老齢オヤジが死んだけど異世界でゆっくり老後をおくりたい~チートに大金ゆっくり老後、あれ俺若返ってるけど?

通りすがりの浪人者

第1話 プロローグ  ~旅とバイクと神様と狸も一瞬出るよ

※本作品は小説家になろうにて昨年2020年7月1日より連載を開始し

なろうでは7/5現在190話まで投稿が完了しております。

予めご了承ください。

なお、なろう版の第1話プロローグはかなり異なります。(無駄に長いです)


*************************




1台のバイクが人里離れた山間の峠を疾走している。


 グリーンとシルバーのラインに彩られたヘルメット。

 そのシールドから垣間見える風貌から初老の男性であることが見て取れた。


 その老人の名前は 塚田知矢


 日本全国をフラフラとバイクで走り回る無職の老人である。




 本人曰く


 『老後はゆっくりと自由気ままに過ごすぞ!』


 そう宣言し妻を自宅へ残してぶらり旅。


 愛車の KAWASAKI H2SXSE+ を駆って昨日は港町、明日は山の温泉、明日はどこに行こうかな。

 とのんびりと老後を楽しんでいた。




 そんな知矢は今、九州は宮崎県の小林市から延びる山間の国道、R265を北上していた。


 人の気配が希薄な峠道。


 すれ違う車も先ほどから皆無で道幅も広くゆったり深いコーナーが続く。


 そんな理想的な峠に気分を良くした知矢は喜んで疾走していた。


 しかし、それは突然起きてしまった。




   ”トタトタトタ”




 道路脇、山肌の草むらと木々の斜面からのんびりと狸が現れ道路を横切ろうと出て来たのだ。


 その時驚いた顔をした両者であったがしっかりと目が合った瞬間は互いに時間が停止したような錯覚をもよおすが実際は時間は止まることなく互いが時速100km以上で急接近したのは当然である。


 「マジか!!!!逃げてくれ!!!!」


 そうヘルメットの中で叫びながら知矢はタヌキの進行方向とは逆の山の斜面に向けてバイクの後輪を急制動で滑らせ無理やり方向を変えながら横滑りで停止させようと試みた。



 知矢はその時、タヌキがなぜか二本足で歩いていた事などその状況で気づく事など無かった。


 Kiiiiiiiiiiiiiiiiii!!


       Gagagagagagagagagga・・・・・・


             Gasyaaaaaaaaaaan!!!!


      『ピーポーピーポー・・・・・・・』




 一瞬の出来事であった。







 「親父!!!!なんでだよ!!うっくくっ・・」


 「・・・あなた・・・・・・」


 「じいじ?・・・・・・」



 「残念ですがご主人は激しく転倒の上全身打撲、頭部も激しく打ち付けられた様子で即死状態であったと思われます」







  「何だ?夢か?それにしちゃあ景色がハッキリ綺麗に見渡せるな?



 ・・あれ、妻と息子だよな・・・孫ちゃんもいるな?」


 知矢は意識を回復したが目の前に見える光景を理解できなかった


 「ここはどこじゃ? あれ俺何してんだっけ?」


 混濁した気を苦を必死に思い出そうと考え込む。



 「・・そうだ、あの山の稜線に沿って走る峠道、確か俺九州ツー途中で・・?


 峠を走ってて・・・?


 えびの高原から小林市へ抜ける風が涼しい山道を──って


 ・・・・・・・・


 あっ!! たぬき!! ……事故! そうだ俺タヌキを避けようとして!」



 混乱しながらも記憶を呼び戻し自分に起こった出来事を思い出した。




「そうだよ、タヌキが飛び出してきたから山方向、IN側に切れ込んで避けようとしてリアをスライドさせたけど……

 そっからハイサイドくらったのまでは薄っすら覚えてるが──ってここ病院か?」



 記憶を呼び覚ましながら少し落ち着いて周囲を見渡すと暗い壁には煌々と光る壁に映された映像、そこには知矢の妻と息子が泣き叫びながらベットにすがる光景が映し出されていた。




