスへ移動してみた。

 空が青い。そして、風が心地よく感じる。

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