第155話 攻防戦

『【ホーリー】!』


 聖なる光が怪水を浄化する。


 怪水が反撃してくるが、一発も俺たちに当たることはない。


『魔力は大丈夫か?』

『ええ。まだ三分の一以上はあるわ』


 怪水に攻撃させて体積を減らすほうを優先していたため、親ぎつねの魔力はまだ充分残っている。

 ちなみに、この会話はプライベートチャットモードでしているぞ。

 怪水が理解できるとは思えないが、念のため残り魔力などの情報は伏せている。


『かなり小さくなってきたな』


 狼王が言うように、怪水の体積はすでに最初の半分くらいまで減っている。

 体力のほうも600を下回った。

 現状はこちらが有利だ。


『何をする気だ?』


 急に怪水が、ピザの生地のように地面に薄く広がった。

 そして――


『ッ! 最大出力!』


 クリムゾンブースターを最大出力にして、斜め上に急上昇した。

 そのすぐ後ろを、



『ノア、大丈夫か?』

『ギリギリ範囲から抜けきったから大丈夫だ』


 狼王たちのもとに戻って、そう告げる。


『……なるほど。真上に向かってシャワーのように自身の水を放出したわけか』


 怪水を見れば、落ちてきた水滴を吸収していた。


『そんな攻撃手段持っていたかしら? 水系の魔法は二つしかなかったんでしょ?』


 それは間違いない。

 怪水は【水鉄砲】と【ウォーターカッター】しか攻撃魔法がないはず。

 では、いったい――



『そういうことか』

『どういうこと?』


 【操水術】

 【本来は水魔法を自由自在に扱えるようになるスキルだが、この個体の場合は体を構成する水を自由自在に操ることしかできない。】


『怪水の持つ【操水術】っていうのは、本来は水魔法を自由自在に操れるというものだが、あいつの場合は自分の体を構成する水しか操れない。そして、今までは自分自身の移動にしか使っていなかった。だから、俺たちは攻撃手段が少ないのだと

『言い換えれば、体を構成する水なら自由に扱えるということか』

『なるほどね。でも、急にどうして……?』

『おそらく、体積が減って自分自身を操るのにく労力が減ったから、そのぶん攻撃に回す余裕ができたのだろう』


 【ウォーターカッター】を躱しながら説明していると、怪水が今度は水の塊を飛ばしてきた。


『今度は、自分自身の一部を【ウォーターボール】のように飛ばしてきたわね』


 だが、その程度の攻撃に当たるほど俺たちは弱くはない。


 連続で放たれた疑似【ウォーターボール】を全て躱す。

 地面に落ちて跳びはねた水滴もきちんと躱す。

 一滴一滴が凶器だからな。


 ピュンッ!


 今度は【水鉄砲】が飛んでくる。

 躱すのは簡単だが――


『さっきの【ウォーターボール】のせいで水たまりがたくさんできてるわ! 間違っても踏まないようにね!』

『もちろんだ』



 【水鉄砲】の乱舞を躱しながら、水たまりのないところに二人が下がろうとした時――


 バシャァァァァンッ!


『むっ!?』

『ヤバッ……』


 水たまりを踏まないように飛び越えた二人の真下から、怪水が間欠泉のように吹きあがった。


 間欠泉は二人を呑み込み――


『そういうことか! 【ファイアーウォール】!』


 怪水を完全に囲む形で【ファイアーウォール】を発生させる。

 すると、途端に間欠泉は収まった。


『二人とも大丈夫か!?』


 あの間欠泉には、さすがに攻撃力はなかった。

 だが、毒と呪いはあるわけで……。


『私は大丈夫だ!』

『私もギリギリ平気よ!』


 消え去った間欠泉の中から、ぴんぴんした様子の二人が出てきた。


『【ファイアーボール】!』


 残った水たまりを、【ファイアーボール】で残らず蒸発させておく。

 こうしておけば、さっきのシャワー攻撃の時みたいに再吸収されることはない。


『本当に大丈夫か?』


 いったん怪水から距離を取った二人のもとに戻って、念のためにもう一度聞いておく。


『【エアウォール】を直接体にまとうことで防いだのよ』

『私も同じく』

『あの吹き上がってきた水がすぐに収まってくれたおかげで、なんとか防ぎきれたわ』


 圧縮した空気を全身にまとって防いだってことか。

 俺の炎でもできなくはなさそうだな。


『それにしても、さっきの攻撃ってどんな仕組みだったのかしら?』

『水たまりからいきなり水が吹きあがってきたが……』

『あいつの体から分離した水は、再吸収しない限り操ることはできない。だが、あの水たまりが分離していなかったとしたら……?』

『そうか! 水たまりが本体とまだ繋がっていたということか!』


 多分正解だ、狼王。


『【ウォーターボール】もどきを撃ってきたのは攻撃のためではなく、水たまりを作ることが目的だった。そして水たまりと本体は極細の水の糸か何かで繋がっていて、私たちが真上を通ったときにそこから水を吹き上がらせたというわけね』

『あいつの周りを【ファイアーウォール】で囲んで、その水の糸(仮)を蒸発させて繋がりをったら間欠泉が消えたわけだから、その可能性がかなり高いだろうな』



 戦い始めた時には思いもしなかった【操水術】の攻撃手段への昇華。

 と言っても、もともと【操水術】自体は攻撃系のスキルで、俺たちが間違った思い込みをしていただけだが……。


 それを差し引いても、有利なのはまだこちらだ。

 怪水の体積は、すでに最初の三分の一ほど。

 ここからがラストスパートだ。

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