第31話

それが、やっと今日言えたんだよね。



少しは、心が軽くなったかな……?



花火を見に行った日から、美影と白堵は人間へ対しての憧れを口にすることが多くなっていた。



レジの画面の上に座った美影が「なぁなぁ、人間って楽しいか?」と、聞いてくる。



あたしは接客をしながらチラリと美影の方を見て、ウインクしてみせた。



もちろん、肯定の意味をこめたウインクだ。



すると美影はチッと小さく舌打ちをして「俺ももっと背が伸びねぇかなぁ」なんて、言っている。



美影の身長がぐんぐん伸びて、人間らしくなった姿を想像してみる。



と、とたんに顔が熱くなった。



ただの想像なのに、かなりのイケメンになってしまったから。



美影だけじゃない。



白堵や菜戯、汰緒、も十分にかっこいい。



あの子たちが人間の男性と同じだったとしたら、かなりモテているだろう。



アイドルグループになったりして?



なんて考えて、クスッと笑うと、お釣りを待っていたお客さんが眉間にしわをよせた。



いけない。



またバイト中にトリップしてた。



あたしは慌ててお釣りを渡して「ありがとうございました」と、声を張り上げた。



「月奈って、結構ボーッとしてるよな」



そんな様子を見ていた美影がクックと声を殺して笑う。



「誰のせいよ」



プッと頬を膨らませると「は?」と、美影は首をかしげた。



「妖精ってさ、みんなかっこよかったり、可愛かったりする?」



「あぁ。俺の顔に見とれててボーッとしてたのか?」



「ち、違うけどっ!!」



本当はそうなんだけれど、素直になれなくて否定する。



「まぁ、見た目の悪い妖精は少ないんじゃねぇかな? 人間の綺麗な心が俺たちを作るんだからな」



「そっか……」



じゃあ、可愛い妖精と出会ったら、美影はそっちに行っちゃうのかな?



種族が同じ妖精同士のほうが、楽しいんじゃないかな?



「今度は何考えてんだよ?」



「……別に」



なんとなく切なくなって、あたしはあいまいに答えた。



「こんな時、同じ人間だったら頭なでてやったりできるのにな」



美影の言葉にあたしはドキッとする。



美影、あたしと同じようなこと考えてたの?



「……人間も大変だよ?」



「そうなのか?」



あたしは「うん」と、うなづいた。



「お客さんもさ、いい人ばっかりじゃないの。仕事とか家庭で嫌なことがあると、あたしたち店員にやつあたりしてくる人もいる」



いままで、いろいろなお客さんに会ってきた。



最初から怒った顔をして買い物に来る人。



クーポン券の期限が切れている事を店員のせいにする人。



店内で飲食する人。



駐車場でゴミを散らかす人。



「でも、そんな奴らばっかりじゃねぇんだろ?」



「うん。もちろん、優しい人もたくさんいるよ。お会計の時に必ず『ありがとう』って言ってくれたり」



だから、あたしはこのコンビニで頑張れているんだ。

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