第45話
親切心で双子の正体を綾小路君に一から教えてあげたのだけど、なぜか苦笑いを浮かべながら「友人を待たせているので、僕はこれで」とそそくさ立ち去っていってしまった。
あれ、漁夫の利は?
結局、ポツンと俺達三人が残された。
「やりましたわね」
「やってくれたね」
双子からジトっと目線を向けられる。
……場を白けさせたのは悪かったよ。だって、二人ばかりちやほやされて羨ましかったものですから。
「ごめんなさいでした」
秒で謝りました。所詮心は小市民。
気を取り直して、俺は真冬を探しにいくことにした。雨林院姉妹を探しにいくと言ったら、意味深にニヤニヤされたが、無視しておいた。
俺だって、命の危険さえなければ……。
「……」
なければ、どうなのだろう。
彼女とは、関わらないようにしたのだろうか。いやあ、この調子だとなんだかんだで交流は生まれたと思うんだよね。
後悔はしていないけどさ。こうして親しくなってみると、主人公パーティのメンバーだけあって良い奴ばかりだ。となると、そいつらが明確な悪意を向けるくらいのことを俺は原作ではしてきたということか。
ぞくっとした。
間違えないようにしないと。
「すごいね、相変わらず」
ふと、隣の義弥が言った。
その視線の先には、男子の群がる一角があった。
「あそこまでだと、もはや嫉妬すら起きませんわね」
亜梨沙は、塊を見てげんなりとしている。
多分、あの中心に雨林院姉妹がいるはずだ。
孤高の存在として遠巻きに人気を集める亜梨沙と異なり、希空と真冬は美人姉妹という属性に加えて、人当たりがいいこともあり、こういうパーティーでは何とかお近づきになろうとする同世代の男子が絶えなかった。
「義弥、あの中入って二人を呼んできてくれよ」
「冗談でしょ。僕には無理。むしろ咲也が行ったら一発だよ」
「そんなわけないだろ。俺だってあそこに行くのは怖いよ」
「大丈夫。彼らも咲也のことを怖いと思ってるからね」
「えっ」
そう思われてるの?
生徒会の人達は挨拶もするし、先輩方のグループにお邪魔して、お話をさせていただくこともあったんだけどなあ。
「あ、勘違いしてるみたいだけど、彼らが怖いと思っているのは、真冬さんのことが絡んだ時の咲也だから」
「何ですと?」
まさかとは思うけど、真冬とあまり親しくしていると、彼女を狙っている俺から何か報復でも受けるとでも思ってるのか。
いや、狙ってないけどね。
そう見えるのは仕方のないことだとは思うけど。
「だって、真冬さんが他の生徒会メンバーと話しているのを見かけた時の咲也、すごい顔してるよ」
「はあ!?」
そんなことないって。
つい大声を出してしまう。
けれど、義弥は構わずに続ける。
「今更じゃない。周りも言ってるよ。咲也は真冬さんに首ったけだって」
「ええ!?」
姉様が四年の間で有名な話と言っていたけど、やっぱり三年でもそういうことになっているんだ。
と、心の中で嘆いていたら、俺の大声に気づいたらしい人混みが、さっと横に分かれた。
「ん?」
「さすが咲也。何も喋ってないのに皆退いてくれたよ」
「俺、本当に何もしてないのに……」
ちょっとショック。
でも、群衆が分断されたことで、その中心にいた姉妹がはっきりと俺からも見えるようなになった。
「あら、咲也様」
希空が、真冬の腕を取り、男子達で出来た道を通って俺達のところまでやってきた。
「亜梨沙様に義弥様も、あけましておめでとうございます」
「やあ、希空さんと真冬さん。あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「おめでとう。希空、真冬。こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
希空と銀水兄妹が、それぞれ新年の挨拶を交わす。俺も、挨拶を希空に返してから、真冬の方へ体を向けた。
「あけましておめでとう、真冬さん」
「こちらこそ。あけましておめでとうございます。咲也先輩」
にこりと真冬が微笑む。
初対面だった頃に比べ、最近は表情も明るく、姉に負けないくらい煌めいているように思う。だから、姉共々あんなにも男子生徒に囲まれるのだろう。
「真冬さんは、年越しを日本でしたの?」
「ええ。お爺様の家のある長野へ行っていました」
「へえ。長野は寒かったんじゃない?」
「寒かったですよ。ずっと部屋の中で本を読んでいました」
「奇遇だね。俺もずっとこたつの中で本を読んでいたよ」
俺のは漫画だけどね。
少し見栄を張りました。真冬は当然、そんなことには気づいていないようだった。
「メールでもお聞きしていますけど、咲也先輩も読書がお好きなようで嬉しいです。今はまっている作品があったら、是非教えていただきたいです」
「え、ああ。うん、今度ね」
やばい。
メールなら調べながら返せるから、小説たくさん読みますアピールしちゃってるんですよね。見栄を張りすぎたと反省してるけど、すごく話弾むし、小説の話すると嬉しそうに話してくれるんですもの。
どうやって誤魔化すか焦っていると、不意に真冬はその表情を曇らせてしまった。
「……あの、咲也先輩は私と小説の話をしていて、楽しいですか?」
「え?!」
なぜ?!
「私、いつも話してばかりで、咲也先輩に本を一方的にオススメしてばかりですから、嫌に思ってないかなって」
「ええ!? そんなことないよ!」
そんなこと思うわけないじゃない!
いつも話していてすごく楽しいよ!
「真冬さんから話をたくさんしてくれるのは、とても嬉しいよ!」
「本当ですか?」
「本当だよ。俺は、真冬さん以外とこんなに会話続かないんだから」
必死に真冬へ話していて楽しいとアピールする。自分で言っていて悲しくなるけど、なりふり構ってられるものか。
彼女に闇堕ちされたら困るのだ。
あれよあれよと褒めに褒めまくっていたら、ようやく真冬は笑顔に戻り、
「……えへへ。それなら嬉しいです」
何とか機嫌も治ったようだ。
ほっとするのも束の間、視線を感じて振り返ると、同級生三人がこちらをニヤニヤと見つめていた。
忘れてた。
その後、パーティー終了まで、俺は義弥と亜梨沙に左右からいじられることになったのだった。嫌なサラウンドだった。
特に、亜梨沙さん。少し当たりが強くありませんか?
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