「キールは正面突破だと言ったんだな」


この場の部隊長をしている1人がラーファに尋ねた。




「そういうことだと思う・・他には特に仰ってなかった」


ラーファが酒場での会話を思い出しながら肯定した。




「なら、幸いにも魔物はこちらを敵視していない。恐らく攻撃されたら反撃にでるだろう。ならば最大打点であのドームを崩すのがベストだろう」




「このなかで広範囲の最大打点を撃てる奴いるか?」




「それなら、私たちだろう。全MPを使い切るわけにはいかないが、ある程度使って良いなら自信はあるぞ」


3人組の女性の魔法使いが手を挙げた。




「魔女の壺ウィッチ・コールドロンのとこのメンバーか」




「私たちは3人で協力して魔法を発動させることが出来る。その威力はうちのギルドでもピカイチだよ」


3人は勝ち気な表情で杖を見せつけた。




「ほう、それは頼もしいな。では初撃は任せよう」


ニヤリと部隊長が笑うと3人に開戦ののろしを託した。




「その後は、手はず通りに各自部隊でまとまって、本体に近づき全部隊が揃い次第、作戦開始だ!」




「「「「「おう!」」」」」


冒険者達はそれぞれ自信の武器を構え、突入に備えた。




「じゃあ、行くよ!」




「異なる力を一つに、流れる輪を一つに、今こそ出でよ!神の一握りゴッド・レイ」




3人が目を瞑り、集中して杖を掲げ詠唱すると、空にいくつもの魔方陣が浮かび上がり、最後の一声と共に、極大の白い光線が、敵のドームに降り注いだ。








まばゆい光に冒険者達は目を細め、光が収まるとその視界に入ってきた光景に驚愕と安心と称賛をもって笑った。




「こりゃえげつねぇな」




敵も瞬間的にドームの前方の壁を厚くし対処していたが、その壁は半壊していた。






「しばらく休んだらすぐに追いつくわ!先に行って」




「しゃあ!行くぞお前ら!!」




「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」」






冒険者が魔物の塊に向かっていくと、魔物もようやく敵認定したのかそのドームを崩し、一斉に冒険者へ黒い津波のように襲いかかった。




魔物と冒険者達の戦いはほぼ互角であったが、連携をとらない魔物は数の利を使いこなせてはいなかった。




迫り来る漆黒のモンスターを 斬殺し、撲殺し、払いのけ、冒険者達は着実に一歩、また一歩と本体に近づいていった。






「おい、こいつが悪魔か?・・・でかすぎるだろ」




無数の魔物を倒して行くにつれ、少しずつ魔物を生みだしている本体の悪魔が見えてきた。






「お前ら、よくここまで来たね・・・しかし・・・みすぼらしい姿だねぇ・・クククッ」


閉じていた目を開いたその悪魔は、蜘蛛を基としてそれぞれの身体のパーツを取り替えたようなキメラの姿をしていた。




「お前ら、ここからが正念場だぞ!もう一踏ん張り、行くぞ!」


「「「「おう!!」」」」」




冒険者達は己の中に芽生えた少しの不安を吹き飛ばすように叫んだ。




「火の渦ファイヤ・ストーム!」


「雪華の一太刀せっかのひとたち!」


「荒塵流・鬼神の舞こうじんりゅう・きじんのまい!」


「音の衝撃サウンド・インパクト!」




「鬱陶しいね・・・でも効かないんだよ!」


冒険者達が一斉に攻撃するも、悪魔は辺りの魔物を喰らい始めた。それにより、与えていた傷が治り始めた。




「よし!作戦を次の段階へ移行する!全員、敵を倒しながらポーションをかけるんだ!!」




冒険者達が敵を倒しつつ、倒した魔物にシカラを錬金して作ったポーションをかけてまわった。




「何だこれ・・・変な味がするねぇ・・ほう、毒か・・でもこんな弱い毒は効かないね!!」






悪魔はそんな毒はものともせず、配下の魔物を食べ続け、どんどん回復してき、冒険者達を攻撃していた。




「まだ、毒は効かないのか!」


冒険者達も悪魔の攻撃により、大勢が疲労、負傷し、その時を待っていた。




「危ない!」


疲労からか、冒険者の注意力が散漫になり、悪魔の攻撃をまともに喰らいそうになる者が増えてきた。




「ダメだ・・・このままだと、毒がまわる前に全滅してしまう・・・・」


ラーファは1人戦況を冷静に判断していた。






「このジリ貧の状況を打破しないと・・・」


溢れる悲鳴、怒号、エルフの耳が常人よりもはるかにそれらを拾い上げてしまった。






「聞きたくない!聞きたくない!もう辞めて!!!!」


初めて大勢の人が傷つく音を聞いてしまったラーファの精神は崩壊しそうになっていた。






・・わたしの・・力を・・・貸してあげる・・・・・






「時空固定タイム・ロスト」


ほぼ無意識の中、ラーファは頭に浮かんだ言葉を口にしていた。

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