宗方
「味方か?」
リディアはじっと宗方を見つめたまま、キールに尋ねた。
「うん、ウチの社員だよ」
肝が据わっているのか、険悪な雰囲気から目をそらしているのか、キールは前を向きなおし馬を走らせた。
リディアがナイフを下ろすと、宗方はニコッと笑った。
「それにしても、すごい勢いで飛び乗ってきたけど、どうかしたの?」
気まずい空気を壊すように、キールが会話をきりだした。
「そうですね、少し厄介なことになりまして・・・社長の所為ですよ?」
宗方はやれやれと溜め息をはきながら、薄目でキールの後頭部をジーッと見た。
「えぇ、俺は何もしてないよ?」
身に覚えのない言われように、キールは否定した。
「社長の依頼のせいで、帝国の第一王女、クローナ王女に求婚されてるんですよ」
宗方は肩を落とし、困ったように眉を上げた。
「あはは、たまたまだよ。俺の所為じゃないじゃん」
キールは「良かった良かった」と責任を逃れたことに安堵した。
「社長が「なるべく急いでこなしてくれ」と仰ったので、その指示に従った結果ですよ?小生は既に心に決めた人がいるのですから、迷惑なだけですよ」
それでも、宗方はキールの指示によるものだと信じて疑わなかった。
「まあまあ、久しぶりに会えたんだし、会社の皆で宴会でもしようよ。新入社員も何人かいるしね」
キールは、話題を変えようと、帰った後の話を持ちかけた。
「ふふふ、楽しそうですね」
幸いにも、お祭り好きの宗方に刺さったようで、パァっと顔が明るくなった。
それから、しばらく進み森が深くなってきた頃。
「・・・・・・12人か?」
リディアがボソッと呟いた。
「そうですね、どこの者でしょうか?」
それに反応し、宗方も立ち上がり辺りを見渡した。
「この気配は・・・おそらく、元ウチの部下だな」
リディアは少し懐かしさを覚えながらも、ナイフを取り出した。
「というと?」
宗方はリディアの方を見ずに尋ねた。
「暗殺者ギルドだ」
リディアが呟くと、宗方は「ほう」と面白そうに笑った。
「よし、2人とも頼んだよ。挨拶がてらね!」
ニコニコ。キールは2人の会話を聞きながら、心臓をバクつかせていた。
一瞬大きな風がビュウッと吹くいた。
「・・・・・フンッ」
「・・・・・よいしょ」
リディアと宗方は、飛んできたナイフを打ち落とした。
「これはラッキーだなぁ!!てめぇを殺せるこのときをまってたぜぇ!」
目の前に現れたのは、リディアの元部下であり、現在の暗殺者ギルドのギルド長であるニッグと、その部下達であった。
「またお前か」
リディアは一週間ほど前の出来事を思い出した。
「野蛮そうな品性に欠ける方ですね」
宗方は思った事を率直に呟いた。
「間違ってないぞ」
リディアはそれを肯定すると、構えをより深くした。
「挨拶もそこそこにして、早速お別れと行こうや!」
ニッグがニヤリと顔を歪めると、すごい勢いでニッグ達は2人に差し迫った。
「「!?」」
一斉に襲いかかってきた驚くべき速さの敵に対して、リディアと宗方は驚きながらもなんとかその攻撃を防いだ。
「良く防いだなぁ!」
ニッグは少し嬉しそうにニタァと笑った。
「結構強いんじゃないですか?流石ですね、良く鍛錬されてますよ」
「・・・おかしい、少し前まではこれほど実力は無かったぞ」
宗方は素直に感心していたが、リディアは違和感を覚えていた。
「驚いたかぁ?俺たちは強くなったんだよ!!おい、お前らあの男をやっちまえ!」
ニッグはキールを始末するように指示した。
部下の数人が、返事もなくキールへと差し迫った。
「まずい・・ッ!!」
「クッ!!」
大将に攻撃させまいと、2人はキールへの攻撃を防ごうとしたが、他の部下達に邪魔され、キールに近づけなかった。
「へへへ、これで任務完了か。ちょろいなぁ!」
ニッグが、してやったりと笑った。
「うわっ」
部下のナイフがキールを幾度となく切り裂き、キールは驚きながら目を瞑った。
「・・・・こわかったー」
しかしながらもちろん、そのスライムボディによりキールは無傷だった。
「「「????」」」
そんなキールを見て、部下達は首を90度に曲げ、お互いの顔を見て「攻撃したよな?」と確認した。
「「「コクン」」」
部下達は「もう一度と」合図をすると一斉に攻撃を仕掛けた。
今度こそと、無数の斬撃がキールに襲いかかった。
「うわっ」
しかし、またもキールは無傷だった。
「「「??????」」」
またも部下達は首を90度に曲げた。
「社長は大丈夫そうですね、小生でさえ何が起きてるのやら・・」
「あのびっくり人間については後で説明する。まずはこっちだ」
「ちんたらしやがって・・仕方ねぇ、ケリをつけようやぁ」
ニッグはそう言うと、懐から一粒の錠剤を取り出し飲み込んだ。
「うううぅ・・ううぅ・・アハハハハ!!・・・いくぜぇ」
苦しんだ後、高笑いをしたかと思ったら、次の瞬間、ニッグはその場から消えた。
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