 その傍らでは顔面蒼白の息子の嫁と知矢が世界一お利口で可愛いと溺愛している孫娘がたたずんでいた。


 「あいつらなにやってんだ?」


 記憶を呼び起こしたが未だ現状が呑み込めない。

 すると



 「あれは君の亡骸にすがる家族の様子じゃよ」



 声に振り向くと何時から居たのか白い作務衣の様な服装の自分よりはるか高齢に見える老人が一人佇んでいた。



 「亡骸?家族ってえっ?誰だ・・ですか?」



 「混乱するのも無理はない。一先ず落ち着くために映像を消すのでわしの話を聞いて欲しい」

と老人が軽く腕を振ると知矢の家族を映し出していた後継は消え薄暗い壁に変わった。



 まあ、座りなさいと言って再び腕を振るった老人と知矢の間の空間がぼやっとしたと思ったら丸いテーブルと椅子が現れた。




 テーブルにはグラスとお茶が入っており知矢は状況を認識できないまま勧められるがままに席に着き一呼吸置くと自分の様子の違和感に気が付いた。



 目の前に現れた老人と同じ白い作務衣の様なでも絹の様な滑らかで重さを感じず暑さ寒さも気にならない様な不思議な着心地の服装を自分も着ていたからだ。




 「まあ、取りあえず冷たいお茶を用意したから飲みながらわしの話を聞いて欲しい。


 わしは君たちの世界言う処の創造神、最高神と呼ばれとる者だ。


 実はのう・・」



 最高神と名乗るその老人は何か言いにくそうに言葉を選ぶかの様子をみせた。


 がそこで知矢は突然何かが頭に閃いた。


「これって神様のミスで死んだから詫びに異世界転生とかって話ですか?」



 知矢はお茶の入ったグラスへ手を伸ばしながら老人の言葉を遮るように何の気なしに呟いた。



 知矢が近年、年甲斐もなくはまっていたネット小説のセリフを口にしてしまったがそれを聞いた老人は驚愕の顔で目を見開いて俺をみていた。




 「なんで知っておるのじゃ!! ではそういう事なので君は早速今から異世界へ転移してもらう」

 一瞬驚きながらも気を取り直した老人は早々にと答えた。



 「ブホォ!!  おいおい!ちょっと待ってくれ!本当だったのかよ、ってか話早過ぎだろ、断固たる説明を要求する!!!。」


 お茶を吹き出しながらも知矢は抗議の声を上げた。




 最高神と名乗った老人が語った話、それは知矢が良く読んでいた異世界転生物にありがちな設定だが要はこういう事らしい。



 知矢の住んでいた世界には八百万の神、つまりあらゆるものには神様が宿っているという事だ。


 その神様たちが神無月、つまり10月に出雲の国へ集まるのへ向けて移動していた獣の神の1人がツーリング中に出くわし轢きそうになったタヌキである事。


  1年振りの集まり、そして山々に住まう獣や木々たちと心、言葉を交わしながら楽しく歩いていたらしいが突如人里離れた峠道に爆音をあげ高速で疾走してきたバイクが現れた。


 結果ギリギリバイクを制御してタヌキ、実は獣の神様だったわけであるが、を避けたられた様で獣の神は無事だったものの知矢は ※1)ハイサイドをくらって大転倒、全身打撲、即死だったようだ。


 (まあ、即死なら苦しまなかっただけよかったのかな)と他人事のように考えるが事故の事を思い起こすと知矢は背筋に冷たい汗をかくし心臓もドキドキしてきた。



 「本来ならばのう、出雲の国へ集まる神々たちは人知れず集まるのが普通でのう、人の目には映らず天を駆けたり地を疾走、海を渡ったりと出来るのじゃが、彼の獣の神は秋の実りや冬へ向けての動物たちの様子を観、交わり話を聞きながら移動しとったのじゃよ。」


 申し訳なさそうな老人、彼はこの世界の最高神様。


 知矢は詫びを告げる老人の話を聞きながらよくよく考えるとどう考えてもそんな回避できない速度で走ってた自分の方がが悪いと思い返していた。


 いったい何キロだしていたのか、相当な速度であったであろうと後悔と反省を思い描いていたが


 その道は緩やかなアップダウンの続く峠、大きく深いコーナーを調子に乗って攻めていたのを思い出した。


 知矢は年甲斐もなく50を超えてからサーキット走行会になどに興味を覚え参加を重ねて若い頃成し得なかったハングオン。体重移動で膝をする技術を身に着けるとその峠でも気分よくコーナーリングを楽しんでいた。


 その事を思い返し自業自得であったことと自身の命だけで獣の神や他の生き物にけがをさせなかっただけでも良かったと反省していた。



 詫びを口にするこの老人、最高神と言っても全ての神々の頂きには幾人ものの最高神がいるがそんな中の1人がこの老人であった。


 地球を管轄する神々をまとめる神様であるが何故その様な偉い神がわざわざ知矢の前にと思っていると、


 「実はのう、今回、獣の神へ動物や山々の様子を観てくるように言ったのがわしなのじゃよ。数年前に起こった大地震の経過報告を特別に命じたものでな、本来ならば神々が人々や動物たちの前に現現する事は無いのじゃが・・・」


 つまり本来姿を見せないはずの神、今回はタヌキの姿で現現した獣の神様が関係した事故。


 しかもそれは最高神様の命によるものなので責任を感じこうして知矢の前に姿を現事実を告げ和議を口にしているのであった。



 知矢としては自分の運転を反省し神様とはいえ動物の姿をしたものに怪我をさせなくて良かったと。


 これが人や車だったら死んだ己の代わりに残された家族へ責任を押し付けることになったであろうから自分一人の命で済んでいかったということで気持ちは落ち着いていた。


 (起こるはずの無い事故が起きてしまいそれに神様が出くわした。そして死ぬはずの無い俺が死んだか・・・・・。

 まあ、これも異世界転生物でありがちなパターンか)

 妙にすっきりと事態に納得をしていた。



 「で、俺は一度死んでるから現世では生き替えさせられないから別の世界でって事だよな!」



 傷も痛みも無い知矢は素直に状況を受け入れ”これから”の話を聞いてみたくなった。


 「うむ、そのとおりじゃ。本来起こり得ぬ事故、それで神を起因した事ならわしは責任を取らねばならん。

 じゃがおぬしも理解しているように一度現世で亡くなったものが生き返るなどとは決して起こらぬことだし起こしてはならんのだ。」


 苦しそうに話す最高神の様子を見ている知矢は、(最高神て言うぐらいだから根っからの真面目な方だな)と思いながら話を聞いていた。


 「よってお前さんには本来残されていた寿命にお詫びとしてもう少し長生きをしてもらいながら希望に沿った余生を送ってもらいたい。

 それに突然家族を亡くした残された奥さんや息子さん、その家族にも申し訳がないのでそちらにはわしから幸の加護とおそらくは溺愛していたであろう孫娘には特別に獣の加護を付けさせてもらう。」


 「加護?それって神様たちがみんなを守ってくれるっていう力の事か?」


 「そうじゃ、幸の加護は言わば・・そうだな君の住んでおった世界のゲームで言うLUCK値を上げ不幸を避ける力がある。あくまでも小さな加護だが、十分に幸福な生活を送れることは保証しよう。

