老齢オヤジが死んだけど異世界でゆっくり老後をおくりたい~チートに大金ゆっくり老後、あれ俺若返ってるけど?
第81話 新たな人と剣の交わり ~「トーヤ殿はどこかのう、やっぱり怒っておるかのう・・・」 前書き編集
第81話 新たな人と剣の交わり ~「トーヤ殿はどこかのう、やっぱり怒っておるかのう・・・」 前書き編集
「そう、本人はどう思っているかわからんがとても目立ちたくない奴の行動とは思えんほど活発に、しかもその行動の結果が大功績となりゃあ目立たない訳がないよな」とさらに笑いをこらえながら説明するガインであった。
そんなガインを横目に言葉の無い知矢はこの場をどう乗り切ろうかそれを必死に考えているのだった。
そこへ
「失礼ですが、モンゴミリア様」
とニーナが声をかけた。
「何でしょうかスコワールド様」
「私の事はニーナで結構です。大変失礼なのですが私が聞き及びます処によりますとモンゴミリア様は西の公国のご出身とお伺いしておりますが。」
「ええ、ニーナ様よくご存じで。」
突然にニーナの質問に戸惑う表情のモンゴミリア
「まあ、私も隠している訳ではございませんが余り積極的に生まれや来歴を広報はしておりません。」
とニーナの質問に対し釘を刺す様にやんわりと答える。
「モンゴミリア様、申し訳ございません。でしたら私からはその問いは下げさせていただきます。」
と優しい笑みを浮かべながら答えるが続けて
「でしたら、先ほどのトーヤ様へのご質問も同じ事と存じますが如何でしょう。
特にこの帝国に於いてその力、ステータス等への詮索はタブーとは言いませんがマナー違反であると周知されております。」
とニーナもやんわりと釘を打ち返すのだった。
「・・・」
ニーナの返しに少し考えるそぶりを見せるモンゴミリア
この女性同士の柔らかな物言いに隠された鋭い剣の応酬!
間に間違って踏み込むならば瞬時に鱠にされそうな緊迫した気配がジリジリと感じるような気がして知矢とガインは黙って静かに見守るしかなかった。
「そうでしたか。確かに私の事を詮索され拒否するのに相手の事を聞き出そうと言うのは失礼でした。
塚田様、大変失礼いたしました。先ほどの問いは撤回させて頂きます。」
と素直に応じてくれ知矢も空気が弛緩したのを感じた。
「いえ、先日の伯爵が言っていた事を思い出しましたよ(大魔導士モンゴミリア先生、研究に忙しい折に)と確かそう言ってましたね。
研究者と言うのはどうしてもわからない事は探求したくなるのは当然の事と思います。残念ですが私のステータスを公開し研究に役立てて頂く事は出来ませんが。」
と本と胸を撫ぜ降ろしながらモンゴミリアの話を納める。
その後モンゴミリアは残念そうに挨拶をしその輪から立ち去って、小さい体躯はすぐに大勢の招待客の中へ消えていった。
「フーッ。ニーナさん助かりました」と肩の力を抜きながら礼を述べる
「いえいえ、やはりマナーは大切ですし、特にこのような席で話す内容でもございませんしね。モンゴミリア様は研究者。
トーヤさんが先ほど言った通り知りたくなったら居ても立っても居られないのでしょう。ですがすぐ引いてくださったのですからお人柄は悪くない方で良かったですね。」
又してもニーナの助け舟にすくわれた知矢だ。感謝してもしきれない程である。
「しかしお前、まだ今も気配遮断を使っているのか?それこそこういう場、特に城や砦、重要拠点での気配遮断などは場所や場合によってはスパイとして拘束されても文句は言えんぞ」
今度は逆にガインに注意されてしまった。
仕方が無く気配遮断を解いてあとは目立たぬように大人しくしておくことにするのだった。
それからほどなくして一段高い舞台の袖に騎士団の礼装に身を包む副官らしきものが現れ踵を鳴らし直立すると周囲のざわめきが静まったのを見定め
「管理貴族、アンコール伯爵入場!!」
と通る声で宣言する、と静かな楽曲を演奏していた楽団の一行が「ジャジャーーン!!!!!」と楽器を響き渡らせその音が途切れたタイミングで袖から悠々と伯爵が現れ中央に立ち挨拶を始めた。
「皆、今宵はわざわざ集まってくれて感謝する。年に一度の懇親の集いだ。皆大いに友好親善を交わしながら短い時間だが楽しんでいってくれ。
私からは以上だ。
待たせすぎてもう喉も乾き腹も空いたであろう乾杯をしようではないか!」と少し砕けた伯爵に周囲から笑いが出た。
