第112話

 映画館の廊下を早歩きで進み、トイレの個室へと駆け込んだ。

 蓋は閉めたまま便座に腰掛け、ふうと息をつく。

 大はしません。するはずがございません。

 俺は用を済ましに来たわけではなく、気が休まらないから休憩しに来ただけなのです。

 両隣に美人を侍らせてソファに座ることの気まずいこと気まずいこと。

 劇場へ入ってきた人たちが、こちらを見てギョッとするんだよ。あの席後ろの方にあるから、目につきやすいから。

 気にせず堂々としていればいいのかもしれないけども、ただでさえ学校ではずっと気を張っているのだ。休日のプライベートくらいはなるべく素のままでいたい。

 姉さんは言わずもがな、昔からウチに来ることが多かった莉々先輩も、俺が周りから言われているほど身も心も立派ではないことは気づいている感じがするし。

 ほら、たまに意味深なこと言ってくるし。

 こうしてゲーム原作の映画に誘ってくる辺りも故意犯な気がするんだよね。逆を言えば、知られているからこそ気を抜いてもいいと開き直ってしまえるんだけどね。


「……で、……」

「あー……じゃね……」


 個室の外から、ワイワイと話す男性の声が聞こえてくる。少し軽そうな感じがする若い男性の声だ。友達同士かな。

 気軽に友達と遊びに行けるって羨ましいな。

 はあ……。

 下を向いて溜息。


「ん?」


 ふと、個室の隅に一輪の花が咲いているのを見つけた。

 見間違いかと目を擦り、もう一度見る。

 花弁が白くて、コスモスとパンジーを足して二で割ったような花が、確かに咲いている。

 え、ここ思い切り屋内なんですけど。

 たんぽぽとかコンクリートを突き破って咲くこともあると効くけど、これも何かの間違いで芽吹いたのかしら。

 そんなことある?

 いやいや、ここ思いきり商業施設なんですけど。


「……」


 まさかね。

 おっと。そろそろ戻らないと。

 あまり長居していると、後で姉さんたちから「恥ずかしがらず大きい方って言えばいいのに」とか揶揄われるに決まってる。

 映画の前に差し込まれる番宣映像とか、映画ドロボーの映像も観たいし。

 上映前のあれを、ぼーっと見る時間が、意外と好きだったりする。

 さて、戻ろう。

 立ち上がって、扉に手をかけようとした、その時。


「さっき入口にいた二人組のお嬢様たち、お近づきになりたいよなあ」


 外にいた男たちの話題が、姉さんと莉々先輩のことと思われる内容に移ったので、思わず手を引っ込める。

 今出たら気まずいな。

 彼らがトイレを出るまで、扉に耳を当てて外の会話を盗み聞きすることにした。

 側から見たら変人だ。いや、側から見なくても変人である。

 早く用を済ませて〜。


「……」


 じっと聞き耳を立てて話を聞いていると、やはり彼らの会話は姉さんたちのことだったようだ。好みのタイプだから何とかしてお近づきになりたいと思っているようだ。

 やめておいた方がいいと思うけどな。

 こういう人たちは、正直に言って多い。

 そのため、二人ともそのような手合いをあしらうのは慣れているから、まず相手にはされないだろう。

 それに、当然ながらいちいち相手するのも大変みたいだし。


「やめておいた方がいいと思うけどなあ……」


 そっと呟く。

 というか。

 漏れ聞こえる内容から察するに、この人たち、彼女たちと一緒に俺もいたことには気づいていないのですか?

 我ながら影の薄さが憎いよ。

 隣だよ?

 それとも、男はアウトオブ眼中ってこと?

