第3話 兄はいつも現実的
家に帰って兄に遊園地での出来事を話した。どうせ信じるわけないだろうとは思ったが、誰かに話さずにはいられなかった。兄はパソコンの前に座って、何やら作業をしながら聞いている。
「っていうことで、すごい体験をしたんだよ」
「ふ~ん、そうか」
作業の手を止めようとはしない兄に、ちょっとイラっとした。
「ちょっとお、信じてないでしょう?」
「そんなの、ありえない話だ。どうせ、メリーゴーラウンドに乗っているときに気でも失って、夢を見ていたんだろう。その間五分ぐらいか。様々な場面が夢の中で行き交ったんだ。その話を目が覚めた時に膨らませて、いつの間にかそんな体験をしたような気になったんだ」
まだ、全く信用していない。
「よっぽどイケメンに飢えていたんだろうな。お前の妄想が彼を出現させた。イケメンにもてたいという願望が夢の中で膨らんでいった。その夢がかなえられたので目が覚め、気が付いた時には同じ場所にいた。まあ、そんなところだろう」
「あ~ん、妄想なんかじゃないってば。夢なんかでもないんだから。現実に起こったこと。だってこの手を優しく取って、私を背中に乗せて……空を飛んで……」
まだ、パソコンで作業をしている。いい加減話に集中してほしい。
「そんなことありえないっ!」
兄は冷たく言い放った。
「夢じゃなかったら、そんなようなアトラクションができたんだ。王子様も多分誰かが演じていて、空を飛んだのはどこかの部屋へ入ってCGかなんかで画面を見せられたってこと」
「すっごい現実的だね。夢も希望もないじゃん」
「普通に考えればわかることだ」
結局信じてはもらえなかった。まあ、兄の反応は予想していた通りだったが、話したことで気持ちは少しだけすっきりした。
こんな体験をしたのは私だけなんだろうか。あの場所へは、大勢の人が行っているはずだ。私はさらに兄を相手に話をする。
「ああ、だけどあの人かっこよかったな。アナウンスの声の通りの人だった」
「へえ、おまえのタイプだったんだ。そりゃよかったね」
あれ、今度はそんなこと言うんだ。信じてない割に。試しに言ってみる。
「また、会えるかな……会えるよね」
「さあ、それはどうかな。夢だったら、また会えるかもしれないけどね、夢の中で」
「現実だったら? 本当に現実だったら」
「別の男が現れるかもな。だって、そのアトラクション、一人でできないだろうから」
やっぱり兄貴ったら、完全に信じてない。体験した私だって、いまだに信じられないんだけど。
「じゃ、忙しそうだから、またね」
「おう」
部屋に入っても何かする気になれなかった。ぼおっと机の前に座り、昨日のことを思い返す。目を閉じるとかけるの顔が現れた。
「お嬢様、またお会いしましょう」
ああ、いやだいやだ。また会えるわけないよね。夢なんだから。
すると、兄が部屋へ入ってきた。
「どうしたの? 何か用?」
「ちょっとさ、顔見せて」
「どうして」
先ほどとは打って変わって、こちらに興味ありそうにじろじろ見ている。
「なんか変わったところはないかな、と思って」
「別に、ないよ」
「そうか、よ~く見せてみろよ」
「もう、いつもと同じだよ」
「本当だ、ぼおっとした顔をしているし、いつも通りか? いや、なんか変わってる、UFOかなんかに魂を吸い取られちゃったんじゃ……」
兄は、顔をむぎゅと摑んでじっと人の顔を観察している。
「やだ、そんなことないよお! やめてよお~~!」
「ふ~む」
「えっ、私の顔変わってる。おかしくなっちゃった?」
「そうだな。おかしいといえば、おかしい。さっき調べてみたら、そんなアトラクションはなかった」
「やっぱり!」
だけど人の顔をいじるのやめてほしい。あ~ん、いい加減にしてよお! 変なこと言わないでよお! 私は大真面目なんだから。
「やめてええ~~!」
「ふん、このくらいにしておこう」
あ~、よかった。私は鏡を見た。確かに表情が変わっているような気がしたが、原型は変わっていなかったので安心した。そんなアトラクションはなかったという言葉が心に引っかかってはいたが。
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