 さらに獣の加護は、かの獣の神からの詫びでもあるのじゃが孫娘のこれからの行く末を世界中の獣たちが温かく見守り何かの危機に遭遇した場合はその者を守ってくれると言うものだ。」



 それを聞いて知矢は心から安堵した。

 残された家族が今後幸せに暮らしていける加護が貰えたんだから自分の死も無駄にはならないんだとそして安心して転生でも何でもして今度こそゆったり老後を送れる気がした。




 この初老の老人塚田知矢は5月で60歳を迎えた。

 小さいながらも経営していた会社は専務である息子を社長に昇格させ引退を宣言した。

 その後は気ままな老後を送ろうと大好きな大型バイクでアッチにふらふらコッチにふらふらとツーリングを楽しんでいた。



 最初は2~3日、5~7日で自宅に帰ったりしていたが今月はもう20日以上帰ってないけどまあ会社はたまに妻と交わしている連絡で息子を筆頭に社員500名一丸となって問題なく運営してる様だ。


 (俺は愛機の”H2SX-SE+”と楽しく・・・うんっ?


  ・・・?)


 「ちょっとまて!俺が死んだって事は俺のバイクは、H2SXSE+はどうなった!!!!!」

 突如思い出したように叫んで詰め寄る知矢に最高神は



 「ちょちょっと落ち着きたまえ」


 慌てて迫りくる知矢をなだめるように押しとどめる



 「落ち着いていられるか!!!あのマシーンはお仕事引退お疲れさま~って普段は財布の堅いの妻が購入を許してくれた超お気に入りのマシーンなんだぞ!

 しかもKAWASAKIの世界に誇るスーパーチャージャーエンジン搭載!

 ナント!驚異の200馬力を唸り出すスーパーマシーンでその最高速度は299km/hのスーパーツーリング ※2)SSなんだぞ!

 更にそのお値段!本体価格2,827,000円、そしてパニアケースも装備、しかもトリックスターのスリップオンマフラー(チタンカラー)にステップはBEET工業のアルミバックステップ、


その他諸々で300万を優に超えた俺の大事なマシーンを!!!!」


 「まてまてまて、興奮するな」


 「これが興奮せずにいられるか」と叫びながら知矢は最高神へなおも詰め寄るのであった。


 「おぬし自分が死んだと言われたときはさほど興奮も怒りの感情も表さなかったというのに、その機械の乗り物の事となるとまるで人が変わった様じゃの」



 なだめながら最高神は落ち着くようゆったりと言いながらたわわな顎鬚を撫ぜおろした。



 「はあはあはああっ・・・すまん少し興奮した。」


 興奮し叫んで思いを吐き出した知矢は少し冷静に戻った。


 「いや悪い事をしてしまったな。じゃがその辺の詫びも含めて今後の事を話そうじゃないか」


 と少し落ち着いた知矢をに諭すように最高神様は話をまじめた。




 「まずその機械の乗り物、バイクじゃったな。あれは残念ながら事故時に衝撃で道の脇から谷へ転げ落ち壊れた様だ。

 引き上げられて家族へ渡されたらしいがその後どうするかは解らん。」


 ある程度覚悟はして知矢であったが事実を突きつけられた愕然とした。

 自身が死ぬような衝撃だったのだから当然だったろう、でももう少し俺にテクニックや判断能力が有れば回避や損傷の少ない状態で済んだのではないか?等と頭をよぎったが・・・・・


 (詮無き事だな)

 と一瞬で気持ちを切り替えることにした。

 (機会が有ればバイクの弔いでもやってみるかなんて考えてたが........


         あっ!、今は俺が弔われる側だった)


 知矢は自身で変な事を想像しているうちにすっかり落ち着きを取り戻した。



 「すまん、もう落ち着いた。で、今後俺はどうなるんだ?  よくあるこっちの物語だとチート能力を得て異世界へ転生、魔王を倒して勇者と褒めたたえるとかなんて話はよく聞く物語だが?」



 家庭用ゲーム機やアニメがはやり出した青春期を送っていた知矢。


 数年前、50歳頃からスマホで手軽に読めるネット小説にはまっていた。


 元々読書家ではあるが大人になって読んでいたのは戦国時代小説や織田信長関係、人情江戸剣客物ばかりだったが会社の若い社員が昼休みに夢中でスマホの画面を見ているのを目撃して話しかけた時に初めて聞いたのが素人が自由に投稿できる小説サイトだった。



 最初は気にもしなかったがそのネット小説から書籍化された一冊の本を大型書店で何気なく手に取り購入したのがきっかけで即全巻読破、夢中で読んでいた。


 その後その作者の関連作品をネットで調べていきあたったのがネット小説投稿だった。


 自分でもまさか50代になってラノベもどきや異世界転生なんて話を次から次へと読み漁るなどとは想像だにしなかったが、これが読んでみると一般の商業作家の作品に勝るとも劣らず。


 多くのパターン化された内容も多いがそれでも作者の個性かどの作品も面白い物ばかりであったのが衝撃的だった。


 そんな訳でつい「異世界転生か?」なんてセリフが自然と出てしまった事を後に少し恥ずかしさを覚えた知矢だった。




 「うむ、君の理解が早くて助かる。まさに君には申し訳ないが先ほど言った通り一度その世界で亡きものになった者を生き返らせるわけにはいかぬでな。

 残された御家族は幸せに暮らしていけるじゃろうから君には別の次元、そう”異世界”へ転移して余生を送ってもらいたい。

 だが、ただ異世界へ放り出すような真似はせぬ。

 今までの暮らしと同一と言うわけにはいかぬが苦労せず暮らせるだけのサポートは十分させてもらうつもりじゃ。」



 「じゃあ勇者とかに転生か?それとも賢者とか大魔道使いか?大貴族とか大商会の大金持ちって話もあったな」



 「いやいやその条件だとまた誕生からやり直しだがそれでも良いかね?


