第177話 【人化の術】

 炎の腕を作り出す魔法……とりあえず安直だけどフレイムアームにしとくか。

 まだ指までは再現できてないが。

 正式名称は後々考えるとして、フレイムアームを開発してからさらに数日が経った。


 今日も今日とてフレイムアームを使いこなせるようになるために練習していると、子ぎつねが遊びに来た。



『久しぶりだな。オーク集落の時以来か』

『久しぶり! オークキングのお肉食べに来たよ! まだ残ってる?』

『まだ残ってるから心配すんな。あとで焼いてやるよ』


 子ぎつねはいよいよ巣立ちの時が近づいて来たらしく、ここ最近はずっと親ぎつねと一緒にいたみたいだ。

 そのことについて聞いてみたら、三日後にとうとう巣立ちを迎えるそう。


『独立した後はどうするんだ? やっぱりどこかにナワバリを持つとか?』

『いろいろ考えたけど、ナワバリは作らずにいろんなところに行こうかと思ってる。この世界を見て回りたいから』

『……だったら、一緒に旅でもしないか? 俺もこの世界を見て回りたいと思っていたんだが、実力的にもそろそろ頃合いだと思ってたし』


 旅は道づれ世は情け。

 一人で旅するより二人のほうが絶対に楽しい。

 それに俺たちは見知った仲だし。


 だから、俺はそう提案した。


 子ぎつねは少しだけ考えこんでから――


『一緒に冒険するってこと?』


 そう聞いてきた。


『ああ。いろんなところに行って、いろんなうまいもんを食ってって感じだ』

『楽しそうじゃん』

『だったら――』


 子ぎつねは、俺のほうを見てこくりと頷いた。

 それから口を開く。


『一緒に行こ』


 これで放浪中に暇な思いをしなくて良くなったぜ。


『じゃ、よろしくな!』

『こちらこそよろしく! 一緒においしい食べ物探ししようね』


 旅に出たらやりたいことなどを話し合った俺たち。

 一息ついたところで、子ぎつねに進化で獲得したスキルを見せてくれと切り出した。


『新しく手に入れたスキルの効果をきちんと把握しておきたい。俺たちはパーティーを組んだわけだからな』

『わかった。まずは【ダークフィールド】からね』


 そう言った子ぎつねから解き放たれた闇が、地面を覆っていく。

 あっという間に子ぎつねから半径十メートルほどの地面が闇に覆いつくされた。


『このフィールドに足をつけた相手のステータスをほんの少し弱体化させる効果があるよ。あと体力と魔力を徐々に減らしていくという効果も』


 俺も【鑑定】してみたが、確かにそう書かれていた。


『飛んでる相手には効果がないそうだが、充分強力だな。なんせちょっとの魔力消費で展開できて、相手の弱体化と定数ダメージを勝手にやってくれるんだから』

『次は【グラビティ】だよ』


 子ぎつねの目の前に、半径五メートルほどの暗い光が展開された。

 黒い光に押しつぶされた地面がへこむ。


『こんな感じで、光に呑まれた相手を拘束したりできるよ。今回は円状に展開したけど、範囲を絞って一方向に重力をかけることもできるよ』

『なるほど。重力で敵を拘束、もしくは動きを鈍らせてから魔法で狙い撃ちにするだけでもかなり強そうだ』

『重力魔法はまだこれしか使えないけど、そのうちもっと強い重力魔法も使えるようになるから』

『それは楽しみだな』

『風魔法は【風刃斬】が追加されたくらいで、闇魔法のほうは新しいのが使えるようになったよ』


 子ぎつねがこれまでに使えた闇魔法は、【ダークバレット】と【ダークランス】の二つ。

 そこに、今回の進化で新たに【ダークスラッシュ】と【ダークマター】が増えていた。


 【ダークスラッシュ】は【ウィンドスラッシュ】の闇版。

 闇の刃を飛ばして攻撃する魔法だ。


 【ダークマター】は、闇の砲弾を相手に飛ばす魔法。

 【ダークバレット】のパワーアップ版みたいな感じだ。



『このままいけば、風も闇も次の進化でAランク台に入ったら上級魔法が使えそうだな』

『うん。すごく楽しみ』


 子ぎつねが進化で新たに獲得したスキルはあと一つ。

 個人的に一番気になっていた【人化の術】だ。


『【人化の術】を使ってくれるか? どんな感じになるか気になるからな』

『いいよ』


 子ぎつねがそう言った瞬間、まばゆい光に包まれた。


 【人化の術】の効果は、魔力を200消費して人に変化するというもの。

 魔力消費は変化する時だけ。

 変身したら解除するまで魔力消費はなし。

 変身時に追加で魔力を50消費すると、服と履き物を装着した状態で人化できる。


 【鑑定】で調べると、そう出てきた。



 光に包まれた子ぎつねが人型に変わっていく。

 身長は小学生ぐらいか。


 その時、俺は気づいてしまった。

 子ぎつねの魔力が200しか減っていないということに。


『……なあ、服はどうするんだ?』


 俺が問いかけると、光の中から『あ……』という声が聞こえてきた。

 それと同時にまばゆい光が消える。


 光の中から女の子が現れた。

 すっぽんぽんで。


『寒っ!』


 俺が口を開くよりも先に、子ぎつねがそれだけ言い残して人化を解いた。


 ふぅ~。危ない危ない。

 あやうく放送事故になるところだったぜ。


『人間になったとたん急に寒さを感じたからびっくりした』

『もこもこの毛がないだけでだいぶ違うだろ?』

『うん。次はちゃんと服も出すようにする』

『俺としても心の臓に悪いからそうしてくれ』


 【魔力譲渡】で俺の魔力をなんぼかわけてから、もう一度子ぎつねに人化してもらう。


 まばゆい光が晴れた時、そこには十歳くらいの見た目をした少女が立っていた。


『今度は寒くない』


 肩まで伸びた艶やかな黒髪。

 パッチリと開かれた月の色の大きな瞳。

 頭からちょこんと生えている狐耳。


 漆黒の着物を着こなした子ぎつねは、どっからどう見ても美少女だった。


『どう?』

『かわいいぞ』

『もっと褒めて』


 子ぎつねの頭を撫でながら、思いついた誉め言葉を片っ端から言っていく。

 人間の時の方が表情や仕草が豊かになってるから、愛くるしさが倍以上だ。



『……ん? 人間の気配がする』


 俺の毛をモフモフしていた人間状態の子ぎつねが、突然顔を上げてそう呟いた。


『こっちに来てるよ。向こうもこっちに気づいてるみたい』


 俺たちに気づいてなお、近づいてくる。

 俺はその人間たちに心当たりがあった。

 

『たぶんそれ、俺の知り合いだ。この前オーク集落で俺が話してた人間がいただろ?』

『あ、あの狐のお姉さんの仲間の人?』

『そうそう』


 そんな風に話していると、人間たちが姿を現した。



「「「幼女誘拐……?」」」



 ゼストたちは、俺を見るなり三人同時にそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る