第115話 横槍

「グァァアア!」

「私はこっちだよー」


 リアの放った矢がヒベアの体に突き刺さる。

 ヒベアは矢が飛んできたほうにふりかえるが――


「背を向けたら危ないわよ!」

「ピュイ!」


 アリスの【ウィンドスラッシュ】と、俺の【ファイアーアロー】がヒベアに命中する。

 ヒベアは標的を俺たちのほうに切り替えるが――


「ハッ!」


 ヒベアの意識が俺とアリスに向いた瞬間に、【身体強化】を発動させたゼストが大剣でヒベアを斬りつける。


「グルゥァァア!」


 一番近くにいるゼストを狙ってヒベアが攻撃するが、ゼストはその攻撃を躱したり受け止めたりする。

 そして隙あらば斬りつける。

 そして、またリアの攻撃が飛んでくる。


 ヒベアはニート天使に本能100パー理性ゼロと言われるだけあって、これだけ攻撃しても何も学習せず攻撃の対象を次々と切り替えている。

 おかげで、格ゲーなどでいう『ハメる』ことができた。

 そんな状態が十分ほど続き、ヒベアの体力を1017/1476まで削ることができた。


 【このままハメ続けてれば勝てそうですね。】


 ただ、ヒベアの皮膚がものすごく固いせいで深い傷を与えることができないんだよな。

 そこにヒベアの持つ【体力自動回復】の効果も合わさって(Lv1だから鳩の涙くらいだろうけど)、体力を削るペースが遅いんだよな。

 ここから1000近い体力を削りきるのは骨が複雑に折れそうだ。


「気をつけろ! ヒベアの様子が変わった!」


 ゼストに言われてすぐにヒベアのほうを見ると、息を大きく吸い込むヒベアの姿が目に移った。

 間違いない。【咆哮】を放つつもりだ。


「グルウアアアアアアアァァァアアア!」


 関白いれずに森の中にヒベアの叫び声が響き渡った。

 衝撃で大気が振動するのが分かる。周りの木が、草が、地面が恐怖するかのように震えている。野生の獣の怒りの【咆哮】。

 だが、何も問題はない。この程度大したことはない。

 あのときの、|あいつ(狼の王)の【咆哮】に比べたら、ヒベアの【咆哮】なんて夜の田んぼから聞こえてくるカエルの大合唱程度だ。

 うるさいだけで全く怖くない。


 大口を開けて声を出し続けているヒベアに向かって、威力と方向を一点に集中させた【放電】を放った。


「ガアァァァア!?」


 口の中に大量の電撃がぶち込まれたヒベアは、悲鳴を上げて苦しみだした。

 ヒベアの皮膚は固くて強靭だが、口の中などの部分はそうじゃない。

 かなり魔力を込めて放っただけあって、今の攻撃はそれなりのダメージになったはずだ。


 【ナイス攻撃です。運が良ければ軽い麻痺状態くらいにはなっているかもしれませんね。】


 攻撃が通りやすい部分ってことで目を狙うのも結構いいんじゃないかと思うんだが、レイラさん的にはどうなんだ? リアの弓の腕前だったら目を狙うくらい簡単だと思うんだが、それをしていないのはやっぱり意図的だよな?


 【そうですね。ジャイアントデビルスパイダーなんかのすぐに決着をつけられるような魔物なんかだったら目を狙うのは有効ですが、今回はヒベアの頭の悪さを利用してハメ続けているわけですからね。もしヒベアの目に攻撃したりすれば、最悪パニック状態に陥ったヒベアに誰か一人が狙われ続ける可能性があります。一人でヒベアに対処し続けるのはステータス的に厳しいでしょうから、その状態で長いこと戦い続けるとなるとかなり危険です。なので、目を狙ったりするのは最後に一気に追い込むときくらいにしたほうがいいと思います。】


 なるほど。攻撃の通りやすい場所を狙うのは有効的だが、タイミングなどをしっかりと考えないといけないってことだな。

 こういった細かいことは、戦っている間に忘れがちになりやすいから気をつけないとな。


「ナイスだ、朱雀」

「アリス、さっきの毒袋ちょうだい」

「二日分の生活費くらいにはなるからできれば売りたかったけど、そんなことは言ってられないわね。はい」

「ありがと」

「じゃあこれまで通り俺たちが気を引くから毒矢頼んだぞ」


 このままだと体力を削るのが大変だから、悪魔蜘蛛の毒を使ってヒベアを毒状態にするつもりか。

 ヒベアはLv3の【毒耐性】を持っているけど、Cランクの魔獣である悪魔蜘蛛の毒であれば倒せはしなくてもダメージを与えるくらいはできるだろう。


 にしても、糸よりは安い毒袋でもあの三人が二日暮らせるくらいの値段で売れるのか。

 使うのを渋りたくなる気持ちはわかる。


 【冒険者は強くなれば割のいい仕事が増えますが、それまでは割とその日暮らしの安定しない職業ですからね。優先して貯金したい気持ちはわかります。】


「ピュイ!」

「【ウィンドショット】!」


 俺の【ファイアーアロー】とアリスの【ウィンドショット】が、悶えているヒベアの心臓部に直撃した。

 固い皮膚を貫くことはできていないので心臓は無事だが、そこそこのダメージにはなったっぽい。


「次は俺の番だな」


 ゼストが【双斬撃】と【切断】を使って、俺たちのほうに走ってこようとするヒベアの前足を斬りつけた。

 傷は浅いから大したダメージになることはないが、ヒベアの意識を引き付けることはできる。

 ヒベアの【爪炎撃】をゼストが横に飛んで躱したときに、リアの放った毒矢がヒベアの背中に突き刺さった。


「ジャイアントデビルスパイダーの毒をたくさん塗った矢を六本刺したから、多分毒状態になってるはずだよ」

「よくやった、ナイス!」

「ナイス~!」

「ピュイ!」


 状態異常は……。


 【やりましたね。ちゃんと毒状態になってますよ。これでダメージを与えるのは楽になるはずです!】


 よし! これでまた一歩勝ちに近づいた!

 リアに向かってグッドポーズを送ろうと――


「ピーヒョロロ!」

「きゃあ!?」

「どうした!?」

「何かあったの!?」


 突然リアの悲鳴が聞こえてきたので急いでそちらのほうを見ると、リアがこちらのほうへ跳躍してきた。

 そして、その後ろを結構大きな何かが通過していった。

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