第82話 夢

 その日は、久方ぶりに「前世」の時の夢を見た。

 俺が入院していたのは、それなりに栄えた地方都市の中心部にそびえ建つ総合病院だった。

 部屋には俺の他に三人いて、年齢はバラバラだけど、何となく病気の内容は似ているような人達だった。

 入院期間が長引くほど、他の患者とも顔見知りになって、話す機会も増えていった。

 周りの大人達にはよくしてもらったよ。

 何せ、患者の中でも、俺はかなり若かったから、大層珍しかっただろうと思う。若くして長期入院となっている俺を不憫に思ったのかもしれない。

 おかげ様というべきか、同室になることが多かったおじいさんやおばさんからはよくお菓子や物をもらったりして、可愛がってもらったものだ。本当はそういうやり取りっていけないことだったんだけど、病棟の看護師さんも見逃してくれていた。

 そんな状況だったものだから、あの時の俺は、同い年の子達よりも、どちらかというと歳の離れた大人と話すことの方が多かった。

 だから、歳の近い子。特に異性の子とは何を話せばいいのかわからなくなるのだ。

 とはいえ、たまに小さい子が入院してくる時は、決まって歳の近い俺が病院のことを教えてあげていたっけ。

 ある子はめでたく退院していったけど、違うある子は、容体が急変してしまって、そのまま戻ってこなかった。

 そんな時は、俺も突然逝ってしまうのかなって、そう考えて夜眠れなくなった。

 やっぱり死ぬのは怖かったんだ。

 それでも、ゲームをする時は、何も考えず無になって集中することが出来た。特に「のノア」は、俺を辛い現実を忘れさせてくれたのだ。

 だから、俺がこの世界にやって来て、「治癒」の能力を持つ明前咲也として暮らしていくことになったのは、決して偶然じゃないと思う。

 いつだったか、そう思ったのを覚えている。

 というか、この世界にクリアとかエンディングといった概念ってあるのかしら。

 ——そんな、詮のないことを考え始めたところで、目が覚めた。

 見慣れた光景。

 明前咲也の部屋だった。

 俺は微かな寂しさを覚えつつ、ベッドから出るのだった。

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