魔法少女フェアリーウィッチズ 〜D2 Genocide〜
ぽち
第一章 魔法少女誕生
第1話 嗚呼、素晴らしき哉
私立
それは、高校二年生の
その肌は雪のように白く、その髪は絹のように細く艶やかで、そのバランスの取れたボディラインは女優やアイドルさえも羨み、そしてその
男子はそんな幸那様を一目見れただけで一日中幸せな気持ちとなり、女子は幸那様に憧れるあまり、彼女を前にすると言葉すら失ってしまう始末。
そんな幸那様の華麗な授業風景を、本日の私は幸運にも目にすることが出来たので語るとしましょう。
それは、四時間目の三クラス合同体育の授業の時のことでした。
女子の体育はバスケットボールということで、私は幸那様の雄姿をこの目に焼き付けようと、上手く調整して幸那様のチームが試合の時には絶対に試合に出ないように立ち回りました。
お蔭様で、クラスの女子には後でジュースを奢ることになってしまいましたが、それは些細な問題でしょう。
一試合目は、特に幸那様は大きな活躍もなく、かといって戦力になっていないわけでもなく、無難に試合を楽しまれておりました。
問題があったのは、二試合目のことです。
幸那様のマークについたのは、現バスケットボール部レギュラーである
そして、二試合目。
よせば良いものを、白井は我らが氷の女王――報徳院幸那様に牙を剥いたのです。
容姿端麗である幸那様は学校中に知らぬ者はおらぬ程の存在。
だからこそ、そんな幸那様をやり込めて一目置かれようとする者が稀に現れるのです。
それが、この白井だったということなのでしょう。
私が幸那様と同じクラスであれば、問答無用で白井を屈服させてみせたものを……。
私と幸那様が離れている隙を狙って、幸那様に歯向かおうとは! なんと卑怯な手を使うのでしょうか!
私がぐぬぬとやっている間にも、試合は始まってしまいました。
白井はその高い身長を活かすかのように覆い被さるようにして、幸那様をぴったりとディフェンス。
あんなに貼りつかれていては、シュートチャンスはないように思われました――が、そこは幸那様。
パスを貰うなり、後ろに仰け反るようにしてジャンプシュート。
あれはもしかして、フェイダウェイ!?
シュートはそのままバックボードに当たって、ぱさっと華麗にリングに吸い込まれてしまいます。
流石は幸那様! 白井のマンマークを感じさせない動きで、いきなりシュートを決めています!
これには体育館にいた他の生徒たちも驚いたのか、ざわついています。
ふふっ、幸那様はただ美しいだけではないのですよ。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能にして大金持ち!
非の打ち所がないスーパーお嬢様なのです!
それでも、そのことに気が付かない白井は、バスケ部レギュラーという意地もあるのでしょう。再度、めげずに幸那様と勝負しようとしています。
ボールを貰――あ、パスカットに出た選手の手に当たって、ボールが幸那様の手に渡りました……。
そのままドリブルをしようとした幸那様ですが、ディフェンスに現れた白井に驚いたのでしょう。ドリブルをする手が覚束なく……いえ、自分の背を通してボールをドリブルした!?
そのまま、ボールを追いかけるようにドリブルして、コートの端を走っていく幸那様。
いきなりドリブルテクニックを見せつけられて動揺したのか、慌てて幸那様を追う白井。
このままではコートの端に追い詰められてしまいます!
……と思っていたのですが、全ては幸那様の掌の中。
幸那様は白井の股下を通して味方にパス!
味方が軽々とシュートを決め、またもや幸那様のチームが得点!
白井は呆然とした表情で自身のチームのゴールを見ているようですが、ぼーっとしている時間はないでしょう?
既に幸那様は飄々とした御顔で自陣の守備に戻っているのですから、貴女も頑張らなくてはいけませんよ?
ふふ、そうです……。
氷の女王に歯向かった代償がこの程度で済むはずがないですよね? 挑めば挑む程、貴女は恥辱に塗れることになるのです! その恐怖を肌身で感じなさい!
