恋の相手は小指サイズの俺様王子!?

西羽咲 花月

第1話

家の一番近くにあるコンビニエンスストア、ここでアルバイトを始めて早1年になろうとしている。



高校卒業後、特にやりたいこともなかったあたしは、就職先が見つかるまでの繋ぎでここで働き始めた。



アルバイトをしながらも何度か他の会社で面接を受けたけれど、全滅。



そのうち、就職しなきゃ!



という気持ちは徐々に薄れ、今もこうしてレジを打っている。


そんなあたしは鳥谷月奈(とりたに つきな)19歳。



平凡なバイト生活に変化が訪れるなんて、考えてもいなかった。



今日も明日も明後日も、ずっと続いて行くんだと思っていた。



今日、この瞬間までは。



「眩しいんだよ。ったく」



は……?



今、誰かなんか言った?



あたしはキョロキョロと周囲を見回した。



手を止めてその声の持ち主を探していると、商品を持ってお釣りを待っているお客さんが「早くしてくれる?」と、舌打ちをした。



あたしはあわててレジ内から小銭を取り出し、お客さんの手のひらへ乗せた。



「お待たせいたしました。300円のお返しです」



にこっと営業スマイルを浮かべてお辞儀をし、よれよれのスーツ姿のお客さんを見送る。



このお店の中にいるのはあたしと、休憩室にいるアルバイトの子と、さっきのお客さんの3人だけ。



お客さんが出て行った今、店内にはあたし1人。



そのはずなんだけれど……。



「早く閉めろよ」



また聞こえてきた聞き覚えのない声にあたしはギョッとする。



さっきも『眩しいんだよ。ったく』って、知らない男の声で聞こえてきたよね?



でも、店内には誰もいない。



聞き間違い?



バイトのシフトが鬼のように入っているから、疲れているのかもしれない。



そう思ってため息を吐きだし、開けっ放しのレジを閉めようと手をかける。



その、瞬間。



普段は意識なんてしないレジの中に視線を落とした時、さっきの声の持ち主と目があった。




「なんだよ、さっさと閉めろっつぅの」



「え……?」



あたしは唖然としてその光景を見つめた。



なに、これ。



夢?



そう思って目をこすってみるけれど、その現実はかわらなかった。



レジの使われていないお札入れのスペースにちょこんと座っている男が、そこにいたんだ。


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