  新たな産み親をえて魂はそのままに肉体は0からスタートになるのが転生じゃ。


  それとは異なり種々の条件を設定して異世界に移り住むのが転移になるがのう。


  転生の場合でもなるべく希望に沿った産み親をえらんだり、新たな体には希望の能力、例えば 魔 法の能力や剣の才能等を持たせて生まれ変わらせることができる、だがいきなり生まれたての子供が その世界最高の力や能力を発揮させるわけにもいかんから徐々に開花していくようになるがのう」




 (0歳からまた始めるのか?

 まあ、それも悪くはないかもしれないが俺のこれまでの人生は超絶忙しい人生だったからな。

 だから早期引退をして余生を好きに行きたいと思っていて数カ月、また最初からは勘弁してもらいたい、そしてのんびり自由に過ごしたい)



 「いや、俺はもう十分働いてきたつもりだから余生をのんびり好きなことをしながら生きる力と能力、出来れば暮らすに困らないだけのお金も欲しいのだが可能だろうか?」


 知矢は地方の医師の家に末っ子として生まれ育った。

 家庭環境は悪くなかったが時は丁度受験戦争と言う言葉が新聞を躍らせていた時代の真っただ中。

 今の少子高齢化社会?何それおいしいの?っていう位、子供の数は溢れんばかりの競争社会の時代。

 小学校から私立へ受験は当たり前になろうとしていた時代だった、かくいう知矢も厳しい母親の監視のもと日夜家庭教師を付けられ高校受験・大学受験をへ・・・

 しかし途中で親のレールから飛び出して医者にはならず工学部へ進んでその後、総合建築設備会社へ就職。


 今で言う処の超絶ブラック企業で10年必死に(朝は5時に家を出て帰宅は23時なら早い方、休みは月1日か2日)働き知識と経験、技術を身に着けその後転職。


 姉妹しか居ない妻の実家が経営する会社へ転職したのだった。


 しかしボンボンの2代目なんて甘い話は無く実績を積み上げ会社を大きくすることにまい進した人生であった。


 そんな知矢は60歳で会社をまさしく”ポーン”と放り投げて引退した先代、創業者である妻の父親を真似たわけでもないがそれに倣うかたちで自身も引退宣言さえてもらった。

 (そんな俺がまた赤ん坊から我慢して老後まで・・・いや無理だ。

 転生とか転移とか言葉はともかく成人したまま好きに生きられる道があるならそっちを望むさ)




 「ホッホッホウ、まあそうじゃろうそうじゃろう、第一ゆったりのんびり余生を送りたいのなら”勇者”や大貴族、大商会などは現役で働く者の役じゃ。


 わしも君の人生を少しばっかり覗かせてもらったが仕事もそうだが色々忙しい人生だった様じゃのう、良かろう、色々希望を適えられる様考えよう」


 (なんだよ人の過去みられんのかよ・・・恥ずかしいからやめろ)などと考えている知矢を見ながら最高神はいくつもの蓋の無い木箱の様なものを並べ始めた。


 「さて、この箱じゃがな、中にはいろいろな条件を記した板が入っとる。この箱一つ一つからそれぞれ1枚の板を選んでくれ。一つの箱からは1枚しか選べないがこれは全て与えられる能力を記したカードじゃ。中には特殊な能力もあるが多くは人としての基本能力を決めるカードがはいっとる。


それぞれE級からD級、C級、B級、A級、S級とランクがあり種類は


 右から


 ・知性


 ・耐力


 ・成長


 ・武力


 ・幸力


 ・筋力


 ・速力


 ・魔力


 ・特力    


とそれぞれの基本能力が存在する。


君がその箱から一枚ずつカードを引くと今後の余生に適した力が自然と与えられる仕組みじゃ」


 (あれこれって?自由に選べたり最高の力をくれるんじゃないんだ?

 言わばくじ引きかよ、俺くじ運悪いんだよな。逆に妻と息子は何かくじ運良い人生な気が・・あれこれでさらに幸の加護を貰ったらあいつら最高じゃん?まあそらならそれで猶更安心だけど)


 「最高神様、俺くじ運悪いから自信ないんだよな」


 「いやいやこれはくじでは無いぞ、君の思い描く生活に適した能力を自動で選べる仕組みじゃよ。」


 「適した能力を自動で?」


 「その通りじゃ、しかも転移する世界の実情も考慮して与えられるから大丈夫じゃ」


 「だったら最初から全ての能力をS級で与えてくれれば話が早いんじゃないか?」

  (ふつうそう思うよな?)



