幼馴染は不遇職!

紀ノ光

悲劇は連鎖する

-7/31-

パァッン!


曇天と喪服に囲まれたまるで祭壇の様な空間


一面に響き渡った火薬が炸裂した様な音


口火を切ったかの様に我先にと個性アイデンティティを無くさんと


降り注ぎ出す水分子の旅団群。


僕は怒りと衝動に身を委ね口走った。


「お前の顔なんてっ...もう...見たくないんだよっ!僕の前から消えてくれっ!」


全てを押し流す程の雨水の奔流すらかち割り

空間を揺るがした叫び。


目の前の幼馴染かのじょは...ただ、た


だ、産まれたての小鹿の様に、打ち震えるしか無かった。


頬には美しい紅葉が一葉。


茹だる夏のまにまに飛んできた村雨は全てを


見通している様で気に食わなかった。





 針金虫に操られるようにまた一歩足を進める。足取りは鉛のように重く、時間は無限に引き延ばされる。篠突く雨に穴を開けられた心から周囲を覗く。


 周囲は蠢く黒と花に囲まれている。そこに響くのはくぐもった経と金属のすすり泣く声、同級生の悲喜交交ひきこもごもな感情を乗せた音。そして、今日を歴史に刻まんとする豪雨の音色。


 不協和音は仮初かりそめ鎮魂歌レクイエムにすら成れずにいる。一つだけ鳴ることのない僕は、何処か自分だけが別の世界に立っているような気にすらさせる。


 亀を追うアキレウスのように現実に永遠に追いつけない自分が、


とても、とても、とてもとてもとても、


嫌だった、殺してしまいたい、と。




時とは無常である。


 そうしているうちに僕を先頭に流していく。彼女あいつには似合わない程色取り取りの花が刺さった檀の上方にアウラの無い彼女の笑顔。下を見れば、彼女のレプリカを硝子越しに望むことができた。


 前に彼女の綺麗な顔を見た時も硝子越しだった。とんだ茶番だ。酷い皮肉だ。シリコンのような白い肌は蝋人形を彷彿とさせ、揃えられた艶やかな黒髪は、夜の帷が降りたようで。深淵を覗くが如く澄み切った目をした彼女の母親いぞくへ一礼。


 姉を失った彼女の気持ちに同情することは許されない。


 それは、僕の罪となる。彼女と周囲からの目線が、僕をスポンジのようにする。


哀れみ、同情、嫉妬、怒り、侮蔑、猜疑


 それらを乗せた視線が、乾き切った体に染み渡っていき、僕の体を重くする。鉛から鉄へ、鉄からウランへと。スポンジに浸食した液体を絞り出すような治療は叶うことなく。ひとつまみの木屑が、彼女の骨粉のように感じて指の隙間から零れ落ちていく。


 焼香台から額まで僅か60センチ。


 量子のように不安定な手はこの距離ですらまともに動くことが出来ないのか。あの夜の距離はこんなものでは無かった。香炉の上には彼女への罪悪感、其の一片が佇むに至った。


 合掌


振り返って遺族へ一礼、目線が一瞬平行を築くも繋がる線は互いに±拒絶を含蓄し、僕の線はいとも容易く薙ぎ払われた。


 突き飛ばされた視線は次の獲物を探すかのように黒服の森を彷徨う。そして、幼馴染にフォーカスを合わせた。狼に怯える兎は頬を赤にし逃げ去る。


 当然の報いだと思う。


 僕はそれだけのことをしでかしたのだ。転がりだした球は止まることなく下り続け、沈みだした少女は浮上することなく落ちていくように、


この物語は、止まることはない。



僕達は、やり直したい。



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