その後も、白井と幸那様のバトルは続きましたが、結果は見るも無惨なものとなりました。
最後には白井は心が折れて、幸那様のドリブルについていけず、足を縺れさせて転んでしまう始末。
流石は幸那様。
敵と見るや一切手加減なしで徹底的に叩き潰す御姿――見事としか言い様がないです。これはお昼休みに祝辞を述べねばならないでしょう。
◆◆◇◇◇◆◆◇◆◆◇◇◇◆◆
◆◇◇◆ D2 Genocide ◆◇◇◆
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昼休み。
「うわーん! 酷いんだよ、カスミン! あんな大きな人がマークにつくなんてズルくない!? こっちはバスケの素人だっていうのにさー!」
いつものように私がお弁当を持って、幸那様のクラスに行くと幸那様は「行きましょう」と言って、私を率いて屋上へとやって来ました。
屋上は表向きには立入禁止となっていますが、屋上へと続く扉の鍵が壊れていることもあって、知っている者は勝手に出入りしている隠れ家的な空間となっているのです。
まぁ、私達の場合は普通に教頭先生から許可を得てはいますが。
しかし、四月も初めの曇り空とあってはまだ肌寒く、此処で食事を取るような生徒はいません。
そして、その事を幸那様は見越していたのでしょう。
屋上に出て扉を閉めるなり、私の前で泣き崩れてしまいました。
「ですが見事なフェイダウェイでしたよ?」
「あんな大きな人が迫ってきたら、怖くなって仰け反りながらボール投げちゃうでしょうが!?」
どうやら、フェイダウェイじゃなくて条件反射だったようです。
「でも、シュートは決まりましたよね?」
「たまたまだよ!」
たまたまでも入っちゃうのが幸那様の凄いところなので、私の中の幸那様の評価はこゆるぎもしません。
幸那様にはもっと自覚を持って頂かないと――。
「股抜きのパスも素晴らしかったですし、背面ドリブルもお見事でしたよ」
「ドリブルは手元が覚束なくなって、たまたまボールが背中側を抜けただけだよ!? パスはボールがコートの外に跳び出しそうだったから、えいやってコートの中に押し戻したら、たまたま股抜きのパスになっただけだし!」
そのたまたまが全て得点に繋がっている辺りが、幸那様の凄いところだと私は思うのですが……。
幸那様に説明しても、それはたまたまだと言い張るのです。
そのたまたまが常日頃から至る所で確認されているのですから、それは既にたまたまではなく、幸那様の実力に他ならないのではないでしょうか?
そう説明しても、幸那様は全て否定されるのでしょうけど。
「もう嫌だ……。チームが勝っても全然誰も喜ばないし……」
「それは幸那様を前にして皆緊張していたのでは?」
「緊張っておかしくない!? 既に同じクラスになってから一週間くらいは経過してるんだよ!?」
「おかしくはありませんよ。一応、幸那様に対する印象を纏めたアンケートの結果では、『近寄りがたい』や『神々しい』が上位に入っていましたから。気軽に話し掛けられない存在として皆に認識されているのでしょう」
「そんなアンケートいつ取ったの!? というか、そのイメージのせいで私は未だにクラスでボッチなんですけど!?」
幸那様の嘆きも分からないではありませんが、幸那様が積極的に人と関わるようなことはなるべく避けて欲しいところです。
……何せ、私という前例がいるのですから。
まぁ、私の経緯についてはいずれ話す事もあるでしょう。今はそんな事よりも幸那様です。
「幸那様には私がいるじゃないですか」
「それも色んな人に引かれる要因じゃないかな!? 同じ学校の同じ学年に私専属のメイドがいるって、どう考えても普通じゃないよね!?」
「そうですね。私なら引きます」
「やっぱり!」
「ですが、事実ですのでどうしようもありません。大丈夫です。私もクラスでは少し同情の視線を受けておりますが、幸那様のことを思えば痛痒も感じません」
「それって、ひっそりと迷惑被ってるって言ってるよねぇ!?」
襟首を持たれてがっくんがっくんと頭を振られる私。
おっと、勢いでお弁当の中身が偏ってしまうのは防がねば。
やがて落ち着いたのか、幸那様は私の襟首をお放しになられました。
気が済んだのであれば、お弁当にしましょうか。
私は何事も無かったかのようにビニールシートを広げ、そこにお弁当を準備し始めます。
「カスミンって冷静沈着だよね……」
「大体のことを『幸那様だから』で処理出来るようになってから、大抵の事では感情が揺さぶられなくなりました」
「私のせい!? 私のせいなの!?」
「ふふっ、それよりも早く頂きましょう。今日は幸那様の大好きな玉子焼きがあるんですよ?」
「誤魔化された!? でも、玉子焼き好きだから、まぁいいや!」
幸那様のそういう単……いえ、素直なところは好きですよ?
それにしても、幸那様は学園の中では誰もが触れられぬ高嶺の花であり、孤高の存在と認識されている為か、一般生徒たちの間では氷陰学園の女王……氷の女王なんて呼ばれておりますが……。
今の素顔を知ったら皆様は一体どのようにお思いになられるのでしょうか?
非常に気になるところではありますが、幸那様の素顔は私だけのもの――。
その特別を一時の悪戯心に負けて失くしてしまうなんて愚の骨頂以外の何物でもありません。
「なに? なんかカスミン機嫌良くない? 何か良いことでもあった?」
「いえ、幸那様が相変わらず可愛いらしいなぁと思って微笑んでおりました」
「はぅ!? い、いや、そういうの女の子同士でも言っちゃ駄目だからね!?」
「可愛いものは可愛いので仕方ないでしょう」
「カスミンが照れさせてくる! カスミンの意地悪!」
はぁ……。
頬を染めてプルプルしている幸那様が見れて、個人的にはお腹いっぱいです。
それでもお弁当は食べるんですけどね。
もぐもぐ。うん。
今日の玉子焼きも甘くて美味しいですね。
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