第15話 夢見る少年は語る 1
少年――――――レグは、とても身体の弱い子供だった。
一日の大半は自室のベッドの上だったし、外に出ることもなかったから話し相手は家の住人だけ。同年代の友達もいない。
ああ、なんてかわいそうな僕……。
友達が欲しい。僕もみんなと一緒に走り回ってみたい。
それは幼い少年の心の底からの願いだった。
そんな毎日を過ごす中、レグは不思議な夢を見る――――――――。
知らない景色。知らない乗り物。知らない建物、服装。
そこは、目に映るすべてが知らないものであふれていた。
夢の中で、レグはいつも『らんどせる』という鞄を背負って『しょうがっこう』と呼ばれる学舎に通っていた。そして現実とは違い、沢山の友人たちに囲まれながら元気に走り回っていた。
僕には、それがとても羨ましかった。
どうやったらそんなふうになれるんだろう。
『動けばいいんだよ。身体ってのは動かないでいるだけでどんどん鈍ってくぞ?』
部屋の中で過ごすことが当然になっていたレグにとって、その答えはまさに目から鱗だった。
なるほど動けばいいのか。
レグは夢の中の経験を真似て、自分も身体を動かしてみた。
最初はほんのちょっと動くだけで力尽きてぶっ倒れ、その度に周りの人間に救助され……の繰り返しだったが、それでも毎日少しずつ、コツコツと続けたことで身体も慣れていったのか、床と熱愛状態になる回数も減り、徐々に体力がついていった。
ベッドの上で過ごすよりも動いている時間のほうが増えたレグに「丈夫になって……」と両親も涙ながらに喜んだ。
夢での経験値はレグを病弱というカテゴリーから見事に脱出させてくれたのだ。
(すごい! 夢の言う通りだ! あの夢は正しかったんだ!)
それからも不思議な夢の世界は度々レグを招きいれた。
身体が丈夫になれば、今度は一緒に遊んでくれる友達が欲しくなるもの。
夢の中ではいつも友達と一緒だった。現実でも友達が欲しい、そのためにはまずきっかけが必要だ。
夢ではどうやって友達を作ってたんだっけ……。
夢よ教えておくれ。
『全力でぶつかればいいじゃん。欲しいものは自分自身の力で手に入れてこそ漢だって父さん言ってた』
わかったよ。力づくで行けばいいんだね!
何故そんな結論に至ったのかはわからないが、その言葉を斜め上方向に受け入れたレグはその後、父の知り合いの子だと言って紹介されたお友達候補に『やあ僕はレグ。はじめましてこんにちは黙って俺の友達になりやがれください』と言い放ったのである。
当然言われた方は呆気にとられたし、様子を見ていた父親は顔を覆って天を仰ぎ、母親には頭をおもいきりぶっ叩かれた。
だが運命の女神は微笑むものである。
これが上手いこと話しかけるきっかけになり、結果的に友人を作ることに成功したのだ。
初対面でいきなりダイナミックはじめましてをかまされたほうはたまったもんじゃない。しかも目的をちゃっかり成功させるのだからたいしたもんだ。これに関しては相手が良かったとしか言えない。
夢で得た経験は確かにレグを大きく成長させたと言えるのかもしれない。
しかし、本人に自覚はないが、たとえ与えられる経験がどれほど良いものであったとしても、受け入れる側がその真意をきちんと正しく受け取らなければ、それは良い影響にはなり得ないのだ。
言っちゃなんだがただの悪影響にしかなってなかった。この頃から両親はよくよく「もう少し謙虚に生きなさい」と言ってくるようになった。
この言葉が全てを物語っている。
それでも、レグは手に入れた。
元気に走り回れる丈夫な身体と、一緒に笑いあえる友人を。
寂しい部屋で一人きり、小さく縮こまっていた自分はもういない。
不思議な不思議な『夢の世界』は、レグが心から求めていたものを確かに与えてくれたのだ。
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