対等
「今度は何を閃いたんだい?」
ミルカはこうやって、俺の集めてきた物からなにかヒントを得て、新しい研究に取り入れることを時々している。
「・・・移動手段、空の」
まぁ、でしょうね
キールは古代技術を用いたとされる乗り物のレプリカ。飛行機の模型をみながらそう思った。
飛行機が出来たら相当移動が楽になるな
キールは呑気に便利になる程度にしか思っていないが、この世界であのスピードでたくさんの人を運べるようになれば、世紀の大発明に間違いない。
「・・・研究室に戻る」
ミルカがそう言い部屋を出ようとすると、飛行機ならば前世の知識が役に立つと思いキールは助言することにした。
「あ、ミルカ、羽の形がすごく重要で、強力な推進力があれば確か大丈夫なはずだよ」
「・・・・うん」
ミルカは頷くとそそくさと部屋を出て行った。
「・・・また、社長は知ってた・・・いつも先を越される」
ミルカはその頭の良さゆえに、対等な存在などこれまでいなかったが、キールだけは自分が思いつくより先に、その案を考え出していると、唯一ライバルと言える存在であるのだ。本当は前世の知識で知っているだけで、キールの頭脳による物ではないのだが。
「・・・社長の想像を超える!!」
ミルカは驚くキールの顔を想像し、楽しそうにほほえみを浮かべ、研究室に戻り手を動かしていった。
酒場「ゴールドラッシュ」では冒険者達が考察を始めていた。
「なぁ、結局キールが言ってたのは悪魔の情報ってことより、悪魔の対処法をしめしているんだと思うんだが・・・」
「じゃぁ、珍しくてうまいモノって具体的になんだと思うんだ?」
「お伽噺の中でいったら、龍晶華とかじゃないか?」
「たしか、勇者が敵を倒すも、悪魔の呪いにかかってしまい、醜いモンスターに姿を変えられてしまうも、心優しい少女が、怪我をしているその勇者に龍晶華のスープを飲ませて、呪いが解けたっていうやつか。説はあるな」
「だが、龍晶華だったとして、あれは北にある龍の還り場と呼ばれる山にあるんだよな。この王都にそれがあるのか?」
「いくら、最近王都の商人たちが活発になったとはいえ、あれはないんじゃないか?」
「探すには探すが、一応各々の冒険者ギルドで依頼として出しておいた方が良いかもな」
こうして、冒険者達はこれからの方針を決めたが、それがうまくいくかどうかは不安の方が大きかった。
それから数十日ほどたったころ、社長室のソファにごろごろしているとドアが急にバタンと音を立てて開いた。
「・・・・社長・・・でき、た・・・」
ミルカがアンデットのようにふらりふらりと大きなクマを目の下につけて現れた。
「うお!大丈夫か?」
「・・・・ZZZZZ」
「寝ちゃった」
ミルカは報告だけすると、そのままキールが寝そべっているソファに倒れた。キールはできるだけミルカがケガしないように支えるつもりが、その非力さからちゃんと下敷きになった。
「社長?なんかすごい音したけど、どうしたんだって・・・・・・おじゃましましたー」
「まってグランツ!違うから!ミルカが根詰めすぎて倒れちゃっただけだから!」
何事かと心配して見に来たグランツは面白いものを見たとでも言いたげな顔をして引き返していった。
「グランツには後で説明するとして、よっと」
キールは上に載っているミルカをどかし、起こさないようにタオルケットをかけそのままミルカを休ませた。
「細かいところはまた明日聞くとして、今は休んでてもらおう。おやすみ。さて、グランツの誤解を解きに行きますかな」
「社長、失礼します。ってミルカさん・・これは研究が終わったようですね」
エリーナがソファで寝ているミルカを見て、正解を導いた。
「さすがだね、グランツとは違うよ」
「はぁ、ありがとうございます?」
何のことかよく分かっていないようすだった。
「ところで、何の用だったの?」
「そうでした、先日保安局あてに送った手紙のお返事をいただきました。それがこちらになります」
「ありがとう、えーと、どれどれ・・・」
キールは渡された手紙をひらき、中身を確認した。
「ふーーん、お、お酒もらえるみたいだよ。今度みんなで旅行でも行こうよ。あとは、ん?あれ、なんだか、王城の地下書庫に入れるようになったらしいよ。あはは、もう分けわからん」
全然お酒だけでよかったのに、面倒ごとの匂いがプンプンするなぁ。
「まさか、本当に鍵をもらえるなんて・・・」
エリーナの顔が引きつりながら笑っていた。
これは、だれになすりつけよう・・・・そうだ!
「ミルカに行かせよう!」
にこにこ
ミルカなら知識欲の怪物だから本与えたら一番喜ぶだろうなぁ
「・・・・むにゃむにゃ」
ミルカの寝顔を優しく見守るような笑顔で面倒ごとを押し付けるキールであった。
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