 どちらにせよ、まともに認識されていないのなら、変に気を遣わずさっさと個室を出ちゃえばよかった。


「はあ……」


 二人組の気配がなくなってから、扉を開けた俺はそっと溜息をついたのだった。

 

 劇場へ戻ると、案の定、莉々先輩から揶揄いめいた言葉をかけられたものの、すでに番宣映像が流れ始めていたので、二、三言会話を交わすと、シアターの方に自然と向き直っていった。

 ふう。

 俺も映画に集中しよう。

 …………。

 ………………。

 そして、


「……はあ〜、そういうことだったのか〜」

 

 エンドロールが流れ始めたところで、俺は思わず感嘆の息を漏らした。


「中々練られた設定だったわね、面白かったわ」

「ですよね!」


 姉さんの言葉に大きく頷く。

 初めこそ普通の学園ものかと思いきや、徐々に世界設定の歪みが見えてくるところは原作やアニメと同じで、迫り来る怖さを感じるところだ。

 しかし、序盤の謎だったり、とあるキャラの行動の理由について、後半明らかになる流れの綺麗さであったり、細かい伏線の回収方法が巧妙であり、段々と怖さより続きが気になっていってしまった。

 ラストなんか、実写独自の展開とは思えないほど説得力のあるカタルシスを展開しつつ、役者の演技力に引っ張られる形で、思わずこちらもうるっときてしまった。


「死体役の方も頑張っていましたわね。一度長尺でアップのタイミングがありましたけれど、あれだけ瞬きもせず、目線を動かずにいられるのは流石ですわ」

「どこを見てるんですか、どこを」


 ストーリーを見ましょうよ。

 隣で呟く莉々先輩に突っ込みを入れながら、しかし俺はまだ作品の余韻にどっぷりと浸っていた。

 ……はあ。この高揚感がたまらない。

 DVDが出たら買おう。

 家でも見よう。

 

 スタッフロールが流れ終わると、劇場内は静かに明るくなっていった。

 席を立つ。


「姉さん」

「何?」


 映画の感動が冷めやらぬので、どこかでお茶でもしながら感想を話したいと提案した。


「まあ! 私もちょうど同じことを思っておりましたのよ」

「莉々も? まあいいけど……」


 ノリノリの莉々先輩とは対照的に姉さんは帰りたそうにしていたが、俺たちの様子を見て、渋々首を縦に振ってくれた。


「ありがとうございます!」

「ふふ、楽しみですわね。……あら」


 ふと、莉々先輩が何かに気づいたような表情を作る。そして、


「……私、少し寄りたいところがありますので、劇場のロビーで待ち合わせましょうか」

「え?」


 寄りたいところ。

 ああ、お手洗いか。

 深く追及しないのがマナーですね。


「……莉々、程々にね」

「ふふふ」


 と思ったけど、姉さんの反応を見るに違うよね、これ。何だろう。

 

「あの、姉さん」

「ん?」

「莉々先輩はどこへ?」

「貴方、女性にそういうことを聞くのはデリカシーがないわよ」


 軽くあしらわれてしまった。

 単にお花を摘みに行っただけ?

