第38話
「小指サイズのくせに……」
ぼそっと呟くと「なんか言ったか?」と、頬をつつかれた。
「別になにも? さぁ、帰ろっと」
☆☆☆
肩に美影を連れたまま帰宅すると、珍しくお母さんが先に帰ってきていた。
「ただいまぁ」
玄関をあがり、リビングへ顔を出すとソファでくつろいでいる母親の姿があった。
「おかえり、月奈」
「お母さん、今日は早いんだね?」
「午前中で終わりだったのよ」
「そうなんだ」
「今日は久しぶりに外食でもしましょうか」
その言葉に、あたしの表情は一気に明るくなる。
お母さんは、機嫌がいいとよく家族で外食に行きたがる。
今日は、とってもご機嫌な様子だ。
「やった!」
あたしがぴょんっと飛び跳ねると、肩の上の美影は「うわっ」と声をあげて、慌ててあたしにつかまった。
「今日は外食だってさ」
階段をのぼりながら、あたしが言うと、美影が「そんなにうれしいことなのかよ?」と、聞いてきた。
あたしは部屋のドアをあけながら、「もちろん」と、答える。
食べる場所が違うだけで、ずいぶん違うものでしょ?
「だったらさ、一緒に食べる人が違えば、もっと違うんじゃねぇの?」
美影が、あたしの肩からジャンプしてベッドへ飛び降りた。
「一緒に食べる人……?」
「あぁ。いるんだろ? 好きなやつ」
その言葉に、あたしはドキッとしてしまう。
「いる……けれど……」
まともに会話をしたことさえ、いままでないのに、ご飯を一緒に食べるだなんて……。
そんなこと、想像さえできなくて、あたしはうつむいてしまう。
「なに、諦めてんだよ」
「え?」
「まだ何もやってねぇのに、なに諦めてんだよ」
いつもよりも真剣な口調の美影に、きゅっと身を縮める。
なんか、怒ってる?
「だってさ、その人、いつも女の人と一緒にいるんだもん……」
そう、あたしの好きな人には彼女がいる。
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