第40話
その日の夜。
あたしたち家族4人は、お母さんの言った通り外食することとなった。
「外食なんて何か月ぶりだろうね」
あたしがそう言うと、陽菜ちゃんが「そうだね。楽しみ」と、笑う。
お店は、家から徒歩で行ける距離にある中華料理店に決まった。
陽菜ちゃんは免許を持っていないし、お父さんとお母さんはビールを飲みたいため、今日はみんな徒歩だ。
「今日は美影くんも一緒なのね?」
陽菜ちゃんが小声でそう言ってきたので、あたしはうなづく。
すると、肩の上に乗っていた美影が「こいつ、俺が見えるのか!?」と、驚いた声をあげた。
あ、そっか。
陽菜ちゃんが妖精が見えるって話をしたとき、美影たちはバッグの中に入っていたから、会話が聞こえていなかったんだ。
「はじめまして。姉の陽菜です」
「あ、どうも。美影です」
こそこそと妙な自己紹介をするものだから、あたしはプッと噴き出してしまった。
「どうした、月奈?」
「なんでもないよ、お父さん」
プルプルと首を振って、誤魔化すあたし。
まったくもう、おもしろいことしないでよ。
「月奈と陽菜さんには見えて、どうしてお前の親には見えねぇんだ?」
「知らないわよ、そんなの」
それより、あたしは会った直後から呼び捨てなのに、陽菜ちゃんは『さん』付けってどういうこと?
なんだか納得いかないまま、お店についてしまった。
さすが夕飯時、店内はお客さんでごった返していて、ガヤガヤとうるさい。
店員さんがめいっぱい声を張り上げているけれど、かき消されている。
それでも丁度良くテーブルが空いて4人席に案内されると、お父さんはいち早くビールを注文した。
あたしたちもそれぞれに注文をして、料理が出てくるのを待っていると……。
窓の外に、見慣れた男性が見慣れた女性と歩いているのが見えて、あたしは一瞬息をのんだ。
それは、いつも男女でコンビニに来るお客さんで。
つまり、あたしの好きな人で……。
仲がよさそうに歩いていく姿に、目が釘付けになる。
ついさっき、美影と『諦めない』と約束したばかりなのに、心が揺らぐ。
ねぇ。
やっぱりあれは恋人だよ。
誰がどう見たって、そうでしょ?
あんなにくっついて、時々ジャレあいながら歩いているんだもん。
ジワリと視界が涙にゆがんだとき、注文していたチャーハンが届いた。
「月奈、どうかした?」
うつむいているあたしに、陽菜ちゃんが心配そうに声をかけてくれる。
「ううん。なんでもない」
大丈夫。
当たって砕けたって、また接着剤でくっつければいいや。
そうすれば、今まで以上に強くなれそうな気がする。
☆☆☆
そして、帰り道。
突然、肩の上で美影が「俺、レジの中に帰る」と、言いだした。
「え?」
立ち止まって、オロオロするあたし。
ここからコンビニまではそんなに遠い距離ではない。
でも、いきなりどうして?
「妖精が機械から離れられる時間は、3日間と決まっているんだ」
「え、なにそれ?」
今まで聞いたことのない情報に、あたしは面食らう。
花火のときだって、誰もそんなこと教えてくれなかった。
「俺たち機械の妖精は、機械からパワーをもらってる。そのパワーの充電が切れるのが、レジから離れた3日後だ」
「で、でも。機械がなくならない限り、美影たちは消えないんだよね?」
花火大会の日、白堵がそう言っていた。
「あぁ。パワーがなくなると、動物で言う冬眠状態になるんだ」
「冬眠……。だからって、もう帰っちゃうの?」
「なんだよ月奈。俺がいなくて寂しいのかよ」
「ち、違う!」
「慌てるところが余計に怪しいな」
「なっ……!」
違うって言ってるのに、なんてこというのよ。
なんだか妙に意識してしまって、顔が熱くなる。
美影と一緒にいると、ドキドキして心臓がもたない。
そう思ったあたしは「ごめん、コンビニによって帰るから、先に帰ってて?」と、家族に伝えて、1人脇道へとそれたのだった。
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