 俺の考えすぎだろうか。

 どちらにせよ、これ以上は聞いても教えてもらえないだろうから、不敵に笑う莉々先輩を置いて、俺たち姉弟はロビーへと戻ってきた。

 ……。

 そういえば、上映前にトイレへと逃げた時に用を足すのを忘れていた。

 いけません。

 こういう時、一度それを認識してしまうと、余計に意識してしまい催してくるんだよね。

 いけない。本格的に催してきた。

 コーラの飲み過ぎかしら。

 あ、そうだ。

 ついでに物販エリアも覗いてみよう。

 映画のパンフレット買いたい。

 姉さんはどうせ「私はいいわ」と言うだろうし。


「姉さん、パンフとかグッズを買いたいから売店行ってくるね」

「……そう。私はベンチで待っているから、気をつけていってらっしゃい」


 予想通りの反応。

 上映中に盗み見た限り、映画自体は楽しんでいるように見えたんだけどね。まあ観たら満足という人もいるし、俺みたくパンフレットを見て今一度余韻に浸りたい人もいる。

 人それぞれってことね。

 では、俺はまずはパンフレットを買いに行こうっと。


 物販コーナーは、中々に魅力的だった。

 あれもこれも欲しいなあ。でも、そろそろ我慢の限界だ。あまり迷っている暇はない。

 俺は、気になったものを手当たり次第に買い込み、体内の風船が爆発する前にお手洗いへとダッシュするのだった。

 映画館はありがたいことにお手洗いが複数あることが多い。ここも例に漏れず、複数あるようだったが、売店からだとシアター近くのお手洗いが近いようだ。

 劇場入口の案内員さんに半券を見せてお願いすると、ありがたいことにすんなり通してもらえたので、俺はさっきまで映画を観ていた劇場の近くにあるトイレへとやってきた。

 すると、


「——。——」

「——」


 トイレの方から男女の話し声が聞こえてくる。

 イヤな予感。

 近くの壁に身を隠し、頭だけそっと出して様子を伺うと、トイレの前で三人の男女が何やら話している。

 女性は莉々先輩、残る二人組の男性は……顔に見覚えがないので、まあナンパでしょう。

 気持ち的にはトイレへ一目散に向かいたいけど、穏やかではない空気を察知したので、出るに出られず隠れています。

 うう、お腹が痛い。

 こんなところでナンパしないでほしい。迷惑がかかるじゃない、俺に。

 他愛もない内容なら、「何話してるんですか〜」って行けるんだけどね。

 壁越しにずりずり近寄ってみると、ちょっとだけ声も近くなった。


「——」

「……すから、……遠慮いたし……」


 うん、やっぱり穏やかな内容ではない。

 状況からして、莉々先輩がお誘いを断っても懲りずに食い下がっているという構図だろう。


「——?」

「……の後は生憎……用事がありますので」

「——」


 側から見て、莉々先輩は取り付く島もない様子だけど、男性側は押せばいけると思っているのだろうか。

 一度断られた時点で、引いておいた方がいいと思うなあ。

 莉々先輩は、怒らせたら怖いよ。

 加えて、もう一つ。


「……うう」


 用を足したいんですよ、俺。

 ショップで諸々買い込んだ辺りまでは余裕だったのだが、今は結構限界が近い。買ったグッズを持っているのも辛いくらいだ。

 それにしても、話終わらないな……。

 今から引き返して違うトイレへ行くのもありかもしれないけど、混んでいたら詰む。

 二重の意味で詰む。

 ああ、いけません。辛すぎます。

 もう無理。とりあえずトイレに駆け込む。

 その後で、莉々先輩に加勢しましょう。そうしましょう。


「うおお……」


 俺は競歩(思わず歩き出しと同時に敵と対峙する主人公みたいな声が出ましたけど、それくらいに必死であることをご理解ください)で目的地へ向かった。


「あら? 咲也さん。先に行っていてと言いましたのに〜」


 そして、そんな俺の心中などお構いなしに、あっさりと莉々先輩から呼び止められてしまった。


「ちょ、ちょっとお手洗いにですね……」

 

 正直に事情を説明する。

 嘘つく必要ないし、そもそもこの人に嘘ついてもすぐにバレてしまうし。


「それは大変でしたわね〜」

「先輩こそ、この方たちは?」

「知らない方ですわ」


 念のため尋ねると、そう言って首を傾げた。のほほんとしている。

 男たちは突然現れた俺に困惑と不審な視線を送っている。男の連れがいたのか、という感じだ。

 片方が、俺のことを指差して「弟?」と尋ねた。人のことを指差すんじゃないよ。


「弟……」


 莉々先輩は、少し考え込む。

 弟ではないけど、この場を無難にやり過ごすなら、連れがいるという体にするのが楽だし、そういうことにしておいた方が良い気はする。

 よし、それでいきましょう。

 莉々先輩へアイコンタクトを送る。

 しかし、


「まさか、この方は私の婚約者ですわ」

「ええええ!?」


 すごい爆弾を投下された。

 おまけにさりげなく腕を組まれた。

 どういうこと!?

