第30話

 今日は休日で、習い事も何も用事のない日だ。一日中ゆっくり家でゴロゴロしていようと思い、リビングのソファに横になって録画したアニメをぼーっと眺めていた。

 ちなみに、今日は父様も母様も用事で外出しており、家には俺と姉様しかいない。

 噂をすれば、姉様がやってきた。


「おはよう、咲也」

「姉様、おはようございます〜」

「ちょっと、だらしないわよ」


 ソファにグデーっと横になっている俺を見て、顔を顰められる。

 四年に進級した姉様は、身内贔屓かもしれないが、どんどん大人らしく綺麗になってきた。何でも、草の根レベルだがファンクラブまで出来ているらしい。

 生徒会室の中でも、存在感を放っていて、将来生徒会長になるのだろうと噂されている。何せ、あの亜梨沙が憧れているくらいだ。

 そんな姉がいるのはとても誇らしい。

 でもね、姉様。今日の俺は、のんべんだらりと過ごすことに決めたのです。いくら怒られようともね。

 というか、家なのに外行きのような格好をして、姉様はこれから出かけるのだろうか。


「はあ。今日は私の友人が遊びに来るんだから、もう少しピシッとしていなさいな」

「え!?」


 ソファから飛び起きる。

 出かけるんじゃなくて、家に来るのか。聞いてないよ、姉様!


「言ってなかった? じゃあ今言うけど、友人が遊びにくるわ」


 遅いよ!


「姉様の部屋で遊ぶんですよね?」

「いいえ、ここで映画を観る予定なの。私の部屋にはテレビがないから」


 ええ! 平日の夕方、習い事のせいで見れないアニメを消化するこの至福の時間が! というか部屋にテレビないのは俺も一緒ですよ!

 うちは超がつくお金持ちではあるけれど、父様も母様もあまりテレビを見ない人なので、置いてあるテレビは客用がメインで、居間、客間、書斎、あとは各階のリビングにあるくらいだ。多分、半分くらいは家に来る客用だと思う。

 それだけあれば十分だろと言われるかもしれないけど、この広い家に住んでると、少なく感じるんですよ。

 おまけに、俺は書斎と客間の立入禁止、二階の居間はビデオデッキがなく、録画が出来ない。姉様は、書斎は同じく立入禁止だが、なぜか客間に入ることは許可されている。

 俺そんなに信用ないかしら。


「客間のテレビじゃダメなんですか?」

「あそこは落ち着かないもの」


 くそう。

 仕方ない。部屋で本でも読もうかな。

 俺は、リモコンを操作してアニメを停止し、そのままテレビの電源を消すと、のそりと立ち上がる。


「どこ行くの」

「俺がいると邪魔でしょう。部屋に戻りますよ」

「何で? 咲也も一緒に観ましょう」

「はあ!?」


 いやいやいや!

 姉の友人とか気まずいだけですから!

 しかし、姉様は引く様子がないので、多分本気で言っている。

 姉様の機嫌損ねると長いからなあ。


「嫌かしら?」

「いや、そんなことはありませんけど。ちなみに、どなたがいらっしゃるんですか?」

「莉々よ。顔くらいは知っているでしょう?」


 知ってますとも。

 莉々——思川莉々(おもいがわ りり)様は、姉様と同い年の先輩で、生徒会選別メンバーだ。姉様に負けず劣らず綺麗な方なのだが、姉様が深窓の令嬢のような美人だとしたら、莉々様はお姫様のような美人である。

 ふわりとした雰囲気で、思わず男性が助けたくなるような、庇護欲をそそるお方らしい。事実、一人で生徒会室にいる時は、いつも周りに男性を侍らせているので、すごく目立つ。

 でも、あの姉様が仲良くしていて、こうして自宅にも招待しているのだから、きっとまともな人なのだろうとは思う。

 姉様は、結構他人に厳しいから。

 結局、俺も一緒に映画を見ることになってしまったが、なんと元々俺も呼ぶ予定で、莉々様とも話していたようだ。

 いや、先に言っといてよ。もし出かけてたらどうするつもりだったのだろう。

 というか、知っていたら出かけていた。


「それで、今日はどんな映画を観るんですか?」

「ん? それはお楽しみ」


 と、姉様はクスリと微笑む。

 嫌な予感がする。

 無理矢理用事でも作って出かけちゃおうかな、と思っていたら、ちょうど良く呼び鈴が鳴った。

 姉様は、使用人に「莉々だったら通してください」と伝えている。

 駄目だ。もう腹を括るしかないか。

 程なくして、使用人に案内されて莉々様がやってきた。


「ごきげんよう、輝夜。お招きいただきありがとう。そちらが弟様かしら。はじめまして、輝夜の友人の思川莉々と申します」


 彼女は、美しく咲き誇る薔薇のような笑顔で姉様に礼を述べた後、俺の方を向いてそう言った。

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