第15話
「今日は楽しかった。ありがとう明子」
「主夫、こちらこそ私のためにおいでいただき本当にありがとうございます」
「明子、これからは度々来ることになると思う。お手数だろうがよろしく恃む」
「もったいないお言葉嬉しゅうございます。私はそのお言葉だけでもいただければ人生に悔いはありません」
「人生に悔いはないなんて大げさだな。今日は疲れたでしょう。さあ今から寝ても構わないよ」
「疲れてなんておりません。それに主夫にきていただけて私は嬉しすぎて眠れそうにありません。私はよろしいですから、主夫は寝てください」
明子にそう言われては、道康は逆に寝づらくなった。それに、明子は自分がきて寝れなくなるなんていじらしい。
「そうか、じゃあまだ寝るには早いな。少し
話そう。側にいってもよいか」
「嬉しゅうございます」
明子は、そういうと体を固くした。道康は明子も女なんだと感じた。良房の協力を得るためにも、彼女とも仲良くならねばならない。動機が不純だからこそ、道康は明子を精一杯喜ばさないといけないと使命感苛まれた。
道康は、こうして明子の元に通いだした。
良房は、ただ皇子の誕生だけを願っていた。
道康の民のための徳政は、大臣の消極的な態度によってなかなか進まなかった。殿上人の貴族も、大臣と同じ前向きな意見は聞かれず、良房も献策はするのだがほとんどが的外れで藤原氏の不利益になるものは決して発言しなかった。
そして道康の案には、理屈をこねて反対した。案は、全くといってもいいぐらい煮詰まらなかった。
少し違った見方で一から考え直そうと、良房は言い出した。道康は、大臣の良房の意見に心ならずも同調せざるをえなかった。良房の本心は、貴族の特権を一片も渡す気はなかった。
そして、このようなことを言い出す道康に反対する源氏の両大臣とひそかに接触をはじめた。良房の陰謀は、徐々に固まり始めていた。
道康が明子の元に通い始めて一年、ついに明子が妊娠した。良房の喜びは、人通りではなかった。
もし皇子が産まれれば、一気に皇太子にするように準備を始めた。
当時は、まだ産まれるまで性別はわからない時代であった。承和の変も良房の動き早かったが、それに負けない早さで良房は動きだした。
道康に本当の理由を知られないよう、ただ孫の誕生を喜ぶ祖父という名目で大胆に行動した。
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