【短編】最強エルフに勝ちたくて、いや想いを伝えたくて

脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー

最強エルフに勝ちたくて、いや想いを伝えたくて

「また、懲りもせずに……私に決闘を申し込んできたわね」


 凛とした立ち振る舞い。毅然とした態度で俺を睨みつけるのは序列1位の美少女エルフ——アイシャだ。


 アイシャ・フロード。この学園都市で彼女の名を知らない者はいないだろう。


 なにせ、彼女は文字通りので学園中で畏怖されている存在だからだ。


 しかも、それが美少女エルフときた。

 そりゃあ注目の的にならない方が無理のある話だと思う。


 俺は改めて彼女の容姿を確認した。


 腰まで伸びきった淡い青髪。濁りのないスカイブルーの瞳。純白な肌。すらりと伸びた手足。それに……ものすごいでかさのおっぱい。


 ほんっと、容姿だけでも最強格だよアイシャは。


 彼女の凍てついた瞳は今もなお俺に向かれ、俺の胸を貫いてくる。


 あいかわらず威圧感……半端ねぇ。


 その高圧さ、最強さ、からか彼女は孤高を極めた氷の女王……なんて周りからは呼ばれていて彼女はいつも一人でいることが多い。


 そんな彼女に対して——何度も決闘を申し込んでは負けるバカがいた。


 いや、誰がバカだ。こんちくしょう!!


「……今日こそ……今日こそは勝たせてもらうぞ、アイシャ・フロードよ!」


 びしっと人差し指を彼女に突きつけ、ニヤリと笑みをこぼすのは俺ことバナーク・ベルヒデュアだ。


 彼女に相反した赤髪、灼眼の持ち主で八重歯がにょきっと生えている。ちなみにこれ、俺のチャームポイント。


 そして、じょ、序列順位が……2、2位の男だ。


 そう。目の前のこの女が俺の1位道を阻んでいる。


 だから、それが悔しくて——いや、実のところを言うと、アイシャが俺のことを認知してないということに無性に腹が立ったのだ。


 俺はまだ最初に交わした彼女との会話のことを覚えている。


 あれは、確か一年前のこと。学園序列順位発表の時のことだ。彼女を見かけた際、俺はこう声をかけた。


『ふっ。アイシャ・フロードよ。中々やるじゃないか! 炎剣使いのこの俺よりも強いとは』


 ここで、俺は『あなたもやるわね、バナーク』とか、『序列2位……私のライバルね』的な発言を期待したのだが。


 彼女なんて言ったと思う??


『えっと、あんた誰?』だとさ。


 くっ。今思い出しても腹が立つ。あの日からだ。


 この女を分からせようと思ったのは!! だから俺は鍛錬を重ね、その度に彼女に決闘を申し込んでは負けている。


 やはり、巨◯は伊達じゃない、いや失礼。最強は伊達じゃない。


 けど、今日の決闘に関しては俺は勝敗なんて実のところを言うとあまり気にはしてなかった。


 というのも、彼女と何度も決闘をしていて最近、気付いたことがあったからだ。


 ———アイシャのこと好きだわ、俺。


 悔しさ、屈辱がいつのまにか恋慕へと変わっていた。


 彼女の圧倒的な強さへの憧憬、それと美貌が恋慕の情になったのかもしれない。


 俺はドクンドクンと高鳴る心臓を無視して、彼女に再度言いつける。


「……さぁ、やろうぜ! 決闘」

「ほんと懲りない人ね、えっとバナーナ?」

「誰が、バナナだ! バナークだ! 全く今日の決闘でわからせてやる(想いを伝えてみせる)」


「……はぁ。私も暇じゃないのだけれど」


 悪態をついているが、満更でもなさそうなアイシャ。


『また、決闘だってよ』

『どうせ、またバナークが負けて終わりだろ?』


 なんて、周りのひそひそ話を無視して話を進めていく俺とアイシャ。


 他愛もない話を俺から一方的に振りながら、俺たちは学園闘技場の方へと歩みを進めたのだった。


♦︎♢♦︎


「で、ルールはいつも通りでいいのね?」

「あぁ……降参、もしくは戦闘不能になるまでということで」

「……わかったわ」


 序列1位と序列2位の決闘。ギャラリーがたくさん湧くはずの見応えあるものだと思われるが、今日は一人とてギャラリーは見られない。

 闘技場の観覧席が物寂しさを訴えていた。


 まぁ、無理もないよな。こんなに頻繁に決闘してたら……。そりゃまた俺が負けておわるオチと思って誰も見にこないわ。自分で言ってて情けないがきっとそういうことだろう。けど—


 ふっ。想いを伝えるには都合がよすぎるぜ。


「……何、笑ってるのかしら。今すぐ笑えなくしてあげる」


 細められた瞳が俺を貫いた。途端、空気が変わるのを肌で感じる。


 ただならない冷気を帯びた彼女。


 ——く、くるっ!?


