第7話 取りあえず都市の外へ ~魔物退治は予定在りません



ギルドを出てすぐに都市の門へ向かいながら知矢は、

「Fランクの依頼位確認してくればよかったかな?

せっかく出かけるからついでに簡単な採取や弱い魔物でもいたら狩ってくるくれば7日に一回のノルマが達成できるのだったのにな」


と考えながら門前後に立っている門番の方へ歩み寄る。今回は出るだけなので特に身分証改めとかはなさそうだがやはり怪しい奴が何か持ち出さないか内側でも確認の目を光らせているようだ。


「こんにちは、出かけてきますね」と声をかけると


「うむ、おやお前は昨日来た新入りじゃないか、もう故郷へ逃げ出すのか」

とからかいながら声をかけてきたのは昨日知矢の入場を確認してくれた門番だった。



「嫌だな門番さん、いくら何でも1日で根を上げませんよ、はいこれ身分証」と先ほど受け取ったばかりのギルドカードを見せた。



「おっ、ちゃんと登録したな、ならば先ず一歩だな、しかしいきなり奥の深い森などはいらぬようにな、比較的近場は魔物も少なく安全とはいえ森の中はFランクでは危険だろうからな」

 と優しくアドバイスまでくれた。



 この街の人はみんな親切な良い人ばかりだなと午前中に嫌な女と冒険者にされたことを忘れたかのようだ。



 「はい、まだ森には入らずその先の丘辺りで魔法の練習と採取の練習でもするつもりです、行ってきます」



 門番に見送られながら昨日来たばかりの街道をなぞる様に進み転移して初めて見た風景、緑広がる丘へと歩を進ませるのであった。




 歩きながらも知矢は魔法の訓練と鑑定魔法を常時使用してみたが見るもの見るもの情報量が多く少し眩暈がしそうだったが少しすると一度認識したものは表示されなくなるらしく新たな情報のみ表示されるようになった為それ程苦痛ではなくなった。




 門を出て丘へ着くまでの間に解析魔法の”鑑定”LVが2に上がっていた。


 「やはり使えば使う程魔法のLVは上がるんだよな、でも解析魔法のLVはまだ1のままだし鑑定だけなんであがるんだ?」



 おお、そうだとすっかり忘れていた最高神から貰った”指南書”を読んでみた。


「えーと何々魔法の項、解析魔法・・・そうか、解析魔法の分類の中に鑑定があって俺は鑑定としてしか使ってなかったからか、で解析は・・・」



解析魔法は鑑定と異なり人や魔物、物質の名称やLV、強さ、状態を観るものではなく物の解析、つまり物質構成や利用方法、性質、等々そのものが如何役に立つのか何と併せるとどう変化するかも表示できる様だ。


しかし表示項目が多岐にわたり瞬時に目を通し読むには情報量が多いため使いどころで利用するにとどめた方が良さそうだった。



気が付いた時には街道から少し入って丘の斜面を登り切っていた。



今来た街道、ちょっと遠くにはさっきまでいた商業中核都市”ラグーン”を見下ろせる位置にあった岩が丁度良い椅子のような形状だったためそこに腰かけ広い空と広い草原、大きな都市の外壁を眺めながら続けることにした。



更に指南書を読み続けると魔法の訓練で複数の魔法の同時使用の項をみつけたの試そうと書いてある参考の魔法、”片手にファイアー、片手にアイス”を唱えてみたがこれはかなりの集中力と魔力操作が必要なようだ。