皆が間近のテーブルに用意された乾杯用の銀に光るグラスを手に取ると伯爵も使用人から受け取ったグラスを大きく掲げ
「では皆の健康と、帝国の益々の発展を祈り!乾杯!!」
「「「「「プロージット」」」」」出席者が全員で答える。
その後あちらこちらで「乾杯!」キーン
「「「プロージット!」」」と周囲の者達で杯の交換がされていた。
「トーヤさん、プロージット!」ニーナから差し出されたグラスに知矢も軽く併せながら
「ニーナさん乾杯」 キーン!と静かにグラスを打ち鳴らし互いにグラスを傾けながら微笑みも交わすのだった。
グラスの中身は微発泡の白ワインの様だったがシャンパーニュ地方で生産されたわけではないからシャンパンとは言わないようだ。
知矢はワインに関して造詣は深くないが久しぶりに口にした微発泡の飲み物の喉ごしはビールとは異なり爽やかな軽さと香りがあるのを改めて感じた。
その後は歓談の時間になるとワインやビールが供され壁際に置かれた長机には各地から取り寄せられた珍しい酒や食べ物も準備され各テーブルのオードブルより珍しさかそちらの方に人だかりができていた。
このアンコール伯爵の管理する商業中核都市ラグーンは公称の人口は約6万人。実際は常に人が出入りを繰り返す商業地の為実数は定かではないが約10万の人が暮らしていると言われている。
周辺の領地、衛星都市や村を含めるとアンコール伯爵の管理下にいる人の数は凡そ30万人である。
その中で伯爵の配下として下級貴族が存在する。
子爵 2名
男爵 4名
準男爵 6名から8名
騎士伯 12名
上記20家以上がこの伯爵の領地及び都市運営に携わっている。
伯爵の直接指揮する騎士団500人と兵5000人がこの都市の最大戦力であり刑事警察力でもある。
伯爵の下で子爵が政治税制などを官吏の役人120人程を指揮し運営している。
男爵は伯爵家の周囲に広がる領地を委託され配下の準男爵と共に管理運営を行う。この運営に伴う人員は各家の下士や使用人を用い運営する。
騎士伯は伯爵直属の騎士団とは別に騎士及び兵団5000人程を持ち都市の出入りを監視するとともに周辺及び周囲の領地と街道の安全を確保する。
おおよそ都市及びその他の地区30万の内、伯爵をはじめとする貴族やその関係者、配下の者は人口の20%程の計算である。
今日はその配下の下級貴族及び上級兵の代表などと騎士団の代表それらの妻や妻子も招待されており互いに任地が離れており久しぶりに再会する者同士の懇親も活発であり家同士、家族においてもしかり、この場で見初め合う事も多いため言わば年に1度の社員総会やお見合いパーティーの様相もある。
そして商人の代表者や各ギルドの代表者もこの機に各貴族や家の者と交流を深める事は重要でありガインも冒険者ギルドの長として活発に人垣を縫ってはあちらこちらに声をかけこちらは仕事の真っ最中である。
知矢はそんな付き合いなど無関係とこちらはニーナを連れて壁際に配された各地の珍しい酒と料理を順番に食べつくす勢いで回っていた。
付き従うニーナはまるで弟の面倒を見る様に料理人に大盛を要求する知矢に「そんなに一杯欲しがらないの」とか「ああ、口にソースが」とナフキンで拭いてやったり「このお酒がトーヤ君の好みかも」など甲斐甲斐しい。
そんな知矢もお腹が満たされたのかニーナを伴い人の賑わいを離れテラスに設けられた席へと移動していた。
「ああああ・・・いかん食べ過ぎた」と行儀悪く腹をさする知矢に呆れながらも微笑むニーナはお酒では無く暖かい紅茶を口にしながら会場の熱気を覚ます夜風と温かい紅茶の絶妙なバランスに「良い季節ね」と呟きながら広い庭先に煌々とたかれたかがり火に映る光景を眺めている。
すっかり会場のパーティーなど忘れたかのようにゆっくりとした時間を過ごす知矢達であったがそこへふと人の気配を感じた。
「おくつろぎの所済まない」
男性の声がし振り向くとそこには騎士の礼装と豪奢な勲章を付けた者が恐らく配下の騎士であろう2人の男女を率いて立っていた。
「はい何でございましょうか」と貴族と見たニーナがすぐに椅子から立ち上がり軽く頭を下げる。
「いえ、お嬢様では無くそちらの冒険者の青年へ少し話がしたくてね。邪魔するよ」とニーナに譲られた席へ気軽に座ると知矢へ顔を向けた。
「あっあなたは先日の」と知矢は見た事のある騎士の顔を思い出した。