 と、思ったその時。アイシャは腰の鞘から剣を抜き放った。


「【氷剣】ブリザード」


 途端、空間が冷気に包まれる。彼女の剣は薄氷でまとわりつくされていた。


 じゃあ、俺も使うとするかね。相棒っ!


 胸中でそう唱えながら、俺も腰の鞘から剣を抜き放つ。


「【炎剣】ボルケーノ」


 途端、周囲が炎に包まれる——が、先に生成された氷に炎が氷漬けとされてしまう。


 ……相変わらず、バケモンだな。


 通常、炎に対して氷は弱点だ。しかし、彼女の場合は例外のごとく、全てを氷漬けとしてくる。

 それが、天敵の炎であっても。


 ふぅと息を吐きながら、炎を帯びた剣先を彼女につきつけた。


「……今からアイシャ。お前を倒す」

「戯言をっ……」


 瞬間、アイシャは疾風と化した。


「くっ……!」


 とっさに前に重心を傾けながら踏み込んだ。俺の【炎剣】と彼女の【氷剣】が交差する。


 ……分かりきってたことだけど、威力やべえな。


 剣を通して手に強烈な衝撃が走るとともに、床も悲鳴をあげたのか、大きくめりこんだ。


(ジューーーーー)


 炎に溶けまいとする氷。氷を溶かそうとする炎。音を鳴らしながら、火花を時折散らす二本のつるぎ


 ……アイシャの剣からは、本当にまっすぐな芯を感じる。


 上級剣士同士の決闘において。剣を交えることでお互いの想いを伝えることができる。


 昔から言われる常套句だが、俺はこの説をかなり推している。


 だって、強ぇやつ……とりわけアイシャとの戦いでは、本当に彼女がこの領域に至るまでどれだけ努力してきたかがひしひしと伝わってくるからだ。


 アイシャは俺の剣と交えて、一体俺の何を感じているのだろうか。


 俺の想いとか漏れてたら恥ずかしいな。


 なんて、頭の片隅におきながら俺は呪文を唱えた。


炎球ファイアーボール


 紅蓮の炎が俺の口から放出される。切り結ぶ刃の元、焼却力が凄まじい熱の奔流を食らえばアイシャといえど、厳しいだろう——が


氷界アイスウォール


 彼女は勢いよく地面を踏みつけたと思いきや、途端。氷塊が俺の視界を覆い尽くした。


 すると、俺の炎は見事に氷漬けとされ、彼女に綺麗に塞がれる。

 し、しかもそれだけじゃない。


「———なっ!?」


「氷塊の反撃アイスカウンター


 氷漬けとされた炎が、氷のつぶてとなって襲いかかってくる。

 危険を直感して俺は、後方へと飛び退った。


「っ……炎鎧ファイア・アーマー


 体内にほとばしる熱を体外へと変換する、炎魔法の上級テクニック。

 灼熱を帯びた俺の身体では、無数の氷のつぶては無と帰す。

 俺の身体に触れる寸前、一瞬でつぶては溶け去った。


「……ふふっ。やはり貴方は強い」


 彼女は途端、そんな感想を漏らす。


 いや、それはこっちのセリフでもあるんだが。普通、炎鎧なんて使う相手。片手で数えられる位しかいない。


「……ま、まぁな。炎剣使いのバナークはちと強いさ」


 胸を張りながら、強がってみせる俺。彼女はそんな俺を見て— 一言。


「ふふっ。なら、ウォーミングアップはこれでお終い。この一撃で終わりにしてあげる」


 スカイブルーの瞳が俺を逃さない。彼女は剣先を天にあげると———


「……


 薄氷から厚氷へと転換され、禍々しさを強調するかのごとく。彼女の背後には氷龍の化身が現れた。


 ……おいおい。もうそれ使っちゃう感じ? ガチで終わらせにきてんじゃん。やばい、まだ想いなんて全然伝えられてない。


 くっ。俺もガチでやるしかないか。


「……


 炎鎧のまま、自身も天へと剣先を突き上げ灼熱から大焦熱へと転換していく。

 アイシャと対照的かのように、俺の背後には絶炎の不死鳥化身が体現される。


「いざっ———」


 俺は、思いっきしに地面を踏みつけてから空へと飛行した。


「……っ」


 アイシャは一瞬。コンマ一秒単位で動揺するも俺と同じく天へと昇ってくる。


 闘技場、全体が俯瞰できる位置まで飛翔すると、俺は闘技場に向かって———


「不死鳥の矢雨フェニックスオブレイン


 唱えると、不死鳥の翼から無数の炎矢が放出される。

 対象物が燃え尽きるまで燃やし尽くす炎の最強化身、フェニックスの矢。


 それをアイシャに向かってではなく、闘技場に向かって放ったことが不審でならなかったのだろう。