一瞬は両方発動するもののすぐに両方、もしくは片方が消失してしまうのだった。


知矢はくっそ!と一旦はやり込んで物にしようと思ったが先ずは基本に立ち返ろうと片手づつに安定した魔法発動の訓練に変更した。




 火の魔法”ファイアー”では火を起こしその火力をどんどん大きくそして安定し長く発動させるように


 水の魔法”ウオーター”ではとにかく水をどんどん生み出して川の方向に流れを途絶えないように


 風の魔法”アイス”では空中に冷気を呼び起こし空気中の水分から水滴を凝縮させ氷を作成、それをどんどん大きく硬く長時間維持


 土の魔法”アース”では地面の土を盛り上げては掘り下げを繰り返しどんどん高く盛り上げ、深く掘り下げてさらには硬度も増し擁壁状や堀状にする


等の訓練を繰り返し繰り返しおこなっていた。



 高ステータス、魔力SSのおかげで一切魔力量が枯渇する事がない知矢は普通の魔法使いには考えられないほどの魔法発動を繰り返ししかも基本的な魔法のみに限定し魔力制御の精密さと魔力の流れの効率化そして昨夜失敗した種別ごとの魔法発動の感覚を完全にその身に刷り込むことに重点を置いたのであった。



 マジックバックには都市の屋台で買い求めてあった串焼きや果物があったので疲れては休憩し腹が減っては口に入れとにかく日が暮れるまで基本の魔法の発動に時間を費やしたのであった。


 おかげで各魔法LVも4~5程度までは上がり更に強力な魔法も覚えたが元々戦闘目的では無いので当面は魔法の基礎能力・操作精度・より速い発動・種別間違いを無くす事を目標にしていくことにした。


 いつまでも基礎は重要だと日本にいた頃から認識していた性でもある。

知矢は日本で若い頃、幼少のころから種々の武道やスポーツを経験してきた。


 幼い頃、実は病弱で母に面倒をかけてきたが10歳の頃一念発起し身体を鍛えたいと両親に訴え、何故か許可する代わりにピアノ教室にも通う事、と言うおまけがついてきたが。


 最初は柔道の町道場に通い筋肉、骨格の基礎値を上げていき中学入学頃には既に有段者をも凌ぐ力を得ていたが憧れていた黒帯、有段者試験を受ける許可が両親から得られず何故かピアノの発表会へ出場させられたのは黒帯ならぬ黒歴史だ。




 その後中学で空手道場、高校はランニングに明け暮れ大学では弓道、その後剣道の道場ものぞいたが得る物が無く居合術道場の門をたたいた。


 全てにおいて共通するのは基礎体力の維持と基本動作の継続訓練だった。


 だから魔法の訓練もLVが上昇して強い、新しい魔法に行きがちな気持ちを押さえて 「まだまだだ」 と気持ちを律し基礎訓練・基本魔法を繰り返していた。





 「やばい、急いで帰らないと日が暮れてしまう」


 午前中はギルドで余計な時間を費やしたおかげで思ったほど練習できなかったが暗くなる前に帰らないと宿の女将ミンダも心配するし夕食の時間にも遅れてしまう。



 知矢はまだ二日目の異世界の為、日本で過ごしてきた時間感覚が強く存在し日中使える時間が少ない事への不満があったが早くなれないとなと思いながら若返った軽い体で軽快に走って門を目指した。



 「おう、遅かったな君」朝の門番が心配してくれていたようだ。



 「ごめんなさい、訓練に夢中になりすぎて」


と数キロを走ってきたのに息も全く乱れる様子の無い若返った体に興奮するように答えた。


 「いや、無事なのはわかっていたがな。君はあの丘でずっと魔法の訓練をしていただろう。

 ここから発動したファイヤーの光が何度も観えていたからな。

 しかし少し間をおいていたとはいえかなりの魔力量だなと、おっといかんいかん個人の能力の詮索は禁止だ、すまん気にしないで忘れてほしい」


 知矢はまたしても自分の不注意を呪った


「いえ、気になさらないでください。見えるところで練習していたのは私の方なのですから。じゃあ遅くまですみません、宿の食事の時間が有るのでこれで」


と逃げる様にその場を立ち去りながら「練習する場所も考えて探さないとな・・・」

と思案しながら宿へ急いだのであった。



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