第50話

 年も明けて、春休みに入った。

 いよいよ、姉様の卒業式の日までもうすぐだ。

 式では、姉様が卒業生代表として答辞を読むことに決まったため、時折登校しては先生達との打合せを重ねていた。

 俺はというと、生徒会選別メンバーとして卒業式には参加をする予定だ。一般生徒は、五年生のみ在校生代表として式に参加することになっており、それ以外の学年は春休み中だから登校がない。しかし、初等部の生徒会メンバーは、学年に関係なく参加する決まりとなっている。

 というわけで、俺は在校生ではなく、生徒会という立場から卒業式に参加する予定なのだ。

 今日は、午前のうちに贔屓にしている花屋に連絡し、卒業式で姉様に渡す花束の内容についての打ち合わせをしていた。が、思ったより早く終わったため、手持ち無沙汰になくなってしまった。

 リビングで溜めてたアニメでも見るかと思い、自室を出る。


「あら、咲也さん。どうしたの?」

「母様」


 ソファに座って母様が雑誌を読んでいた。


「アニメでも見ようと思いまして」

「そうなの。私もいて大丈夫?」

「もちろんです」


 母様の隣に一人分開けて座り、テレビのリモコンを操作して録画したアニメを再生する。

 ちなみに、見ようとしているのは人気の少年漫画がアニメ化したもので、平日の夕方にやっているため、俺は習い事で見れないのだ。だから、毎週録画して休みの日に消化している。

 アニメとはいえ、漫画と同様で少年漫画が原作のものならば許容されている。多分、これが深夜アニメみたいに美少女のたくさん出る作品になると、父様は許可しないだろうな。

 中等部の入学祝いに自室様のテレビと録画用のレコーダー買ってもらおうかなあ。言えば、いつでも買ってもらえるんだろうけど。

 そういえば、姉様の入学祝いはどうしようかな。花は無事に予約することが出来たけど、贈り物はまだ買っていないのだ。

 目星はつけているけどね。後で、母様にも相談してみようかな。

 と、アニメ本編が始まったので、見るのに集中する。

 七つの玉を集める某有名作品にどことなく似たそのアニメを、ぼーっと三十分見終わると、


「咲也さんはアニメとか漫画が好きね」


 母様が訪ねてきた。終わるまで話しかけるのを待ってくれていたのだろう。

 こういうさりげない気配りが出来る人だから、俺は彼女のことをとても尊敬している。


「男の子ですから」

「学園の子達も見ているのかしら?」

「えっ」


 分からないです。

 義弥とかそっち方面は全く興味ないし、桜川も関心があるのはギャルゲーだけで、アニメなんかは見ないみたいだし。


「多分見ていると思いますが、話題にはあまり出ませんね」

「そう。ちょっと寂しいわね」


 俺もそう思います。

 そういう意味では、桜川が熱中する趣味の話を誰かとしたがる気持ちはよく分かる。

 ギャルゲーだけどね。

 

「あの、母様」

「ん? なあに?」

「相談したいことがありまして」

「どうしたの? 好きな子でも出来た?」

「違います!」


 真顔で言わないでほしい。

 俺が慌てて首を横に振ると、母様はいたずらっぽく笑った。


「それは残念ね。では、どうしたの?」

「……実は、姉様の卒業式で渡すお祝いの品をどうしようか迷っていまして」


 母様にも意見を聞いてみようと尋ねてみる。


「何と迷っているの?」

「ええと、文房具セットなんかいいかなと思っているのですが」


 消え物とかの方がいいかなとか、ハンカチとかどうかなとか、迷い始めるとどんどん深みにハマっていってしまった。


「あら、良いと思うわよ。文房具ならあって困ることもないし、たしかあの子、まだノートとかは新しいものを買っていなかったと思うわ」

「本当ですか! 良いことを聞きました。なら、それに決めてしまおうと思います」


 母様に聞いてよかった。というか、最初から聞いておけばよかった。

 すんなりと決まってホッと息を吐く。


「ふふ。そんなに悩まなくても、輝夜さんは咲也さんからの贈り物ならなんでも喜ぶと思うわよ」

「そうですかね?」


 あのクールな姉様が喜ぶ姿というのが、あまり想像出来ないなあ。

 しかし、母様は満面の笑みを湛えて頷いた。


「そうよ。だって、あの子咲也さんのこと大好きだもの」

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