現実
4人は立ち上る砂煙をじっと睨み付けていた。
砂煙の中の大きな陰が一瞬揺らいだように見えた。
「グハッ・・」
次の瞬間、ユリが吹き飛んだ。
「ユリ!」
ロイが吹き飛ばされたユリを目で追いながら叫んだ!
「ロイ!危ない!」
「・・しまっ!!」
その一瞬の隙を突かれ、ロイも悪魔の長い尾で叩きつけられた。
「クソ・・さっきより早くなってねぇか?」
グランツは、2人の様子を気に掛ける暇もなく、全身全霊で警戒にあたっていた。
「・・・あぶないあぶない、もろに喰らったらやられていた・・」
砂煙が落ち着き、悪魔はその姿を現した。
「・・・なんで・・そんな・・」
ミルカは、悪魔の全貌を捉え、戦慄した。
悪魔は、その姿を二回りほど大きくさせ、家屋の2倍ほどの大きさになっていた。
「おまえたちの魔法、おいしかったぞ」
悪魔はニヤリと笑うと、ペロッと舌舐めずりをした。
「まさか、俺たちの魔法を、食ったのか・・?」
「・・・!!」
グランツとミルカは、唖然とし、嫌な汗をしたたらせた。
「こんな相手どうしたらいいんだ・・」
「・・・社長、早く来て・・・」
2人は、ニヤリとこちらを見下ろす悪魔を睨み付けることしか出来なかった。
「おい、他の奴らは何をしている」
「状況から判断するに、あまり考えたくはありませんが・・・」
リディアと宗方は走りながら、遠くに見える悪魔が野放しにされており、誰も戦闘を行っていないことに顔を曇らせていた。
「大丈夫だよ。嬉しいことを考えようよ。無くしたものが、見つかったとかさ」
そんな2人の一歩後ろに続くキールは、ヘラヘラしていたが、例えにキレがなかった。
「そうですね・・」
宗方はそんなキールに、頷くことしか出来なかった。
「あ、エリーナ!しっかりするんだ!」
「宗方さん・・?それにリードさんに、社長・・!」
「おい、あの化け物は何だ!他の奴らは!」
「悪魔を、あの悪魔を倒して下さい。あれは、食べることで自身を強化、いや進化していきます。魔法でさえ、食べてしまいます・・戦闘力の乏しい者はなんとか、逃がしました・・けど、グランツさん、ロイさん、ユリさんにミルカさん、そしてラーファさんも、通信が途絶えました」
淡々と説明するエリーナではあったが、その目には涙が浮かんでいた。
「私に、戦闘能力が、あったなら・・!!」
「エリーナ・・」
宗方はエリーナにかける言葉が見つからなかった。
「エリーナ、よくやった。君がいなければ、もっと大勢の仲間を失っているところだった。あとは、俺に任せて。ポーションはここに置いておくから、ゆっくり飲むんだよ」
キールはいつもどおりの口調で優しく言うと、悪魔を睨み付け走り出した。
「社長・・」
キールに渡されたポーションを力なく震える手で飲みほすと、エリーナはキールに想いを託した。
「・・何か、作戦はあるのか?」
リディアはキールの後ろを走りながら尋ねた。
「ない」
「ないって、勝てないって事か?」
あまりにハッキリと聞こえたその2文字に、リディアは再び尋ねた。
「わからない」
「社長らしくないですね。何か手を考えねば。グランツ、ロイ、ミルカに、ユリ、初耳ですがラーファという方も相当な手練れなはずです。無策に突っ込むべきではないのでは・・」
宗方が恐る恐るとキールに言った。
「俺が勝てるとは微塵も思ってない。・・けど!大切な仲間がやられてるんだ。じっとしていられるほど、冷静じゃない・・」
「社長・・・」
宗方は驚いていた。キールのこんな顔を見るのは初めてであった。
「ここからは、手分けして皆を探そう。各自回復ポーションを持って、あの化け物の付近を探そう。グランツ達が、あれを放置しておく訳がない。すぐ側に居るはずだよ」
キールがそう言うと、宗方とリディアは頷き、一斉に散らばった。
宗方は不安を覚えながら街を駆けていた。
確かに、彼らがこの化け物をほうっておくはずがない。だからこそ、この化け物に攻撃が飛び交っていないということは・・・いや、よしましょう。
宗方は嫌な思考を振り払い、走る速度を上げていった。
一方、キールは悪魔へと一直線に走っていた。
すると、ふと耳にすすり泣く声が聞こえてきた。
「ラーファ!!」
キールは声の方へ振り向くと、うずくまり、ボロボロの姿で泣いているラーファを見つけた。
「・・・・社長?」
キールの声に反応し、ラーファは顔をあげた。
「おい、何があった!他の皆は!」
キールが勢いよく肩を掴み尋ねた。
「・・・・・!ごめんなさい・・私、何も出来なくて・・・皆が・・皆がたべられちゃった・・・」
キールは衝撃を受けた。一瞬頭では理解できず、ずっと謝るラーファを眺めていた。
「・・・・・そうか。ラーファは悪くない。よく生きていてくれた。ありがとう」
キールは、穏やかに言うと、ポーションを置いて、すっと立ち上がり、その場を去ろうとした。
「待って!・・どこへ行くの?」
ラーファの叫びに足を止めたキールに、小さく怯えるように尋ねた。
「・・・あいつのところ」
そう一言だけ言うと、再び走り出した。
「ダメ!社長!止まって!!・・・社長までいなくなったら!私!!」
ラーファの声が、キールの背中に降り注ぐも、キールが立ち止まることはなかった。
「・・・くそ、クソクソクソッ!!!・・許さない!」
思いの丈を吐き捨てるキールの頬には涙が伝っていた。
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よろしければ、レビューお願いします。
新作については、現在執筆中で1万6千字ほど書けています。
もう少し貯めてから出したいのですが、早く読みたいという声があれば、この話が完結でき次第公開していこうと思います。よろしくお願いいたします。
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