決断

「こりゃまた大物が釣れたねぇ」




「どうしますか?流石に依頼達成出来ないとは思いますが・・断るのも体裁上良くないとも思います。私では処理しきれません・・・社長、ご決断を」


流石のエリーナも、どちらが正しいのか分からず、少し不安に感じていることが、口調からうかがえた。




「んー、エリーナはどっちの方がいいと思う?」


ニコニコ。




流石はキール、どちらが正しいのか分からず、思考を放棄していることが、言葉からうかがえた。




しかし、キールは自信満々という表情をしており、エリーナは何か考えがあってのことなのだろうと感じさせた。




ただ、キールの自信はエリーナならなんとかするだろうという、他力本願からであった。




「私は・・・受けた方がいいと思います。たとえ依頼に失敗しようとも、国に従い全力を尽くしたという事実は、盾にも矛にもなります。勿論、依頼を成功するに越したことはないのですが・・・・」


メリットとデメリットを考慮し、エリーナは引き受けることにした。




「うむ、俺もそう思うよ。じゃあ、決定で」


机に肘を突き、顔の前で手を組み、決断した。




「!?・・良いのでしょうか・・いえ、承知いたしました」


あまりの即決具合に、一瞬戸惑ったエリーナだが、すぐに了承した。キールが決断を下したことで、間違いだったことなど無いのだから。




しかし、この決断を下したのは実質エリーナだということは、本人は知らないでいた。






「して、社長。この配達をするに辺り、一つ問題がありまして・・・その、人手が足らないのです。引き受けることになった場合、そのことも決めていただきたいのですが・・」


エリーナはキールの顔色を伺いながら、人員について、申し訳なさそうにお願いした。




「あぁ、なら俺が行くよ。あまりサボりすぎても腕がなまっちゃうからね」






エリーナも無理って言ってるし、失敗しても文句は言われない!ということはただ旅してれば良いだけじゃないか!




期間にして1週間。キールはちょうど道中の旅を楽しめる期間だと考えていた。




「・・・・・・・・・・・・」


楽しい旅路を想像して少しにやけているキールとは反対に、エリーナは絶句していた。




「・・!?ダメです!社長の手を煩わせる訳には行きません!なら私が行きます!・・って社長!聞いてますか!社長!」


我に返ったエリーナが、必死に断ろうとするも、キールはどこ吹く風と頭の中で旅の準備を考えるのに忙しかった。






「で、依頼の内容をもう少し詳細に教えてくれない?」


キールがキラキラとした目で尋ねた。




「・・・・何か考えがあってのこと何でしょう。分かりました!ただ、同行人をつけてもらいます!良いですね!」


エリーナはこれまでのキールの実績から重要なことなのだろうと推測した。




「うーん、本当は1人で行きたいけど、わかったよ。それはこっちで選んでも良いかい?」


キールとしては、なるべく自分の旅路に意見を言わなそうな人物を見つけようとしていた。




「良いでしょう。そこに関しても信用しましょう」


エリーナは眉間に皺を寄せながらも承諾した。




「じゃあ、明日までに決めるね」


キールは内心適当に決めれば良いだろうとエリーナの困り顔を全く気にしていなかった。




「承知いたしました。それでは説明に参ります。」


そう前置きすると、エリーナはつらつらとしゃべり出した。






依頼人は、オルガノ王国第一王子ジューノ=オルガノ。




届け先は、帝国の首都ガレアスにある都庁の外交課。




荷物の内容は、大きさとしては、両手で運べる小包み程度、物は割れ物注意。




期限は明日から1週間。




「おっけー!それじゃあ、準備してくるね」


キールは内容を聞き終えると、旅の準備に取りかかろうとした。


「では、明日の朝、会社の裏手に馬車を用意しておきますので、そちらをお使いください」




エリーナは、出来れば怪我をしてほしくないという気持から、経験豊富な馬と、安全性の高いを選ぶ算段を立てていた。




なぜなら、キールが自ら向かうと言い出した場合、それはキールにしか解決できない問題があるからであり、トラブルに巻き込まれているであろうことは明白であったからだ。








「どれにしようかな、あ、これ下さい」


街の商業区に来たキールは、ぶらぶらと街を周りながら一週間分の食料を買い込んでいた。何も事情を知らない人から見れば、お土産を選ぶお上りさんに、はたまた食道楽で楽しんでいるか、とても、大事な仕事の準備には見えなかった。




「よし、これでいいだろう。ジュースに、サンドイッチ、パンもあるし、やっぱりケーキも少しはほしいよね~。こういうときに保存が利く魔法鞄のありがたみをつくづく感じるよ」






そうして、しばらく買い物を続けていた。






「・・・あれ?ここどこだっけ?」


かいものに夢中になっていたキールは、いつの間にか入り組んだ区域に入ってしまい迷子になっていた。


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