青春は甘くそして苦い

白雪凛

予感

俺綾辻零あやつじれいは退屈している。

「くそーっ。負けた。」

「いや、学年1位かよ。」

俺はクラスメイト数人と順位を競っていた。

学校の掲示板に前回のテストの順位が貼られている。もちろん1位は俺だ。

「そんな事より、今日どっか出掛けない?」

「いや俺は塾だからパス。」

「俺も。部活あるからごめん。」

「またかよー。お前らたまには息抜きしたらどうなの?」

「零みたいに、要領よくなんでもこなせたら苦労しないの。」

「はいはいじゃあまたな。」

「あぁまた明日。」

そうして彼らはそれぞれの目的の地へと去っていった。

要領が良いか。俺はアプリを開くと“学年1位を取る“の目標を完了にした。

んーんこのあと何しようかな…。

そう言えば一木先生の最新刊がテスト期間中に出てたよな。

大好きなミステリー作家の本を買いに本屋へ行く事にした。本屋までの道を歩いているとライブハウスの入口のポスターに目が止まった。出演者の名前に見知った名前があったからだ。あいつが音楽バカなのは知っていたが、実際に聞いたことは無かった。時間もあるし少し覗いてみるか。

早速受付でお金を払いドリンクを貰うと、取り敢えず後ろの邪魔にならなそうな所に移動した。

えーっと蓮の名前はどこだ。

タイムスケジュールを再度確認し、目的の名前を探す。

おっあいつ1番目なのか。

開始の時間が近づいてきたらしく会場の人が増えてきた。

観客側のライトが落とされていよいよライブが始まる。

1人の人間がステージ中央に歩いてきた。

ひさしぶりに見た幼馴染は成長期が来て身長が大分伸びていた。

彼はマイクの前に立つと軽く一礼して小さい声で「焦燥」と呟くとジャーンとギターを鳴らし始めた。

うっわぁかっけぇ〜。

音楽ってこんなんだったか。ライブハウスに居るはずなのに辺りが一変した。

〜♪〜

あいつは大きなため息を吐きながらリビングから出て行った。

怒られるかと思っていたが、何も言われなかった。

最初から何も期待されていない。あいつは俺の事を全く見てくれない。

なんでだよ。どうしたらあいつは俺を見てくれるんだ。

〜♪〜

俺がふと意識を戻した時には、彼の演奏は終わっていた。

はっ…。なんだ…なんなんだ…。この感じ…。少し恐ろしさを感じた。

他の人も何が起こったのか状況を把握するのに少し時間がかかったようだが、目の前の彼が一礼した事で彼のパフォーマンスが終わった事を理解した。一瞬の沈黙の後盛大な拍手が鳴り響いた。

俺も拍手を送った後、受付に行き幼馴染の蓮に逢えないか確認してみた。

「あぁ蓮さんですか。どうかなぁ?他の方なら出番終わればこっちに出てきますが蓮さん特別だからなぁ。」

「そっかぁ〜。ちなみに蓮はライブ終わるまでは居る感じ?」

「それなら居るんじゃないですかね。打ち上げは一応顔出されるみたいなので。」

「打ち上げに俺もいれてくれない?」

「いや、それは勘弁して。俺怒られる。むしろ幼馴染なら連絡先知らないの?」

「あぁ〜ちなみに今日何時頃に終わりますか?」

「今日は21時には終わるよ。」

「ありがとうございます。」

受付のお兄さんに挨拶すると俺はライブハウスを後にした。

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