「ああ、この都市で騎士伯を仰せつかっているオースティンだ。
この間はというか先日の事件は災難だったな。しかし君が切っ掛けを作ってくれたおかげでこの都市から一つ巣食う悪い虫を退治出来たのは本懐であった。改めて感謝する。」
と知矢へ握手を求めてきたので貴族に対しては礼儀知らずの知矢であったが静かに握手を返すのだった。
その後は如何にかのドミワ準男爵が隠れて市民や官吏、騎士へ迷惑や強盗まがいの悪逆をしていたかが語られその度に何とか尻尾を掴んでやろうとしていたかを熱く語られた。
余程オースティン騎士伯はドミワ元準男爵へのストレスと恨みつらみが溜まっていたのだろう。
溜まった物をすべて吐き出したのか一通り話し終えたオースティンは一息つき配下が頼んだ酒のグラスを一気に煽りふっと肩の力を抜いた。
「いやあ、すまない、突然話しかけて過去の愚痴まで君に披露してしまい申し訳なかった」
「はあ、まあ構わないですよ。俺もあの男の娘たちにはひどい目に遭いましたからね」とそんな事が有ったな程度に思い出す知矢だった。
「そうだね、君も危うく殺されるところだったんだしね。ところで」と一呼吸置き
「今日はこんな私の愚痴を君に晒すためではないのだったが申し訳ない。実は君にお願いがあってね」と話を急に替えた騎士伯はおい!と後ろに黙って控えていた騎士の男女二人組に声をかけた。
「マジェンソン・ボドーと申します」と男の方が頭を下げると
「ジェシカ・エクワドルと申します」今度は女の方が頭を下げた。
二人ともまだ若い騎士で知矢の2,3歳上だろか。
「この二人は内の騎士団の中でも若手の将来が楽しみな奴でね。
実はアンコール伯爵からマリエッタ嬢との話を聞いて、まああのお嬢さんの事は手を焼いている噂は耳にしていたんだが確かに剣の腕はかなりの者だったしモンドールが厳しく指導すれば将来はと楽しみにもしていたが・・
ああ、決して君を責めたりなどでは無いのだ。逆に市民に多くの被害が出る前で良かったと伯爵共々モンドールなどと胸をなでおろしていたのだよ。
もっとも君にはこれから苦労を掛ける事に同情もしているがね」
と一気にまくし立てるように話した騎士伯は両手を広げ肩をすくませて知矢に同情を現した。
「まあ、俺の方はマリエッタを預かると伯爵と約したからには責任をもって預かりますが。で話がありそうですが何か?」と挨拶したままの後ろの二人を見る知矢。
「ああ、すまない。このセリフ何度目かなあ。せっかく寛いでいたのにな、ではなるべく手短に」
と再び紅茶を口にし喉を潤わせ話を再開する。
「実はこの二人なのだが、彼のマリエッタといい勝負をする事も度々の腕なんだが彼女がああなってしまってはまた剣を交わすことなどおいそれとはいかなくなってね。
それで何だがマリエッタを手玉に取り勝負にもならないほどの腕だと聞いた、そこでだこの二人に剣の腕を披露し少し鍛えてやってはくれないかと思ってねその相談に来たのだよ」
思いもよらないオースティン騎士伯からの申し出にまたもや言葉を失う知矢。
脇で聞いていたニーナもさすがに騎士伯からの申し出に口を差し挟むことも出来ず横目で考え込む知矢を見守るしかなかった。
知矢は(オースティンの申し出は嫌な感じもないしレーダーには青の表示のままだ。裏があるようにも思えないが彼の思惑が奈辺にあるのかが問題だが・・・)
と返答をしかねていた。
すると知矢が考え込む様子に女性の方、ジェシカ・エクワドルが口を開いた。
「トーヤ殿、私は純粋にあのマリエッタ様の剣を素手で躱しそれも数度にわたり地に伏させたというあなたの剣と体さばきを観させて頂きたい、そして実際この剣で受けてみたい、そう思い騎士伯様へお願いしたのだ。如何だろうかご指導願えないだろうか」
その言葉にちらりとジェシカの方を見るとそのまなざしは真剣なものに思えた。
脇に同じく立つマジェンソンも大きく頷き知矢へと熱い視線を送っている。
(面倒なんですけど)という視線をニーナへ送るが、ニーナも(困りましたね)という苦笑いを浮かべるばかりである。
「どうだろうか、トーヤ殿」とオースティン騎士伯は軽い感じで問いかけて来る。
「お断りだ!」
その頃伯爵の館外、木の上で警戒中のポンタは「わっしは耐え忍ぶ男」と空腹に耐えていたのだった。
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