 「ふぉっふぉっふぉ力や能力は過度に持つと要らぬ不幸を招くこともあるのじゃ。この基本能力を得た後さらにしたい事から適正な行使力の自動選択が行われる。

 行使力、いわば特殊能力じゃよ。

 職業特性能力ともいうがのんびり余生を望むおぬしもただ金をえて豪遊する人生を望んでいる訳では無かろう、その性格や今までの人生からして。

  余生を送るのに必要な基本能力と行使力を授かれば生活に困らないというわけじゃよ。」


 なるほどな、確かにそうだと思いながら知矢は最高神の話を納得した。


「それでは箱に手を入れてカードを掴んでみなさい適切なカードを自然と手につかむはずじゃそしてその後このもう一つの箱から行使力のカードを得れば基本的なステータスが決まる。」



 さあやってみなさいと最高神は箱を前にする知矢へ促す。



 知矢は手を伸ばすのが怖いというか不安で躊躇しているが「ままよ!!」

 と次から次へと箱に手を伸ばし中の物を掴んでいった。


 それは掴むというか妙な感じだった。空を掴む?いや触れる様な確かに何かを掴んではいたが感触が希薄で雲をつかむというかでも握ると何か確信が持てた気がして箱から引き抜いた。



 「最高神様よ? 何か掴んだつもりだったが、いや掴んで引き抜いては次を掴んだんだが? 」


 手にした感触はあったが実際に手にはカードどころか何も持っていなかった。感触は確かにあったと確信したのだが? と知矢が首をひねっていると。


 「うむ、大丈夫じゃ基本能力と行使力は得られとるはずじゃ。どれ、ステータスオープンと発してみなさい」


 「うお!!出た異世界物の大定番、ステータス表示が出来るのかよ!こりゃあワクワク何てもんじゃないぞ。 よし!」



       「ステータスオープン!!!!」



 知矢は少し上擦りながら思わずでかい声を発してしまった。


 するとやはりか、目の前にはスクリーン状に薄く光る半透明の大きさはA3縦って感じの板が現れ文字と数字が並んでいた。

 まるでLEDモニターみたいだがスクロールできるのか?と指でなぞると正にスクロールできた。





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 塚田 知矢 (16)


 ・基礎身体 LV1


 ・種族 人族(神の加護を持つ者)(転移者)(若返りし者)


 ・知性 A級


 ・耐力 B級


 ・成長 B級


 ・武力 A級


 ・幸力 A級+(最高神の加護)


 ・筋力 B級


 ・速力 B級+($%▽;の加護)


 ・魔力 SS級


 ・特力 基礎生活魔法、空間魔法、風魔法、火魔法、光魔法、創造魔法


     土魔法、解析魔法、獣使い+(獣神の加護)


 ・行使力  建築LV10、鍛冶LV8、設計LV5、デザインLV15、料理LV5、弓術LV120、剣術LV110、体術LV45、経営LV165


 ・加護 最高神の加護(小)、獣の加護(小)、弓神の加護、$%▽;の加護(小)





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知矢がステータスに見入っていると傍で様子を微笑みながら見ていたはずの最高神は


「っここりゃあ・・凄いのう!」


と驚愕の表情で脇から画面をのぞき込んでいた。



「最高神様?やっぱりすごいのか?何かS級とかA級とか並んでるけど」



「うむー、これはわしの想像を遥かに超えたステータスじゃ。」



「だよな、俺も散々物語を読んできた経験でしかわからないけどSとかAって人やめてるレベルじゃね?」



まだすべてに目を通していない信矢は基本能力の初項辺りで既に戸惑ってすべてが頭に入ってこないでいた。



「まあ、確かに相当高い能力じゃが別に人外と言うわけでもない、経験や鍛錬で成し得た者や生まれながらの素質を持つ者もかなり居るからな。


しかしここまで数多くの基本能力と魔術適正、行使力を持つ者はそう多くは無かろう、いやほとんどおるまい・・・・おぬし相当の努力家であったか」



 「・・・?」


 知矢は基本的に自らの意志で人生を切り開くなんて考えたことも無ければそれに向かって計画的に努力するなんて以ての外という考えの持ち主であった。。



 確かに高校受験は死ぬほど、でもないがそれなりに勉強し大学卒業後就職したブラック全開企業でも与えられた仕事はきっちり、まあそれ以上にこなしたから知識と経験を生かしてその後の人生にも転職先にも大きな力とはなったがそこまでだ。



 自分の目標に向かって努力したとか人生設計の為に計算して立ち回ったとか欲しい物を手に入れるために何でもした・・・とかは一切してこなかった。


 逆に明日、来週、来年、10年後なんて考えず”今日も一日無事に過ごせたな”、とか”今日も美味しいごはんを腹いっぱい飯が食えて幸せだ”なんて考えてただけであとはその場の空気や時勢、他者の意見に流されて生きてきただけだからな。



