同行人
キールが迷子になっているその同時刻、王城の一室で1人の若い男が人の何倍もの大きさの窓から外を見ていた。
「計画は順調だろうな」
「はい、申しつけられました通り、必ず失敗する依頼を出しておきました」
若い男が確認すると、そのそばに立っている老齢の男が答えた。
「ならば良い。これ以上つけあがらせておく訳にはいかないからな」
男はニヤリと口角を上げた。
ところかわり、王都スラム街近くの商業区。
「あれ?また戻ってきちゃった」
キールは、道端で遊ぶ子ども達の顔ぶれに、親しみを覚え始めるほど、迷子になっていた。
「おいあんた、見かけねぇ顔だな。服も上等な物を着て、ちょっと話をきかせてくれや」
迷子のキールに話しかけてきたのは、いかにもな服装と人相をした3人組の男だった。
「いや、すみません。急いでるんで・・・」
キールは内心怖がっていることを悟られないように、そそくさと背中をまるめながら脇から抜けようとした。
「おっと、おとなしくしてくれればすぐに終わるからよ。ヒヒヒ」
3人組の1人が先回りし、それを妨害した。
「なーに、見かけない奴がいるなと思って、話を聞きたいだけなんd・・・・」
ドサッと、男は話し終えることなく、糸が切れたようにその場に倒れた。
「お前らこそ見かけない顔だな。余所者よそものか?」
倒れた男の背後には、手刀を構えた背の高い男が立っていた。
「何してくれてんだてめぇ!」
すると、逆上したのこりの2人が一斉に飛びかかった。
「ふん、素人が」
男がそう呟くと、目で追えない速度で手を動かし、綺麗に顎にあて、残りのチンピラも道端に倒れた。
男はそれを確認すると、そのまま歩いてどこかへ行こうとした。
「あの!」
キールが背中から声を掛けるも、男は立ち止まらなかった。
「迷子なんです!!!」
キールが恥ずかしそうに叫ぶと、男はやっと振り返った。
「お前・・・キールか。なぜ、こんな所にいる・・」
男は一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐに険しい顔になった。
「あれ?俺名乗りましたっけ?」
キールは名前を呼ばれたことに疑問を持った。
「この王都でお前を知らない奴などいないだろう。それより、何故ここにいる」
相変わらず険しい表情で、男は再び詰めた。
「何でって、迷子なんですよ。買い物してたらつい楽しくなっちゃって」
キールは、まいったまいったと少しも反省していなかった。
「言わないつもりか、表には表の、裏には裏の生きる世界がある。容易に入ってくるな」
そんなキールの様子に腹を煮やしたのか、男はその場を後にしようとした。
「わかった、分かったよ、言うよ・・・・実は、第一王子から依頼があってね、帝国の首都ガレアスにあと1週間で届けないといけないんだ。それで必要な物を探していたら、あなたに遭ったという訳です」
キールの辞書に、守秘義務という言葉はなかった。
「帝国まで1週間で行くのに、必要なもの?・・・・まさか!お前『裏道』の存在をどこで手に入れた!!!」
男はたどり着いた答えに、キールに迫らずにはいられなかった。
裏道、それは暗殺者ギルド、マフィアをはじめとした、国から黙認されている闇の組織に属している一部のみが知っており、使える安全なルートである。
たしかに、魔の森にも裏道はある。しかしその情報は国家機密よりも固く閉ざされているはずだ!何故この男は知っている!
「んー、そうだ!俺の旅の同行人やらない?楽しくついてきてくれるだけで良いから」
キールは、男の反応から、その裏道というものが大事な物で、この男はそれを知っているのではないかと予想し、答えを餌に、連れて行こうとした。
キールの感も当たるときは当たるのである。
「くそ、どうするか、しかし、情報の出所は何としてでも掴まなきゃならねぇ・・・分かった。お前について行く。その代わり、終わったら話してもらうぞ」
情報の出所は、この男であった。
「それじゃあ、えーっと名前はなんて言うの?」
キールが、男の名を知らないことに気づき、尋ねた。
「俺は・・・リードだ」
男は少し間を開けて、リードと名乗った。
「おっけー、それじゃあリード、明日の朝9時に会社の前に来てほしいのと・・・・商業区の出口まで、連れてってほしいんだけど・・」
キールは恥ずかしそうに、少し俯きながらお願いした。
「あんたにも出来ないことがあるんだな・・・・」
少し意外そうにリードはキールを見ながら呟いた。
「それじゃあ、また明日!絶対来てよ!」
キールはリードに連れられて無事大通りに戻ってこれた。意外な出会いを楽しんだ一日となったキールは、リードに手を振りながら別れた。
次の日の朝、キールが会社の前でエリーナと話しながら待っていると、リードがあらわれた。
「!!!社長、もしかして、この男が同行人ですか?」
エリーナが驚いた顔をした。
「おい、殺気を押さえてくれ。そっちの社長さんから頼まれたんだよ」
「大丈夫かな」
キールは何が起きているのか全く分かっていなかった。
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