少しだけ
「危ない!」
今まさに、ひとりの冒険者に悪魔の巨大な腕が迫っていた。
「クソっ!ここまでか・・」
他の魔物を相手にしていて、悪魔本体の攻撃に気づくのが遅れてしまった。
冒険者はただその時がくるのを待った。
「・・・・・・・・?」
だがしかし、視界を覆った悪魔の腕はそれ以上進む事は無かった。
「何が起きてるんだ?」
他の冒険者達も異変に気づき辺りを見渡すと、ひとりのエルフが光を放ち佇んでいるのを見つけた。
「ラーファが、やったのか?」
「今がチャンスだ!ありったけで攻撃しろ!!」
多くの冒険者が戸惑いを見せるなか、隊長格の冒険者達は経験の差からすぐに切り替えた。
冒険者達が一斉に攻撃し、悪魔の身体にはみるみる傷が増え、肉を削ぎ、脚をもぎ取ることに成功した。
「・・・・・・ッハァ、ハァ!?」
「・・・・・・ギャアアアアアア、痛い痛い、なんだこれ!?」
ほぼ同時に、ラーファの意識は覚醒しその場にへたり込み、悪魔は叫びを上げた。
「あんた達!集まりな!さっさと喰われろ!」
悪魔は失った身体を取り戻すべく、勢いよく魔物に食らいついた。
冒険者達はその様子を伺いながら、隙をみて攻撃していた。これで終わりであってくれと祈りながら。
「アハハハ、残念だったね。まだ毒が足りてないようだよ!」
悪魔の身体は完全に復活し、高笑いをあげた。
「とはいえ、よくもやってくれたね。そこの小娘がしたようだけどもう使えないね?」
悪魔は地面にへたり込んでいるラーファを睨み、腕をラーファめがけて勢いよく突きだした。
「・・・・すみません、キール殿・・」
ラーファが伸びてくる腕を睨みながら呟いた。
「!?・・あれ?」
ドサァ
悪魔は何が起こったのか理解できなかった。エルフを潰そうとしていた手は目標を捉えることなくその横をすり抜けたと思ったら、地面が真横になっていた。
「いったい・・何が・・」
「間一髪、やっと効いてきやがったか」
冒険者がニヤリと笑った。
「ハッ!毒か・・・いや、毒は効いてなかったはず・・」
「いや、毒だよ。言ってなかったか?その毒遅効性なんだよ」
倒れている悪魔を見下しながら冒険者は吐き捨てるように言った。
「くそ、クソ!クソガァアア」
しかし悪魔も最後の執念とばかりに、必死に起き上がろうとし、脚をうごかすが、力が入らないのか、踏ん張ることが出来ずに滑っていた。
「お前が毒にやられるかもしれないと奢らずに、その毒を魔物に持たせて産み落とし、排出していたら分からなかったかもな。人間の狡猾さ、舐めない方がいいぜ?メイドの土産話としちゃ面白いだろ?」
その言葉を合図に、一斉に冒険者達は再び襲いかかった。
それからは、一方的なものだった。
「よし!倒れている奴ら全員にポーションもやったな?」
最後の活動として救護も終え、確認をとった。
「それじゃ、勝ったぞおおおおおおお!!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
冒険者達の雄叫びは相変わらずでかかった。
7日目、いよいよ付き人生活も最終日になった。
「はぁ~生きてるって幸せですね~」
ラーファが社長室のソファで寝そべっていた。
「お、気づいた?生きてるだけで偉いんだよ。うん、今日も生きてて偉い!」
キールもそれに同調しながら、今まで見たことないラーファの素に笑っていた。
「そう言えば、どうだったの?昨日は」
書類に判子を押しながらキールは尋ねた。
「大変だったんですよ・・・毒が遅効性なんて聞いて無かったですし。そう言えば一瞬気が遠くなって、かすかな記憶では、声がしたんです。そして体中に溢れた魔力を放つと、それが魔法になって、一気に疲れました。寿命が減ったんじゃないかと思うぐらい疲れましたよ」
ラーファ当時の再現を身振り手振りで伝えながら話した。
「あはは、お疲れさま。身体に異変とか無い?」
キールが気を遣い尋ねた。
「異変というか・・今までより魔力が溢れてるように思います。それこそ魔法を使ったあのときから」
「まぁそれなら良かったね」
キールはラーファに不調がないことを確認すると判子を押しながら微笑んだ。
やはり、キール殿はすべてを分かっていたのだろうか。あの大樹の祠に連れて行ったのもこうなることを予定していたのだろうか。
ラーファは、王都の脳と未来と呼ばれる所以を垣間見た気がした。
「そういえば、付き人生活も最終日だけど、何か求めていたものは手に入ったかい?」
キールは相変わらず表情を変えずに微笑んでいた。
「そうですね、わたしの求めていた強さも多分手に入りました。そして、それ以上に思いがけない強さが手に入ったと思います」
「今なら、キール殿が多くの人に慕われている理由が分かる気がします」
ラーファは少し間を開けキールの方を見た。
「俺は全く分からないけどね。ありがたいことだよ、ほんとにね」
窓から入る逆光がキールの顔を隠し、表情は見えなかったが、照れて笑っていることは分かった。
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