どうしても寝取られたい奏くんと何があっても寝取られない綾恵さん
アーブ・ナイガン(訳 能見杉太)
第1話 ビデオレターは突然に
「嘘……だろ……」
マウスに置いた手が震える。ディスプレイに映る光景を僕は信じることができなかった。
『あはっ♪ ごめんね、
「…………っ、うっ……うぅ……
僕の恋人――
サラサラの長い黒髪、透き通るような肌、スラッとしてるのに女の子らしい肉体。今までと同じ美貌のはずなのに、そこにいるのが綾恵さんだとはどうしても思えない。当然だ。ソファにだらんと腰かける僕の恋人は、セーラー服が脱げかけ、露出されたお腹や太もも、そして顔にまで、白濁液をぶっかけられているのだから。
僕は何てことをしてしまったんだろう。今更になってとてつもない後悔が襲ってくる。
『でももう奏君の元には戻れないから……だって先輩達に、おっきいおちんちんの気持ち良さ覚えさせられちゃったんだもん。もう奏君の童貞おちんちんじゃ満足出来ない体にされちゃったんです』
「そ、そんな……っ、うぅっ、ごめん、ごめん、僕が悪かったから……僕頑張るから……っ、頑張るからもうやめてくれ……っ、許してよ、綾恵さん……っ」
穢れを知らない綾恵さんの口から洩れる卑猥な言葉を聞いて、吐き気がこみ上げてくる。血の気が引いていく。そしてそれと同時に、誤魔化しきれない程の熱が僕の股間にはこもり始めているのだった。
『だから可哀そうな奏君はこの動画を見て小さいおちんちんシコシコ頑張ってくださいねっ♪』
「うぅ……クソ……っ、クソ……っ」
激しい後悔と申し訳なさと劣等感で頭の中がグチャグチャになる一方で、視線はパソコンの中の彼女に釘付けになっていく。他の男たちに汚されて、あの慈愛に満ちた微笑みを失ってしまった綾恵さんに、前よりもずっとずっと深く魅了されてしまうのだ。
止まらない。もう止まれない。でもそれでいい。仕方ないんだ。僕は最低のクズ野郎なのだから。
僕の右手は、いきり勃つ自分のペニスを握りしめていた。
『じゃあね、奏君。バイバイ♪』
綾恵さんがフラフラと立ち上がり、固定されているのであろうカメラに近づいてくる。自ら撮影を止めて、これで動画も終わりか。でももう充分だ。僕ももう終わる。果てる。その瞬間、僕は本当の本当に君の恋人である資格を失うだろう。
綾恵さん、綾恵さん綾恵さん綾恵さん……そう今まさに君の美しさで画面が埋め尽くされたこの瞬間に――
『うっそでーーーーすっ♪ 寝取られてませんでしたーーっ♪ 私は永遠に奏君一筋でーーすっ♪ 騙されちゃったでしょーっ? 泣いちゃったでしょーっ? はい、綾恵さんの大勝利ー♪ 寝取られシコシコ中止・中断・永久凍結っ♪ 残念でしたーっ、ブイブイっブイっ♪』
「えっ」
顔面どアップの綾恵さんが喜色満面でダブルピースを決め込んできた。青空の下の大草原で純白のワンピースを着た少女がスキップをしているような清らかさと軽やかさで、なんかめっちゃ煽ってきた。
え、え、え? どういうこと? なにこれ? なにこれ? 寝取られて、ない……?
『これもこれもこれもぜーんぶヨーグルトでーす♪ 自家製でーす♪ うん、おいしっ♪ 明日保冷バッグに入れて学校に持っていくのでお昼休みに一緒に食べましょうね♪ 大好き奏君、ちゅきちゅきちゅっちゅっ♪ んちゅーっ♪ 寝取られなんかでおシコシコしちゃ、めっだよ? だいちゅきな綾恵さんのキス顔でおシコシコしてね? だいしゅきだいちゅき♪ 恋人のチュー、ちゅっちゅっちゅ♪ お嫁さんのチュー、ちゅぱちゅぱちゅぱ♪ 熟年夫婦の、ぶちゅー♪ あの世に行ってもずーっとちゅーしてよっね♪ んー、まっ♪』
「…………っ」
よかった……本当によかった……。そういうことだったんだね、綾恵さん。
涙がダラダラと溢れてくる。喜々として向けられる綾恵さんのキス顔に幸福感がこみ上げてくる――それと同時に、僕のペニスは何も放出することなく急速に萎えてしまっていた。
『あーっ、奏君、ちゃんとチューってやってないでしょーっ。見えなくても奏君のことは全部わかっちゃうんだからねっ、ぷんぷん♪ 綾恵さんプンプン♪ いいもん、奏君がイジワルするなら私、他の人とキスしちゃうもん』
「え……っ!」
『嘘嘘うっそー♪ 綾恵さんの唇は奏君専用だもーん♪ ちゅーっ』
「は……ははは……」
幸せだ。僕は世界一幸せだ。こんなに素敵な女の子にこんなにも愛してもらって。
それなのに僕はそんな彼女の愛に応えられないでいる。そしてそんな最低最悪な僕を綾恵さんは見捨てるどころか、救い出すためにこんなことまでしてくれている。
いや、救い出すなんて言ったら怒られちゃうか。綾恵さんもこれを、自分自身のためにやっていると言うのだから。
こうして。どうしても寝取られたい僕と何があっても寝取られない彼女の、(たぶん)長い長い闘いの火蓋が切られた。僕は自作の寝取られ漫画を読みながら抜いた。どぴゅ。
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