 その結果が幸せな人生だったと結果論だけで納得する人物である。



 「まあ良かろう、おぬしの過去は過ぎ去った事だ。


 だがそれを礎に能力を得たたのならそれはおぬしの力であり結果だ。


 悲喜する必要もなければ喧伝する必要もない。


 確実なのはその結果としてステータスに現れとるからな。」



 ふぉっふぉっふぉーと笑いながらもうそれには触れぬと話を進めた。



 「しかしこれだけステータスが揃ってれば何でも望む人生が送れそうじゃな」



 「いやそうは言っても俺には聞いた事の無いものばかりでどう使えばいいのか?」




 「まあそうであろう、そこはこの指南書を渡しておくから後でじっくり読みながら自分の力を試していくと良い。」




 と言うとB4番ほどの辞書の様な本を手渡してきた。





 「この指南書にはおぬしのステータスに乗っている能力他の項目すべてに関する解説が乗っておる。


 他の者の違う能力などは書いておらんまさにおぬしの為だけの指南書じゃ。それに転移する世界の事もほとんどが書かれておるから役に立つじゃろ


 それを読みながら力の使い方、LVアップの方法、魔力の使い方まですべて書いてある。まずそれを読んで基本的な使い方を練習すると良いじゃろう。


 そうじゃのう数時間ここで過ごしながら色々能力を試して転移に備えてもらおうかのう、そのあと異世界へ転移をさせる。


 あまり時間は無いがそれまでの準備期間じゃ。


 それと先ほどの下界を映す窓も出しておくから家族との最後の別れもしたいであろう。」



再びサッと手を振ると先ほどの様にモニターが表れ俺の家族たちが映し出された。



そして更にもう片方を振ると空間に先ほどのとは異なる机やいす、ソファー、ベット棚やドアが現れた。



「簡単だが少しの間生活するには困らんようなものは用意した。まあ死者は腹も減らんしトイレも不要だが嗜みは必要じゃからな色々用意してあるから勝手にして構わん。


 用があれば呼んでくれればまた現れるからのう、では後ほど時間に成ったら来るからのう・・・・・」



そういうと最高神は霞の様になり消えていった。









 消えるように姿を消した最高神を見送った後、知矢は先ほど貰った”指南書”を一瞥するとローテーブルの上に放りソファーへ腰かけ思いきり体をそらし背筋を伸ばした。



「う~ん、死んでるのになんか疲れたな・・・


やっぱりこれって現実だよな、夢落ちじゃ無さそうだしな。」



 再び上体を起こし壁際の空間に浮かぶ知矢の家族が映し出されてるモニターを見る。



 今いる世界と地球の時間差があるのか?それともさっきのは録画だったのか、いつの間にかに場面は変わり亡骸が入っているであろう棺が家族に見送られながら飛行機のカーゴエリアへ吸い込まれていくところだ。


「きっと関東へ持ち帰り葬式をするのだろうな。

 自分の葬式を見るのか・・・ だめだ気持ちの想像もつかん」


そうするうちに再び場面は変わり自宅へ無言の帰宅のシーンになったが知矢は家族や出迎えてくれた友人の悲しむ空気に見ていられなくなり「消してくれ!」と叫ぶと映像はふっと消えるのであった。


 自分の死後を見る事無く逆にそれを考えない様にしばらく”指南書”に集中して目通し、魔力の使い方、魔法を行使する方法のざっと読みながら色々試してみた。


 最初は手先から発する違和感ととして発せられる魔法の力にびくびくしていたが慣れると夢描いていた力が現実になることに舞い上がり数々の呪文を唱えて与えられた空間へ発しまくっていた。



 「こんな凄い魔法のんびり老後にいるのか?それにさすが魔力SS、全く枯渇する様子も疲れてくる気配もないぞ」


 ”指南書”に記載されていた魔法を基本の生活魔法「クリーニング」から始まり距離感の全くつかめない今の空間に向けて水魔法の「ウォターショット」や火魔法の「ライト」等基本的な魔法を練習していった。


 1時間ほど魔法を色々使っていると頭の中に


 「ピーン♪レベルアップしました、基礎生活魔法LV2、空間魔法LV2、風魔法LV2、火魔法LV2、土魔法LV2、に上がりました」

とアナウンスが聞こえてきた。



 「うぉ!っ、いきなりびっくりした、音声ガイダンスも有りなのか。便利と言えば便利だが出来れば会話型サポートが出来ればなお良いんだがな」


 知矢は急に聞こえてきた無機質な音声案内に驚きながら感想を口にした。



 「ピーン♪  相互通信コミュニケーション機能は只今機能限定中です、ご本人のLVが上昇するに従い機能が解放されますのでしばらくお待ちください」



 「っおふ・・・なんだよ便利な機能有るじゃねえか、まあLVに従って機能が良くなるのも定番かな、最後は実体化、具現化して可愛いお姉ちゃんが現れるのかね?」




 「ピーン♪ 申し訳ございません、実体化に関する機能は現在確認されておりません。将来のアップデートの予定もございません。以上です」

と残念な回答をのこしてアナウンス終了した様であった。




 その後、魔法の勉強を一通り終え再びソファーに腰かけた知矢はふと気になり「画像を点けてくれ」と発するとやはり再びモニターが点灯し空間に家族の様子が浮かび上がった。



 そこには遺影と位牌、遺骨が並んでいる知矢の家の通称”遊び部屋”だった。


 知矢の息子が幼いころその部屋は友人たちがゴロゴロたむろって妻におやつをねだって食べて遊んでいた部屋だった。


 息子も高校生になるとほとんど使わない玄関の継の間でしかなかったが


 「そっか、ここに遺影を置くのか。

 まあ、我が家には祭壇も仏間もないからな


 19年飼っていた愛犬が亡くなって遺骨や思い出の品を飾っていたからそいつと一緒にしてもらえるのは俺も歓迎だ。

 間違っても変な仏間を増築して仏壇に押し込められるなんて考えたくもない。


 ・・・って、あ、俺一応”神道”だったっけ・・・・まあいいや。


残された者の自由にする様に元々言っておいたしな」

知矢は自分の死後は

 「九州の海に散骨しろ」 

と言うと妻は「海洋汚染になるからダメ!」とか冷静に言われた事などを思い出していた。





 モニターには遺影を前に家族が集まりお茶を飲んでいる様子が映し出されていた。


 突然の出来事に悲しむ間もなくあわただしく移送と葬儀を行って疲れたのであろう。


 やっとひと段落付き明日からは皆に日常が返ってくる。


 知矢は「俺の事は忘れて早く今後の生活を送ってほしいものだ」と残された家族の映像を見ながら静かにそう思うのだった。




 「・・ばあば」


 知矢が溺愛していた孫が妻に声をかけた。


 「どうした!いちごちゃん?おなか空いたかい!?」


 「ううん、おなかはすいてないよ。


 ばあば、じいじがおそらにいっちゃったからさびしいでしょう!わたしねきょうからばあばといっしょにねようか?」




 自宅裏に家を建てて息子家族は住んでいる。そんな傍に住んでいる孫は知矢の妻に気を使っているようだ。



 「おっ!ありがとう、だけど隣だから、毎日会いに来てくれればさみしくないよ!


