第38話

 庶民ツアー初回は、駄菓子の試食会をすることにした。たこ焼きやお好み焼きみたいな自分たちで作る系のものは、さすがにやめておきました。

 今、父様に目をつけられるとヤバそうだからね。

 さて、次に駄菓子の調達だが、これは少し大変だった。俺自身、習い事とかを除いて一人での外出は認められていないし、習い事も行き帰りは送迎があるからどこかに寄り道は出来ない。

 それならどうするか。

 俺は、姉様を買収した。

 意外にもあっさりだったのは気になったけど、作戦はこうだ。

 文房具の買い物に行くため、姉様同行の元、外出の許可をもらう。

 いつも行くデパートの駐車場に車を止めてもらうが、僕たちだけで行くからと使用人には車の中で待機していてもらい、そのまま近くにあるコンビニにこっそり行く。

 そこで文房具と駄菓子を購入し、何食わぬ顔でデパート地下の駐車場へ戻る。

 完璧である。

 隠しても仕方ないので、事情を全て話して協力を仰ぐと、


「私は何を見返りにもらえるの?」


 そう姉様から質問された。ここまでは想定内。何せ、姉様だって共犯になってしまうわけだから、見返りを求めるのは当然のことだ。

 だから、俺は一枚の紙を差し出した。


「これはなあに?」

「俺を一日自由に出来る券です!」

「ええ……?」


 俺は自分をダシに使った。


「手伝いでも、姉様の買い物の付き添いでも、犯罪以外なら何でもやりましょう!」

「あまりその券に価値を見出せないんだけど。咲也はいつも、言えば買い物についてきてくれるし、手伝いもしてくれるじゃない」

「げ。そう言われればそうですね」

「でしょ。だから私には協力する利がないわ」


 しかし、俺はボソリと呟くと、


「……ホラー映画」

「……莉々の件では騙すような真似をしてしまったからね。今回だけ、特別に協力してあげる」


 姉様はそう快く承諾してくれた。

 やったね。

 まあ、元々そんな子供騙しの券でついてきてもらおうなんて思っていなかった。もし、ごねられたら、姉様の言っていた通り、先日俺を騙したことをネタにお願いをするつもりだった。

 そういう意味では、借りを作れたので、口から泡を吹きそうになりながらもホラー映画を観た甲斐があったというものだ。

 というわけで、姉様の協力を取り付けた俺は、さっそく母様に外出の許可をもらいに行き、次の休日に姉様と出かける予定を立てた。

 

 当日、手はず通り駐車場で運転手には待っていてもらうようにし、俺と姉様はそっとデパートの入口から外に出て近所のコンビニへ入った。

 とりあえず口実として文具を買わなければならないが、これは後で。

 まずはお菓子コーナーへ向かう。

 本当なら駄菓子屋やスーパーの方が種類が多いのだけど、少し遠いのだ。駄菓子屋に至っては、閉業したお店も多いため、そもそも見つけるのが至難の業だ。

 しかし、幸いコンビニにも結構駄菓子が置いてあるということは、前世の経験から覚えていたので、そこでまとめ買いをすることに決めたのだ。

 一応、駄菓子の系統ごとに何回かに分けて紹介したいと思っているので、スナック系、甘味系、珍味系に分けて買うことにした。リュックに入れられる分しか買えないため、大きめの袋のものは買えないけどね。

 カゴにヒョイヒョイとたくさん入れている俺を、姉様は不思議そうに見つめていた。

 そうか、姉様もコンビニは初めてか。


「姉様も何か駄菓子を買って食べてみたらいかがですか?」

「……せっかくだから、買ってみようかな。咲也のオススメはあるの?」

「そうですね。姉様は手始めに、このフーセンガムとか酸っぱいグミとかはどうですか?」

「……何だか、随分詳しいのね」

「はい、社会に出るまでに経験できることはしておきたいと思い、調べましたので」

「ふうん。にしても、どれも安いわね」

「ターゲット層が子供ですからねえ」


 前世では、小学生の頃はまだ少しだけ仲の良いと呼べる友達がいたので、お見舞いに駄菓子を買ってきてくれたりしたのだ。おかげで、ある程度の知識はある。

 姉様と雑談をしながら、レジで支払いを終え、駄菓子の入ったビニール袋を自分のリュックの中にいそいそと詰める。

 そして、コッソリとデパートまで戻り、アリバイ工作のために、本屋兼文具屋のあるフロアへ向かい、あらかじめ決めていたペンとノートを購入した。

 よし。これで大丈夫。

 家につき、車から降りた俺はそう確信し、溜息をつく。

 しかし、甘かったのだ。

 リビングのソファに座っていた母様が俺を見つけると、


「咲也さん、おかえりなさい」

「ただいま、母様」

「あのね、色々やってみたいのは分かるけれど、あまりカロリーの高いものは食べすぎないようにね?」

「え?」


 何で? 何で知って……。

 にっこりと笑っている母様。姉様も笑顔が凍りついている。

 ということは、もしかして。


「運転手には、後ろからこっそりついていくよう行っているのよ。子供だけで買い物はまだ危ないですからね」


 やはりか。考えが甘かった。

 買ったお菓子の没収は免れたが、当面は下手なこと出来ないだろうな……。

 最近、身から錆が出まくってる気がする。

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