「な?」


「うん。私も指環外すべきだったわ」


 彼は、四人でまた集まるってなったとき、指環を外したほうがいいとアドバイスしてきた。四人が四人、全員幸せになっているとは限らない。どうせその場だけの関係なのだから、わたしと彼の関係は隠しておくべき。

 そういう話だったけど、わたしは彼のものなので、指環はつけたまま行った。彼は外した。

 そして、彼の読みが大的中してた。ひとりは仕事人間になっちゃってて、スーツだった。ひとりは、あやしい壺をうりつけるやばい人になっちゃってた。あんなところでわたしと彼が結婚してるなんて言ったら、どうなったことか。


「指環をつけなおしましょうか、あなたさま」


「ええ、よろしくってよ」


 彼が左手を差し出す。そこに、指環をはめる。

 わたしの人生は、はじまった。今でも、昔のことを思い出すと、身体も心もよく分からなくなる。幸せがなんなのか、収集つかなくなる。その度に、彼がわたしを抱きしめてくれるから。まだなんとか引き留められている。

 いつか。

 昔のことを思い出さない、幸せなわたしになりたい。

 彼の隣にいることで、彼が好きで、それを求めるわたしでいたい。これからもずっと。

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