星那と昼食後のひととき
「ご馳走様ー」
「今日も美味かった、ありがとうな」
「いつもありがとう、ご馳走様」
「うん、どういたしまして」
三人のご馳走さまの声に、ニコニコしながら弁当箱を回収する星那。
人にご飯を振る舞う際、この言葉を言われる瞬間が一番嬉しいと思っている星那だった。
「いやぁ、しかし本当に、なっちゃんのご飯は美味しいですなぁ」
「柚。お前も教わってみたらどうだ?」
「ふんだ、いっつも購買のパンばっかりの陸さんには言われたくないですよ」
陸のツッコミに、むくれて言い返す柚夏。
しかし、悪態をつきつつも星那の方をチラ見してくるのを見るに、どうやら興味はあるらしい。
「でも……教えてって言ったら、なっちゃん教えてくれる?」
「うん、私で良ければ」
「やった、それじゃそのうちにお願いね!」
快諾する星那の返事に、嬉しそうにコロコロ表情を変える柚夏。
その様子に頬を緩めながら、皆に水筒から紙コップへと注いだ麦茶を配る星那だった。
暖かいお茶に、皆ではふぅ……と一息ついた後。
「しかし……盗撮されてネットに写真を上げられていた、か。ちょっと気になるな」
「学校内の写真だったんだよね?」
「うん……だから、不法侵入でもなければ、犯人は学校の誰か……だよね」
陸と柚夏の質問に、紙コップに目線を落としながら、やや深刻な顔で答える星那。
遠景とはいえ場所は全て校内。今のところ外で撮られたものは無く、今はまだストーカーという訳でもなさそうだが……
「正直、『私』は怨みを買うネタいっぱいあるからなぁ……なんか、ごめん」
夜凪が、しゅんとしながら謝る。
入れ替わる前、何十人とにべもなく振って来た星那だから、それを逆恨みしているものが居ないとは限らない。
「ま、ちょっと気にして調べておくわ。変な弱み握られるような事無いように気をつけろよ?」
イチャつくのも、節度を持ってな……そう釘刺され、陸には言われたくないと頬を膨らませる星那だったが。
「気になるといえば……お前ら二人が入れ替わる原因になった、あの先輩な」
その言葉に、星那の肩がピクッと跳ねる。夜凪も、スッとその目を細めた。
あの日が原因で発症した星那の高所恐怖症の方は相変わらずであり、その先輩への恐怖心もまだ残っている。
「あの人が……どうしたの?」
「まだ学校に復学していないだろ? なんでも謹慎中に他校の女の子とトラブルを起こして、停学延長になったらしい」
「それはまた……救いようがないね」
「停学中にさらに問題起こして、よく退学にならなかったものだね」
「まぁ……親がえらい人だから、配慮もあったんだろ」
全く、大人の世界は汚いよな……そう、肩を竦めて宣う陸だったが、スッと真面目な表情に戻り、星那を正面から見つめ、言う。
「次に何かやったら学校も流石に黙っていないだろうし、大丈夫だとは思うんだが……一応、身の回りに気をつけてな」
その言葉に、神妙に頷く二人だった。
シリアスな話も終わり……続いて訪れたのは、食後の気怠い時間。
「……ふぁあ」
晴れの陽気に目を細めた星那が、堪えきれず大口を開け欠伸をする。
「……大丈夫?」
「うん……今日は特に、なんだか無性に眠たくて……あふ」
午前の授業でも、休みの間の遅れを取り戻さないとと思いながらも、時折船を漕いでいた星那。
目を細め、再度小さな欠伸をするその様子は、本当に眠そうだ。
「まぁ、体力を消耗したのにいつも通り早起きしてたら、そりゃ眠いよね……」
「お願い、その事には触れないで……」
「はいはい、ごめんごめん」
朝の醜態を思い出してしまい、顔を真っ赤にして涙目で懇願する星那に、頭をポンポン叩いて宥める夜凪。
その様子に、事情を知らない陸と柚夏の二人は首を傾げるのだった。
「それじゃ、膝貸してあげるからちょっと眠るといいよ。昼休みもまだ時間あるしね」
「ぅえ!?」
その言葉に、驚いて体を跳ねさせる星那だったが……
「いつものお礼だと思って。ほら」
「うー……」
ポンポンと膝を叩いて、誘う夜凪。
その顔は明らかに面白がっており、ぐぬぬと呻き、睨む。
周囲を見渡すと、今居る東屋は校舎の敷地の端にあり、星那と夜凪の位置ならば、ベンチに寝そべってしまえばい校舎側からは見えないだろう。
星那はしばらく躊躇いを見せたが……結局は、睡魔に負けて頭を下ろし、ベンチに横になる。
「いつもはしてもらう側だったから、新鮮だね。どう、具合は?」
「ちょ、丁度いいです……」
筋骨隆々という訳ではない夜凪の脚は、適度に硬いが決して硬すぎず、しっくり来る。
しっくり来るのだが……
――何これすっごい恥ずかしい!
心の中でだけ、悲鳴を上げるのだった。
「なら良かった。十分でも十五分でも、休んでおくと良いよ。それだけでだいぶ違うから」
「う、うん……」
眠れるかな……そう思う星那だったが、それでも目を瞑ると、ふっと意識が遠くなる。
そこに、優しく髪を指で梳かれ、頭を撫でられる感触が加わると、もうダメだった。
まだ暑いというほどではない初夏の天気はポカポカと暖かい陽気で、それが余計に眠気を引き起こし……結果、すとんと眠りに落ちるのだった。
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