 案の定、男性たちも固まってしまっている。

 莉々先輩は、あまりにも普段通りの姿勢を崩すことなくいるものだから驚きだ。

 かくいう俺が「実は先輩と婚約してたんだっけ?」と一瞬思ってしまったくらいだ。

 冗談です。

 ふと固まっていた二人組が我に返ったようで、途端に俺のことを値踏みするようにジロジロと眺め始める。やがて、納得いかないというように疑いの言葉を先輩へ投げかけた。

 そんなに納得いかないかな。

 ちょっとショック。

 自分で言うのも何だけど、顔は悪くないと思うんですけどね。


「ええ、本当ですわ。昔からずっと一緒にいましたし、お互いのこともよく分かっておりますから」

「——?」

「こう見えて、すごい方ですのよ」


 関係を疑って止まない男性から、次々と質問をかけられ、それに平然と答える莉々先輩。

 婚約者であるということ以外に嘘は言ってないとはいえ、よくもまあ、ここまでスラスラと話が出来ると感心する。


「時折奇妙な行動をとったり、変に小心者であったり、行動が読めないので、見ていてとても面白い方なのです」


 余計なお世話だよ。

 あんまり褒めてなくない?

 すると、


「……でも、昔から困っている方がいると放っておけない、助けようとするお人好しで、そんな真剣な一面に心惹かれることがあるのですわ」


 莉々先輩……俺のことをそういう風に見てくれていたのか。

 たとえ、ナンパ男たちを追い払うための方便だとしても、ここまで自分のことを見てくれている人がいると分かるのは嬉しい。

 勘違いしちゃいそう。

 いや、冗談です。

 ともあれ、ここまで言えば流石に諦めるだろうと思ったのだが、


「——!」


 残念ながら、そううまくはいかなかった。

 他人からすれば単なる惚気だし、ナンパしようとしていた人から延々とそんな話をされれば、あまり気分は良くならないだろう。

 勝手にナンパしようとしてきたわけだから、ご機嫌取る筋合いもないんだけどさ。

 難しいね。

 彼らは俺のことをすごい表情で見ながら悪態をついている。

 こいつのどこがいいんだと、まさに取って食わんとする勢いです。

 さすがに怖いな。

 恐怖のせいで尿意が限界に近いことを思い出してしまった。

 そうだよ、今の俺はナンパを邪魔しにきた婚約者でも何でもない。

 ただの破裂寸前の水風船だよ。

 勘弁して。

 