 それにいちごちゃんがいないとパパとママがさみしいだろ!


 そのかわり週末はご飯食べてお泊りしていいぞ。パパママが許可してくれたらの話だがな」



 男っぷりな妻は大きな笑顔で周囲に答えた。息子夫婦も安心した様子で皆を連れて自宅へ引き上げていった。






 夜も更けた頃、酒の飲めない知矢の妻はワインを炭酸で割った(98%炭酸)酒? を飲みながら何かぶつぶつ遺影に文句を言っている。


 「なにが ”君より長生きして責任もって看取るから”よ。 まだ全然若いのに、これから一緒にのんびりしようって言ったのに・・・先に逝くなんて・・・・・・(ズビビビビ~)」


 (うわっきったねえ、鼻水たらして泣くなよ・・・

 しかし・・・あいつには可哀想事したな、確かそんな約束してたな。

 あ~あ、そんな炭酸水で酔って寝るなよ、仕方ねえな・・)





 「最高神様!聞こえますか!」

 知矢は試しに虚空に向かい声をかけてみた。



 「聞こえとるぞ、おうもうそろそろ時間じゃのう、それともどうかしたかいのう?」


 すぐに最高神は再び霧の中から実体化する様に現れた。



 「最高神様! 生き返らせろとは言わないけど、家族に何か一言でもメッセージ送ったりできないかな? 夢枕に立つとかっていうのもあるだろ?」


  知矢が頼み込む様子に少し考えるそぶりを見せる最高神。



 「夢枕と言うのは人が考えた架空の話だじゃぞ、まあ神域におる者なら似たようなことは出来る。


 人々はそれを”神託”と呼んでおるがの。


 君に加護は与えたがさすがに神託の力は与えられんし与えても行使するだけの”神力”が無いからのう・・・


 そうじゃのう・・これに書いた物だけなら1人のみじゃが届けてみようかのう」



 そういうと最高神は大き目の短冊をどこらからともなく取り出して差し出した。




 「これは神託より簡単なメッセージを与え伝えるためのものじゃ。これにかける程度であまりこちら側の事を書かなければそれを希望の相手のもとへとどけてやろう。」



 そういって短冊とペン?の様な筆記用具を手渡した。




 「手紙か!ありがとう最高神様。最高神様の事はぼかして書くわ、少し時間をくれ」


 と言うと知矢は早速テーブルに向かい何を書こうか思案に入った様子。



 最高神はその様子を温かいまなざしで見送ると音もなく再度姿を消した。








「うむ~どうすっかな。「前略」はおかしいな、っつか最近PCやタブレットばっかで鉛筆とかで手紙なんぞ10年以上書いてないからな──


 しかも字が汚いのは子供んときのまんまだしな・・・」




「よし! なんとかこれで良いだろ。 最高神様!」



「おうおう、書けたか、どれ貸してみなさい……こりゃあ汚い字だなしかも裏表めいいっぱい書いとるのか。


 まあそれは構わんだろ。しかし本当に齢を重ねた社会の重鎮かと疑いそうになる字じゃの」



「字が汚いのは自覚してるからホットイテくれ! 逆にきれいな字でかいたら妻は俺の手紙だとは信じてもらえないから、大丈夫! それよりその手紙必ず妻に、あいつに届けてくれよな!」



 「うむ、約束じゃ、必ず目の届くようにして渡る様にしておく。


 さてそろそろ時間じゃが準備、気持ちの準備は出来たかいのう」




 メッセージを書いた短冊を懐に仕舞った最高神は知矢の様子を観察するように言った。




 「まあ、初級の魔法は覚えたし、行先の経済単位とか概要は呼んだし、あとはどうやって暮らすかは向こうで考えるつもりだ。のんびりと言っても野山で寝て過ごすわけにもいかないしな。」



「まあ、時間は十分あるでのゆっくり考えながら楽しい事を見つけてくれ。


おっ、そうじゃそれと”初期装備”を渡しておこう」



 そういうとリュックの様なものと刀の様な物等を渡してくる。



「これはマジックバック(小)じゃ、知っとると思うが見た目よりはかなりの容量を入れることができる、じゃが精々その見た目の10倍程度だがな」



 (出ました”マジックバック”! 定番だよな)と知矢は伊豆世や読んでいた物語に必ずと言って良いほど出てくる便利アイテムに一気に興奮を覚えた。



「小なのか? 無限とかなら良いのにな」


 喜びながら受け取りただその大きさ注文を付けると



「おぬしの魔法に”空間魔法”が有るじゃろレベルが上がれば容量はどんどん大きくなるし使い方の幅も広がる。


 LV1ではまだこのバック並じゃがLV3程ですぐこのマジックバック程の容量を超えてくるから大丈夫じゃろ。」



 なら大丈夫かと知矢も納得してリュックに手を入れてみた。


「おっ、すげえな何が入っているか頭の中に浮かんでくる。じゃあこれを」


 ”お金”と脳内で認識してみると、手に掴まれ出てきたのは、麻袋よりは柔らかい巾着だ。中身を確認すると


「おっ、大金貨に中金貨、小、・・あれこれは?」




「一応数カ月は十分暮らしていけるだけの金額は入れておいたつもりじゃが足りぬか?」



 世界の神である最高神も細かい経済価値は完璧に把握してはいないが一般的な生活水準よりは高い価値を想定していた。




「足りないどころか逆だぜ最高神様。


 青金貨(ミスリル金貨、薄青く光る)まで入ってるじゃねえか。


 これさっきの指南書にあった異世界の経済価値を俺の国で換算すると確か1億円位の価値あるぜ、この袋締めて2億位あるんじゃねえか?多すぎだろ」




 (因みに最高価値の金貨は白金貨、1枚約10億、白く発光する)