 アイシャは『どういうつもり?』と言いたげな視線を送ってきた。


「……ふっ。今から俺の全力をぶつける(好きだと伝えるっ!)」


「……さっきの奇行は謎だけれど、そうね。この一撃で終わらせましょう」


 天空の中、対峙する不死鳥と龍。バナークとアイシャ。炎と氷。


 お互い全力を出し切ることに関しては、すでに満を侍していた。


 剣先を互いに向けて、息を整えた瞬間だった。


 互いが互いに向かって、風と化し駆け出した。


 ほとばしる闘志。アイシャへの憧憬、恋慕。

 これまでの彼女との決闘。敗北の悔しさ。勝ちたいという願望。それ以上への彼女に対しての想いを伝えたいという強い気持ち。


 それら全ての感情がごちゃごちゃになりながら、俺はアイシャに剣をふるった。


「———ッ!?」


 激しい手首の痛み、目先の高さで彼女と剣を交えたこと。強烈な閃光、剣閃。


 それらを感じてからだ。


 一体何が起きたというのだろう。俺は今、風をすごく肌味で感じている。


 きっと今だ。今。この瞬間しかない。


 俺は今、アイシャに敗北し空から落ちているのだろう。


 大体はシナリオ通りの展開。

 ふっ。くらいやがれ……俺の全力を。


 途絶えかけた意識を保ちながら、俺は思いっきしに肺に空気を溜め、未だ天にいるアイシャに向かってこう叫んだ。


「アイシャ。お前のことが好きだーーーーーーー!!」


 闘技場。炎矢でうまく描かれた『好きだ』の文字に俺のこの叫び。


 ふっ、決まった。


 目標達成の安堵からか、俺はそのまま意識が途絶えてしまうのであった。


♦︎♢♦︎


 私こと、アイシャ・フロードは学園都市に来てからというもの周りから畏怖され崇められてきた。


 不動の序列一位。しかも人族が多いこの学園の中、私だけエルフという異端者。


 それもあってか、ずっと最強に君臨する私に馴れ合おうとする者はいなかった。


『恐れ多くて……』 『……高嶺の花すぎて……なぁ』


 故に、私に好意を伝えてくるものはおろか、友人になろうとする者は誰一人としていなかったのだ。


 それは、別に構わなかった。孤高の存在。私はそれに憧れを抱いていたし。


 けど、腹の立つことがあったのも事実。それは、皆に高みを目指そうという向上心が見られないということだった。


『アイシャ・フロードには敵わない』


 こんな通説が広まっているのかは知らないけれど、誰一人、私を倒そうと考える野心のある者はいなかった。


 それが、なんだか無性にいやだった。


 ピカピカの学園生活。ドキドキワクワクの決闘。胸躍るライバル。


 私の夢見た学園は何だったというのか。これじゃあ、まるで学園に来た意味がないじゃない。


 そんな、ぶつけようのない気持ちを抱いて灰色の学園生活を送っていたある日のことだった。


 変なやつが現れたのは。


『ふっ。アイシャ・フロードよ。中々やるじゃないか! 炎剣使いのこの俺よりも強いとは』


 誰よ。それに、私に話しかけてくるなんて物好きもいい人ね。

 それに、炎剣使いって別に珍しくも何ともないからそんなドヤ顔で言われてもね。


 私は、ホントに変なやつって思いながら彼に率直に言ってやることにした。


『えっと、あんた誰?』


 そう。思えば、この日からだ。私の日常にこの男が居座る様になったのは。


 『決闘だ!』 『決闘だ!』 『決闘だ!』


 最初はうざくて仕方がなかったけれど、彼は中々の強さで、聞くと序列2位らしい。


 戦う中で、私はこの男に興味を持つようになっていった。


 この男の剣からは、炎剣通りというか"熱い"情熱を感じるからだ。

 上を見ようと、高みを目指そうとする向上心。


 この私を喰らおうとするその姿勢。私は高揚感を覚えた。


 彼が向かってくるたびに、私は全力でそれを打ち砕こう。


 そう思うようになると、気づけば彼のことを目で追っている日が続いていた様に感じる。


 雨の日も、風の日も、一人ずっっっと鍛錬を重ねていたのを私は見ていた。


 そこにいたのは、私の理想とするライバルの姿。


 ふっ。私もうかうかしてるとやられちゃうかもね。


 退屈だった学園生活に少し色がついた……そんな気がした。


