第71話

早く魔女を見つけたい。



その気持ちとは裏腹に、まったくなんの情報も得られないまま、あたしたちはコンビニの裏手まで戻ってきていた。



「結局、ダメだったね……」



白堵が、がっかりしたようにつぶやく。



「大丈夫だよ。まだ、諦めたわけじゃないでしょ?」



「でも、また月奈ちゃんが僕たちを見れなくなってしまったら? そうなれば、もう二度と魔女探しなんてできなくなるかもしれないし」



「白堵……」



確かに、それは白堵の言うとおりかもしれなかった。



これから先、ずっと妖精を見続けるという事は、きっと不可能だから。



だって、あたしはもう秋生さんのことをなんとも思っていない。



このまま心の傷がふさがれば、満足できる何かが起きれば、きっともう二度と……。



そう思った時、自販機の影が揺れたように見えて、あたしは足をとめた。



従業員用の駐車場があるお店の裏には、ずっと使われているタバコの自販機が一台ある。



店長や成人しているアルバイトさんが、よく使う自販機だ。



「なんだろう?」



不思議に思って、あたしはその場にしゃがみ込む。



妖精たちも異変に気がついたのか、それぞれ地面へと下りて行った。



そして……。



もう1度影が揺れて見えたかと思うと、そこから1人の小さな老婆が姿を現したのだ。



老婆の身長は美影たちと同じくらいだったので、それがすぐに妖精だと気がついた。



「わたしに何か用か?」



老婆はしゃがれた声でそう言い、あたしを見上げてくる。



「あ、いえ……誰かいるのかな、と思って」



小さいのに貫禄のある老婆に、あたしはたじろく。



美影たちも、老婆から発せられる威圧感に数歩あとずさりをした。



「わたしは販売機の妖精じゃ。用がないなら立ち去れ」



そう言い、小枝で作った杖でシッシッと合図する。



言われるがままに立ちあがったあたしのポケットから、3つの石が転げ落ちた。



「あっ!!」



いけない!



大切なものなのに!!



慌てて拾おうとした時、老婆がカッと目を見開いた。



「その宝石は?」



「え……。これは、動物たちが、あたしにくれて……」



「それを持っているということは、噂を知っているな?」



老婆の口調が、険しくなる。



「噂って……妖精が人間になれるっていう……?」



「その通り。動物たちはその噂を信じて魔女を探し回る人間に、宝石を渡してくれる」



「それって、どうしてなんですか? 普通、自分で探しだしたりしますよね?」



「あぁ。最初はそうだった。でも、最近では妖精を見ることのできる人間自体が少なくなった。



妖精たちの間でも、人間になれる噂なんてデマだと言いだすものまでいる。



だから、今では妖精を信じ、ともに行動してくれる人間に敬意を示し、動物が手助けするようになった」



老婆は、昔を懐かしむような表情でそう語ってくれた。



じゃぁ、やっぱりあの動物たちはあたしを助けてくれていたんだ。



それに、人間になれるという噂も、本物。



「あ、あの。その魔女はどこにいるか知りませんか? あたしたち、宝石は持っているのに、魔女を見つけることができないんです!」



そう言うと、老婆は目をパチクリさせて「魔女とは、その敷地内にいる一番古い妖精の事を指している」と、言った。



「敷地内……?」



って、美影たちのいる場所の敷地内って、ここ……だよね。



そして、この敷地内で一番古い機械といえば……。



あたしは老婆に視線を戻した。



「まさか、あなたが……?」



「その通り」



うそ、本当に!?



何度も瞬きをして老婆を見つめる。



この自販機は、コンビニができる前から立っていて、ずっと利用されている。



使う人も従業員が多いため、客に変化は少ない。



だから、ずっとずっと、老婆はここにいたんだ。



こんな近くに魔女と呼ばれる妖精がいたなんて……。



あたしは、思わず体中から力がぬけてしまった。



あんなに頑張ったのに。



あんなに頑張ったからこそ、宝石を手に入れることができたのかもしれないけれど。



でも……。



「早く、気付けばよかったぁ……」



と、ため息を吐きだしたのだった。

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