第54話

☆☆☆


それから2時間ほどたってから、あたしはリビングで携帯電話を握りしめていた。



隣のソファーには陽菜ちゃん。



「や、やっぱり緊張するね」



「そうね。でも、もう携帯電話を持ったまま20分も経過しているわよ? そろそろ勇気を出したらどう?」



「そ、そうだよね」



あははっと、小さく笑う。



手にはじんわりを汗がにじみ出ていて、心臓はドクドクと早く打っている。



でも、ここで逃げちゃダメだよね。



「か、かけるよ」



「うん。頑張れ月奈」



陽菜ちゃんに背中を押され、あたしは電話番号をゆっくりと押していく。



そして全部押せたあと、キュッと目をつむり「えいっ!」と、勢いにまかせて発信ボタンを押した。



すぐに、耳元でコール音が聞こえてくる。



そして3コール目でそれは人の声へと切り替わった。



《はい、美影白堵の事務所です》



それは、若い女性の声だった。



作者本人でないことがわかると、途端に気が抜ける。



「あ、あの。あたし鳥谷月奈といいます。今日美影白堵さんからポストカードが届いて、電話番号が書かれていたので、連絡させていただきました」



たどたどしく説明するが、どうにか相手に伝わったらしい。



《美影白堵本人から聞いております。恐れ入りますが、お住まいはどこですか?》



そう聞かれ、あたしは自宅の住所をおおざっぱに伝えた。



《そですか。やはり美影白堵の作業場所と、とても近いですね》



「そ、そうなんですか……」



《はい。月奈さま、本日は空いておられますでしょうか?》



「は、はいっ!」



《美影白堵本人が、月奈さまとお会いしたいと言っているので、夕方からお時間をいただいでもよろしいでしょうか?》



「も、もちろんです!!」



相手の丁寧な言葉遣いに緊張しつつも、あたしはうなづいた。



それからは、時間と待ち合わせ場所を決めて、電話を切った。



緊張で背中に汗が流れる。



手のひらなんか、べとべとになってしまった。



「会えることになたった?」



陽菜ちゃんにきかれて、あたしはうなづく。



「よかったわね。これで妖精たちのこと、もっと詳しく理解できるじゃない」



「うん、そうだね……」



あたしは、美影たちの姿を思い浮かべながら、そう言ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る