 ……けど、今日こんにちの決闘において。


 彼はいささか変なところがしばしば見られた。


 剣が交錯した際、何故だろう。いつもは感じられない、彼の何かしらの強い意志を感じ取った。


 気のせいかな、とも感じた私は気にせず決闘を続行することにしたのだけれど、彼のあの不死鳥の矢の攻撃。


 あれに関しては違和感がとてつもなかった。

 なんでそんな行動をするのか理解しがたかった。


 私に向けての攻撃ではなく、何故か闘技場に向けての攻撃。


 私の頭はずっと??? 状態だったけれど、彼の目を見て直感した。


 きっと何か意味のある行動だったのだと。


 そして、私たちは再度剣を交えた。私の氷の方が少し彼の炎よりも優っていたのか彼は、気づくと闘技場の方へと落下していっていた。


 今回は少しギリギリだったわ。いずれ追いつかれそうで本当に怖い。


 幸い、今日のギャラリーはいない。ふぅ、ホント彼には驚かされるわ。


 なんて、思ったそのとき。


「アイシャ。お前のことが好きだーーーーーーー!!」


 ふぇ? え、い、い、今な、なんて!?


 彼の方へと視線を向けると、闘技場に浮かび上がる『好きだ』という炎矢の文字が視界にうつる。


 ひゃ、ひゃふんっ!!


 私の頭は真っ白になると共に、真っ赤に顔が染め上がった。


♦︎♢♦︎


 あわわわわわわわわわわわわ。

 ど、どうしよう。


 私の膝の上には、彼の頭が乗っかかっている。やばい、目、目覚ましたらど、どうしよう。


 私は今凄く焦燥感に駆られていた。


 男の子からす、好きだなんて……初めて言われた。

 よく見たら、まつげ長いし……なんか愛嬌のある顔して……。


 って、何考えてるの! 私はっ! じゃなくて……この男は一体何を考えているのっ!!


 と、私があたふたとしていると——。


「ははは。どうやら効果はあったみたいだな」


「……え、え、ちょ。ちょっと」


 な、何でこのタイミングで起きてんの!?


「……俺は、君が好きだ。今日の決闘ではそれが伝えたかった」


「……な、な、なんで!?」


「……最初は嫌いというか、分からせたいというかそう思ってた。けど、剣を通じて……最強の影に隠れた努力、優しさ、暖かさ、そういうのを感じて気づいたら好きになってた。だから俺と付き合ってくれないか?」


「………っ//////」


 か、顔……赤くなるな。赤くなるな。


 しばらく、無言でいると彼は催促をしてきた。


「……返事聞かせてくれるか?」


「……私はす、好きとかわからない。けど、貴方に好きと言われて嫌な気持ちはしなかった。そのつ、付き合っても、そのい、いいのかもしれない」


「な、ならっ!!」


 彼は疲弊した顔つきから一気に顔色が良くなり、ニパァと顔を輝かせた。


「……けど、決闘。決闘で私に勝てたら付き合ってあげる。今のままだと……なんか付き合うの納得できないから」


「ははっ……アイシャらしいな」


 彼は、子供のようにケラケラと笑った。


♦︎♢♦︎


 最強としての意地だろうか。何故か、彼女は俺が決闘で勝たない限りは付き合ってくれないらしい。


 けど、何も悲嘆に暮れる必要はない。俺が彼女に勝てばいいだけの話なのだから。あとどれだけの日数がかかるのかはわからない。


 それでも———俺は。


「ふっ。また懲りずに決闘を申し込んできたわね、


「……今日こそ……今日こそは勝たせてもらうぞ、


 また、やってるよ。みたいな周りの視線。何も変わらないいつもの日常。


 それがなんだか心地よくて。俺は今日も彼女に勝ちたい! その一心で決闘を申し込む。


 いや、違うな。最強エルフに想いを伝えたくて……そのために、俺は剣を振るうのだ。


「……ちょっと、何してんの? 早く闘技場行くわよ」

「あぁ……」


 彼女のとんがった両耳は少し赤くなっていた、そんな気がした。


                  (了



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき


 今回は初めて異世界ファンタジーの短編に挑戦してみました。戦闘描写が凄く大変でした…

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