「くそ!どうなっているんだ」


ジューノは、先ほど受けた報告に怒りで震えていた。




「配達の依頼も達成。帝国への抹殺依頼は拒否され、念のための暗殺者ギルドも失敗。思っていたよりやりますな・・・」


老齢の男が、愉快そうに静かに口角を上げた。




「この王国において、王族を差し置いて王都の顔になるなど、あってはならんのだ!」


ジューノは机にドンと拳を打ち付けながら、歯ぎしりをした。




「そうですな。それでは、こんなのは如何でしょうか?」


老齢の男がニヤリと笑うと、次の案を話し出した。




「ほう。おもしろい・・・」


ジューノは話を聞き終えると、下卑た笑みを浮かべた。








それから、二週間弱が経ち、キール達一行は、王都の城壁が見えてくるまでに近づいた。




「おお、やっと見えてきたよ」


キールが声を上げると、荷台のリディアと宗方も乗り出してきた。




「やっとですね・・・・・て、うん?」


宗方が何かを見つけた。




「おいおい、なんか煙が上ってるぞ!」


リディアもそれに気づいたようで、異変を口にした。




「社長、そんな悠長にしてないで飛ばしてくれ!」




「うん、急ごう」


何も気づかなかったキールは、リディアに叱責されてはじめて、真剣な顔で頷き、馬を急がせた。






え、見えなくない?城壁があんなに小さく見えてるだけだよ?超人の身体能力と一緒にしないで欲しい・・






が、内心では、自分と社員の差を実感し、ちょっと落ち込んでいた。






近づけば近づくほど、王都の内から聞こえる悲鳴や、怒号は大きくなっていった。


よく見れば、門から人が我先にと出ようとして溢れかえっており、門の隙間から見える街並みは、家が崩れ、火の粉が上がり、王国の繁栄を残してはいなかった。




「門から入ることは出来なさそうですね」




「そうだな、ならばどうするか・・」


宗方のつぶやきにリディアが同意すると、ジーッと宗方はリディアを見た。




「ここ抜きます?」


うん、と小さく頷くと宗方は、城壁を指さしながら、リディアに尋ねた。




「そうだな、それが良い」


一瞬呆気にとられた顔をするも、リディアはにやっと笑い、肯定した。




2人はほぼ同時に息を吐き、集中すると、宗方は抜刀術の構えをし、リディアは手のひらを前に突き出した。




「『闇の捕食者ダーク・プレデター』」


「『海の浸食マリン・クラック』」




黒い礫がと、水の斬撃が、同時に城壁へとぶつかり、大きな音と突風が辺りに降り注いだ。




「やっぱり、お前もか」


「ええ、あなたもですね」


お互いがお互いをなんとなく、直感で精霊の守人であるのが分かっていたかのように、目を合わせた。




「・・・・・」


キールはそんな超常の2人をみて、考えることを辞めた。






砂埃が静まり、見事に分厚い城壁を貫いたその先には、敵の姿が見えた。




「・・・あれが、敵ですか」


「・・・これまた、デカいな」


2人の目の前には、王城と同じくらいの大きさの暴力を体現したような悪魔がいた。




「・・・・・でっけ」


3メートルほどの厚さの石が砕ける事に疑問を持っていたキールでさえも、その大きさに驚いた。










「ここで、いいのか?」


ジューノは老齢の男に連れられ、暗くひっそりとした王城の地下室に来ていた。




「ここは、王城が建てられた当初より、ある隠し金庫です。そこの台座にある宝石を手に持って下さい」


男は、いそいそとジューノに指示を出した。




「こんな部屋があっただなんて、俺でも知らなかったぞ」


ジューノは言われるがままに、部屋の中を見渡しながら宝石に近づいた。




「普段は隠されていますからね。さぁ、拒否反応が出なければ、英雄の資格がありますよ」


男がそう言うと、ジューノは一間おいて、宝石を手にとった。




「なんと見事な宝石だ。力が溢れてくるようだ」


ジューノはその宝石から力を感じ、高揚していた。




「さぁ、その魔方陣の中心に立ち、その結晶を飲み込んで下さい」


男は、淡々と手順の説明を続けた。




「わかった・・・ハハハ、これで俺が超人的な力を手に入れれば、俺が英雄だ!」


いびつな笑みを浮かべ、ジューノは高らかに笑いながら、一気に宝石を飲み込んだ。




ゴクリ




「・・・・・・・何も変わらないが?・・ゴハっ・・貴様、何を・・・」


身体に何も異変を感じず、失敗したのかと男に確認しようと振り返った瞬間、ジューノは口から血を吐き、胸に感じた違和感の原因を睨んだ。




「何、手順どおり、最後のピース。より強い血の心臓を捧げたまでですよ。勇者の血のね」


男はナイフをジューノの胸に刺し、今までに無いほど口角をつり上げた。




ドサッ


ジューノはそのまま床に力なく倒れると、その周りを赤い灰が飛び交い、ジューノを包んだ。




「グァァァァァァァァァァアアアアアア!!!!」


次の瞬間、倒れていたジューノがむくりと起き上がり、筋肉は皮膚を突き破るほど膨張し、灰が皮膚となり、悪魔が誕生した。




「ひひひ、これで悲願が達成する!最後の赤の悪魔『滅びの悪魔』・・ああ!素晴らs」


男は下卑た笑いこぼし、悪魔を讃えようとした。




ブチュっ


悪魔につままれた男の頭が潰れた。




悪魔は手についた、潰れた頭をあーんと飲み込むと、嬉しそうにニヤっと笑った。








グチャ・・グチャ・・ニチャ・・




「まだ・・・足りない・・・」


男の身体を骨の一本も残さず、完全に食べ終えると、悪魔は外へ向かった。


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