付き人生活
「そんな、なぜ・・・」
ラーファは安堵と恐怖の感情でキールを見た。
「お、終わったか?」
そんな静寂を1人の男の声が破いた。
「グランツ!もしかしてずっと見てた?」
キールは、にやにやと笑っているグランツに問うと、「まあな」と返した。
「もー、見てたなら止めてよ」
「すまんすまん、俺も社長の戦闘シーンなんてあまり見ないからな。どれほどなのか見てみたくなってな。そっちも会社に侵入するぐらいの気概があるからな実力を見ておこうと思ったんだ。」
キールはぶーぶーと不満を露わにしているが、グランツはどこ吹く風と受け止めはしなかった。
「・・・気づいていたのか」
ラーファはあまりの驚きにしばらく沈黙していたが、力を抜きグランツに向き直った。実力差を理解したのだ。自分の探知に引っかからず、こちらは探知されていたことから分かってしまった。
「おう、でも俺だけじゃ無いぞ?何人かは気づいてるみたいだったな。ミルカなんかも監視カメラで見てるんじゃないか?」
グランツは、キールにバレないように社長室に取り付けられた隠しカメラがある方を見た。
「なんだと・・私はまだまだ井の中の蛙だったというわけか・・」
ラーファは一度肩を落とし、再びキールの方を見た。
「恐れながらキール殿!!!不肖この私を弟子にしてください!よろしくお願いいたします!」
見事な土下座だった。なんという変わり身の速さであろうか。先ほどまで攻撃していたのにとキールは若干引いていた。
「嫌です!ずぇったいに嫌です!」
キールは否定した。手を使って×を作りながらおもいっきり。なぜなら先ほどの出来事でキールはラーファを危険人物認定したからだ。そしてなにより、1人が大好きなキールにとって付き人など、面倒以外の何者でもなかったからだ。
「そんな・・・お願いします!この通り!」
ラーファは頭が地面にこすりつけながら頼み込んだ。
「無理なもんは無理!」
それでもキールは否定した。
「まぁ良いんじゃねぇか?面白そうだし。期限付きで付き合ってやれよ」
「えー、グランツもそっちの味方かぁ」
グランツがまたもおもちゃを見つけたかのように笑った。
「んー、期限付きか・・じゃあ1日で」
「それは短すぎるだろう。ちょっと可哀想に見えてきたぞ」
グランツはラーファの方に目をやると、捨てられた子犬のように目をうるうる滲ませているエルフがいた。
「じゃあ、1週間!1週間だけね。あと、弟子じゃなくて、付き人として!多分その間に自分の有用性を示すことが出来たらエリーナが声かけると思うから、そのときは社員としていつまでもいていいよ」
「おお!ありがとうございます!頑張ります!」
ラーファはさっきとうってかわって目を輝かせた。
「じゃあ、明日からでいい?」
「はい!ありがとうございます!」
それから、ラーファとキールの師弟週間が始まった。
1日目
「おはようございます!」
ラーファが勢いよく社長室のドアを開けた。しかし、社長室にキールはいなかった。
「あれ?」
不思議に思いながらもしばらく待っているが、なかなかキールは来なかった。1階へ降り、通りかかった社員にキールの居所を聞いてみた。
「あ、社長ですか?まだ来ませんよ、来るとしたらだいたいお昼前くらいですかね」
社員はいつもの記憶を引き出し、なんてことも無いかのように言った。
「会社に来る前は、どこで何したたりとかは、修行とかですか?」
まさか、社長が何も無くただ遅刻しているとは思えなかった。
「さぁ、わからないですけど、本人曰く、寝てるだけだそうですよ?」
「そんな、ばかな。ではいったい何をして強さを手に入れたのか・・」
やはり、キールという男は常識の通じない相手なのかも知れない。隠れて修行しているに違いないと探しに行こうとした。
「社長の強さはそこじゃねぇよ」
フロントから外に出ようとするラーファに、ため息をし、グランツは声をかけた。
「あんたがこの1週間で見るべきは、社長の武力以外の強さだな」
「武力以外の・・・」
ラーファは、グランツから教えてもらった見るべきポイントについて悩んだ。
「ま、とりあえず、ゆっくり待ってみな」
そうグランツに言われたとおり、フロントでゆっくりと何もせずに待っていた。
しばらく、人の流れをぼーっと見ていると、入り口のドアが開いた。
「あれ、もう来てるのか、ごめんごめん。社長室いこうか」
キールは口では謝りながらも悪びれる様子も無く出社した。
「キール殿、出社前は何をしていたのでしょうか?」
「ん?寝てたよ、昨日はちょっと夜遅かったからね」
「何か仕事があったのでしょうか」
「いや、飲み過ぎただけ」
社長室に行くまでの会話を試みたラーファは昨日のことを思い返していた。
実力は分からない、昨日何をしたのかも分からなかった。確かに強いのだろう。しかしグランツ殿は別のところと仰った。性格??だとしたらこの人は今のところ良くないと思うのだが・・・
ラーファはいよいよ余計にわからなくなっていた。
「よし、まずは、溜まっている書類を無くしていきます」
そう言うとキールは、机の上にあった書類の束に判子を高速で次々と押していった。
「あの・・確認とかされないのですか?」
印鑑を押すと言うことは責任を持つと言うことである。そのための確認という作業を飛ばす意味が分からなかった。もし部下が失敗をしたり、企んでいたら一瞬にして、築き上げたものを失ってしまうのだ。
「大丈夫だよ。何かあったら俺が責任とって辞めれば良いんだし」
キールは事も無げに、印鑑の手を休めずに言い放った。
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