第2話 現状把握から始めましょう
「さて、じゃあ始めますか!」
「ぴ!」
皆さんこんにちは、アヴィリアです。
何の因果か、有名な精霊不死鳥の主となって早数ヶ月。積もっていた雪も徐々に溶け始め季節はだんだん春へと向かっていく今日この頃……。
私はピヒヨと向き合ってヴィコット邸の温室に籠もっております。
「まずは現状どんな効果があるのか、自分でしっかりと把握しないとね」
「ぴちゅ」
精霊の主……なんて一言で言われても、私だってピンとこない。RPGじゃないんだもの、その力を持って世界を救えとか勇者様のパーティへいらっしゃいなんてこともない。
けれどお父様や公爵様が危惧するように稀有な力であることは確実。
自分の身を守る為にも、周りの人たちを守る為にも、この力で何ができるのか、どんな結果をもたらすのか、私にはそれをしっかり把握する必要がある。
精霊と共に在ることで受ける“恩恵”。
正式な契約を交わす前でも植物が異様によく育つと言うものを受けてはいたが、契約を交わした今、私たちの繋がりが強化したことで、その恩恵にも微かな変化が出てきた。
まずローズティーの美容効果が格段にアップ。
目に見えてハリツヤが良くなってきたとお母様が悲鳴をあげて喜んでいた。
ついでカモミールティーの疲労回復効果もぐぐんとアップ。
胃痛も和らぎ、徹夜明けの体にも疲労が全く見られないとお父様が泣きながら喜んでいた。
ハーブの持つ効能をこれでもかと上げてくれていらっしゃる……。
「ここにきてハーブティーがとんでもない万能薬に進化するとは……」
「ぴぃ〜?」
私の知ってるハーブティーと違う。もはやこれをハーブティーと呼んでいいのかすらもわからん。
(いや嬉しいけどね! 効能が確実にとれるならそれに越したことはないけどね! お父様もお母様もめちゃくちゃ喜んでるけどね! だけどねっ!)
限度ってもんがあるでしょうよ。
ワタクシ思わず机の上でゲンドウポーズ。
精神の疲労が半端ない。今日のティータイムはカモミールティーにはちみつをたっぷり入れて頂こうかしら……。
「ん? ちょっと待てよ……」
「ぴ?」
ハーブの持つ効能を格段に上げる……ということは。
私は項垂れていた頭を上げると立ち上がり、温室の土間に植えられているこれまた通常よりも育ちの良い瑞々しい緑の葉を揺らすローズマリーを手にする。
葉先をチョキンと切って綺麗に洗いポットに投入。そこに沸かしたお湯を注ぎ3分程蒸らした後、カップに移す。
――チュンチュン。
するとちょうどいいタイミングで、温室の窓辺に可愛らしいお客様がいらっしゃった。
そっと小鳥の前にカップを差し出してみる私。
――ぴよぴよ。
なんということでしょう。
チュンチュンと鳴いていた小鳥さんが見る見るうちにピヨピヨと鳴く可愛いらしいヒヨコちゃんに大変身したではありませんか。
さすがローズマリー。若返りのハーブと呼ばれるだけのことはありますね。
マジもんの若返り薬。爆・誕☆
これ世に出したらやべーやつじゃね!?
下手したらガチで不老不死とか狙えちゃうやつじゃないですかやだー。知ってる。下手したらこれめぐって戦争とか起こっちゃったりするんだよね。世界的にあかんやつだよね。いくらファンタジーでも普通にヤバいね!
そんなとんでもない代物が今この手の中にあるってか!?
(いーーーーやーーーーーーっ!!)
戦慄した。久々に恐怖で全身が震えた。きっと今の私は震度5ぐらい出てる。あまりの揺れっぷりに視界がぶれっぶれです。
「ビッ!? ……ぴぃ、ぴーっちゅ」
そんな常軌を逸した状態の私を思ってかピヒヨが心配そうにふわふわの体を擦り寄せてくる。
なんて良い子。ありがとう、ふわふわもふもふ気持ちいい。ちょっぴり心が落ち着いた。本日も素晴らしきアニマルセラピー。ただしそもそもの原因は君。
「……ふぅ」
大きく息を吐いて深呼吸。
うん。とりあえず今すべきことはひとつだわ。
「ピヒヨ」
「ぴ?」
「ハーブの効能を増幅するのは今後なしの方向でひとつヨロシク」
「ぴぃ〜?」
「いいから!」
え〜、とでも言いたげな不服そうな顔を浮かべる小鳥様を無視して私はローズマリーティーという名前だけはありふれたハーブティーの姿をしたヤバいブツを勢いよく流し台に投げ捨てた。そのままさっさと自然に還ってしまえ。私は何も見てません。
何処でどんな効果に繋がるのかわからないからね。安全の為にも、もしもの事態を避ける為にも全体的に止めてしまったほうがいいわ、我が身の安全の為、世界の平和の為。
そのことを伝えたら、お父様とお母様は物凄く残念がって、そこまでしなくても大丈夫なんじゃないかと明らかに下心ありきで考え直すように言ってきたけど、こっそりお父様にだけローズマリーの話をしたら真っ青になって即座に承諾。一緒にお母様を説得してくれた。ありがとうパパン、娘は信じてました。
(間違ってもお母様にだけは言えないわね……)
獲物を捕らえるハンターの如く詰め寄られる未来しか浮かばない。
とりあえずこの事実は、限られた人間の心の奥底に厳重に鍵をかけて封印した。このまま黙って墓まで持っていく所存です。
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