 驚く知矢に




「ふぉっふぉっふぉ~まあ足りないより良かろう。


 それを元手に商売をしても良いし、家を買っても良いし宿に泊まっても十分長い事生活できるじゃろう」




 最高神は少し失敗した様子をごまかすように慌てて説明をするが知矢は取りあえず生活が安定するまで気が楽になったし一層の事、あともう生きても10~15年位だから老後の資金としても十分だなと考えていた。





 はなからのんびり老後の生活を送りたいと伝えてあったのだし、この年で異世界の事情も分からないのにいきなり商売をしても成功するのは容易ではないなら独り雨露しのいで毎日ご飯を食べられる生活が10数年送れる安心感は心と体のゆとりにもなる”のんびり老後”うん良いじゃねえか!と。




そう考えていた知矢の思考を読み取ったのか


「10年?


 いやいや寿命を延ばしておいたからあと60年以上生きられるぞ。


 それに生活魔法のLVが2になれば”回復(小)や状態異常回復(小)”、さらに”光魔法”のLVが相当上がれば魂の奇跡(死にそうになった時に心身ともに即座に回復)も使えるかもしれんし。


 さらにさらにわしの加護があるのじゃからそもそもそう簡単には死なんよふぉっふぉっふぉ」



 (なんかさらりと重要で凄い事を言ってるぞ)


「ちょっと待てよじゃあ俺はあと60年以上生きられるってか?いやいや120歳越えなんて他人から見たら化けもんだろ!エルフ族でもあるまいし」




 (まさかの話に焦るが60歳でもじいさんだと認識しているのに更にこれから60年、ひょっとしたらそれ以上ってどうやって生きて行けば)と汗が出てくる。



「寿命を延ばしたと言っといたろう、それにステータスをよく見てみなさい”若返りし者”と書いてあるじゃろう。



 名前の次、(16)はそなたの年齢じゃよ。



 つまり体も見た目も若返って老後をのんびり暮らしてもらおうというわしの詫びの気持ちじゃよ!」



はっ? しばし知矢は反応できなかったがやっと理解が追いついた。


「えっ!!俺、16歳? 若いころに戻るのかよ!


 ってそれのんびり老後生活とか言わないだろ


  そんな子供が大金もって家買って仕事もしないでのんびりできないだろ!


 ってか世間が怪しむだろ!


  嫌だぞ怪しまれて警察に突き出されたらこんな大金言い訳できないぞ!!!!」



  慌てた知矢は再び最高神へ詰め寄る。




 「おいおい、大丈夫じゃ、少しは冷静に考えてみろ。


 まあ、確かにおぬしの言う通り大金を見せびらかして豪遊したりしたら怪しかろうがある程度のきちんとした身なりでおれば子供でも多少の金を持っておっても大丈夫じゃよ。


 トレジャーハンター、冒険者、大商人の子供、貴族の縁戚等は日頃からある程度の金は持って居るもんじゃ。


 それにバックに入れておけば、っとそのバックはおぬしに身を離れると暫くしたらとった相手も手から消えて戻ってくるし中身を探れるのはお主のみじゃから安心せよ。


 そしてついでにこの剣、お主の国に合わせて”日本刀(業物小)”にしといたでの武器を持って居れば冒険者を名乗っても良いしいざとなったら身を守れるじゃろ。お主、剣は使える様じゃしのう」



 色々話を聞けば大丈夫な気がしてきた知矢。その世界は13歳を過ぎてれば働きにも出られと聞き16歳ならいっぱしの大人扱いとの事で少し安心をした。



 「刀か・・何年も使ってないけど、まあ何とかなるか。 しかし16歳かよ何して過ごそう?


 まあ最高神様の言う通り金はあるからまずはのんびり世界の様子を観察してからどうするか考えるか。」



 そんな事を呟いていると最高神が声をかけた。


「さてそろそろよいかのう


 異世界へ送るとするか。


 もし困った事が有ったら”指南書”の最後の方に質問を書き込めるようにしておいたから質問してくれ、わしも忙しいから即答とはいかぬがなるべく早く回答するからのう」



 そういうとサッと手を振りその空間の先に淡く光る魔法陣が現れた。



 「その上に乗ると異世界に転移する、転移先は中核都市の郊外、人気のない魔物も出ない街道じゃから安心しろ」



 「了解! じゃあ色々ありがとう。頑張って生活してみるよ。あと手紙は必ず渡してくれよな!」


 知矢はそう言いながら魔法陣の上にゆっくり歩を進めた。




 「こちらこそ、大変な迷惑をかけたのに話を受け入れてくれて助かった。ありがとう! 手紙は責任をもって奥さんへ渡る様にしておくからのう


 では異世界での生活を楽しんでくれー」





 知矢の視界からぼやけるように最高神が消えてゆくと今度は周囲が眩く発光し次に何かに惹かれる様にその身を引っ張られたと思ったらあっという間に暗転したのであった。






 これから新たな世界。


 異世界へ転移した16歳に若返った知矢の新たな人生がスタートする。


 果たして知矢はのんびりとした楽しい老後を自由気ままに送ることが出来るのだろうか。


 それとも・・・・・。 




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