第37話
「列ができたら、バックルーム呼び出しがなくてもすぐに出てくるって、約束でしょう?」
「ご、ごめん……」
あたしはどう謝るいいのかわからず、半泣きの和心を見つめる。
「もういい。あたしも休憩入ってくる」
「……行ってらっしゃい……」
肩を落とす和心を見送り、あたしは大きくため息を吐き出した。
「なに、落ち込んでんだよ」
右肩から美影の声がする。
「和心に迷惑かけちゃった……」
バイト先で一番仲のいい友達なのに……。
そう思っていると、「羨ましいなぁ」と、左肩から白堵が言った。
「なにが羨ましいのよ」
あたしは落ち込んでいるっていうのに。
少しムッとして白堵を見る。
「だって、僕たちは誰かに迷惑をかけるってこと、ほとんどないもん」
「そうだよなぁ……俺たち、存在自体見えてねぇからな」
そう言って、美影は自嘲気味に笑った。
「店内で遊んでいても、人間にいつ踏まれるかわからない。
でも、踏んだ方は僕たちに気が付かないで、『足元に何かあったかな?』っていう程度なんだよ。そのくらいの、存在なんだ」
白堵の切なげな声に、一瞬胸を締め付けられる。
人に見てもらえないっていうのは、想像できないくらいに辛いことなのかもしれない。
仲間がいるといっても、たった4人だし……。
この子たちは、孤独と戦っているのかもしれない。
「ほら、客が来たぞ」
美影の言葉にハッと我に返り、あたしはいつもの営業スマイルを見せた。
☆☆☆
それからの勤務は滞りなく進み、退勤5分前。
まだかなまだかなと、時計をチラチラ気にしつつ、レジを打つ。
「350円のお返しです」
と、言ってレジを開けたとき、美影がタイミングを待っていたようにレジからジャンプしてあたしの肩に乗った。
「きゃっ!?」
思わず小さく悲鳴をあげ、すぐに口をつぐむ。
びっくりしたせいで少し震えている手でお釣りを渡すと、あたしは美影をにらんだ。
「ちょっと、何考えてるのよ」
「月奈、もうバイト終わりだろ? 俺も一緒に帰る」
はぁ?
なに言っているの!?
あたしは驚いて目を見開く。
「白堵は大人しくレジに戻ってるわよ?」
「あいつのことなんか関係ねぇよ。俺が一緒に帰るっつってんだから、月奈はいう事ききゃいいんだよ」
ドカッと人の肩にあぐらをかいて座る美影。
その強引さにあたしは、またため息を吐き出す。
もう、本当に生意気なんだから!
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