「……」


 辛い。辛すぎます。

 語気強めな男たちと、それに涼やかに返す莉々先輩の会話もろくに入らなくなってきた。

 俺は、つま先立ちでゆっくりと、トイレの中へ消えようと試みる。


「——?」


 だめでした。


「お手洗いに。ちょ、ちょっともう、限界なんで……」

「——」


 切実に訴えたつもりだったが、かえって火に油を注いでしまったらしい。

 何でよ。

 トイレくらい行かせてよ。

 そちらの気持ちは分かる。

 ナンパしたらすでに婚約者(大嘘)がいて、しかもそいつが急に現れた上に「おしっこ行きたい」と言い出せば、煽っているようにしか聞こえない。

 でも、こちらの尿意もガチなのだ。

 通してくれないかな。ダメか。


「——!」


 ダメそうだ。

 しびれを切らした片割れが、俺の肩を掴もうと手を伸ばしてきた。

 しかし、


「……何をしていますの?」


 冷めた声と同時に、その腕は動きをピタリ止める。


「——」


 彼の腕には、莉々先輩の身体から伸びる「花」——色鮮やかな薔薇がびっしりと巻き付いていた。


「——?」


 何が起こったのか分からない、という顔で男性は固まっている。

 しかし、


「人様の婚約者に手を出そうだなんて……」


 彼女から伸びる「花」が、男の腕をぎちぎちと締め付けていく。薔薇の棘が食い込んで、見るからに痛そうだ。

 莉々先輩は、おもむろに彼に近づくと、今までに聞いたことのないくらい冷たい声色で囁く。


「お行儀が悪いですわよ?」


 ……。

 …………。

 ………………。


「……遅いわよ、二人とも」


 ロビーに戻るや、ジトっと非難めいた視線を姉さんから向けられてしまった。


「というか、咲也はお土産を買いに行ったはずなのに、どうして莉々と一緒に戻ってくるのよ」

「いやあ……」


 お手洗いに行きたかっただけなんですけどね。

 姉さんに事情を説明というか、弁解すると、「本当に大人しくしていられないのだから、困った子ね」と溜息をつかれてしまった。

 ここまではいつものこと。


「莉々も、その気がないならナンパなんて相手にせずさっさと戻ってきなさいな」

「まあ、その気がないなんて失礼な」


 次に矛先が向けられた莉々先輩には、俺の時より一段低い声が投げかけられた。しかし、彼女はわざとらしく悲しそうな表情を作ると、


「何も話を聞かないのは失礼でしょう? 私もさすがに話だけは聞いてあげましてよ」

「……」


 姉さんは黙ってしまった。

 頭が痛いとばかりに顔を歪めている。

 普通は、早々に興味ないと伝えてその場を後にする方が、無用なやりとりをしなくて済む。

 でも、この人は違う。

 浮世離れしているのもあるけど、莉々先輩には他人に絡まれても能力でねじ伏せられるだけの力がある。だからこそ、今回のように声をかけられたら「聞くだけ聞く」という選択をするのだ。

 「花」の能力。

 本人から昔聞いたのは、能力の名前と「花を咲かせることができる」ということだけ。

 彼女は原作に出てこないから、能力の詳細は本人の話以外に知る術はないけれど、名前の可憐さに比して、恐ろしいほど強い。

 綺麗な花には棘がある——そんな諺を地でいくのが、思川莉々という人なのだ。

 姉さんは少し間を空けてから、


「……何だか、疲れたわね。どこかでお茶でも飲みたいわ」


 と、一人先に行ってしまった。

 姉さんも苦労しているなあ。

 普段の生徒会役員として仕事をしている時も果たしてこんな感じなのだろうか。

 俺と莉々先輩は、彼女の後ろを追いかける。

 途中、


「そういえば」

 

 先輩が申し訳なさそうに口を開いた。


「先程は、ごめんなさい。変なことに巻き込んでしまったし、婚約者というのもご迷惑だったでしょう……」

「そんなことないですよ」


 事情が事情だしね。

 相手方を納得させるための方便だったわけだし、気にする理由がない。

 むしろ、俺が頼りなさげだから、彼らにも「本当か?」と疑いを持たれたのだろうし、そこは逆に申し訳なかったとすら思う。

 そんなことを伝えると、


「お優しいわね。輝夜とそっくり」

「姉さんと?」

「ええ」


 俺はあんなに真面目ではないけど。


「真面目かどうかではないの。ありのままの私と仲良くしてくれるのが、とても嬉しいのよ」


 と、存外に優しい視線を彼女から向けられて、思わず照れてしまう。

 そんな俺に、莉々先輩はさらに追い討ちをかけるようなことを言ってきた。


「咲也さんとなら、私はあの話、嘘じゃなくても構わないのよ?」

「へ?」


 それって……。

 思わず顔をあげると、彼女と目が合う。

 いたずらっぽく微笑む莉々先輩の表情からは、それが冗談なのか、そうでないのかは分からない。


「さ、輝夜が怒りますから、行きましょう」

「あ、せ、先輩待って……」


 それから、彼女がその話題に触れることはなく、俺は隣から香る甘い甘い桃の匂いに鼻をくすぐられながら、姉さんの元へ向かうのだった。

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