今日の僕たちは

詠深

第1話

 朝、目をひらく。そこには見慣れた天井がある。枕元に置かれているはずのリモコンを手探りで探しだしボタンを押すと部屋の中が丸いLEDから出る青白い光に照らされた。動かない体にうんざりしながらも動けるようになるのをじっと待つ。ほぼ毎朝繰り返されるこの何もできない時間が僕はどうしても好きになれなかった。四時半に目を覚まし六時半までに徐々に起き上がる。体が動くようになったとしても倦怠感は消えてはくれない。体中にまとわりつくそれに嫌悪を抱きつつもそれをはがす方法を知らない僕にはいつの間にかその感覚が当たり前になっていた。制服に着替え階段を降りるとお母さんがちょうど仕事に出るところだった。

「お母さん、おはようございます。今夜は家で食べますか?」

僕がかけた声にお母さんは振り返ることはなく「いいえ。」とだけ答え出ていった。リビングに向かい机の上に置かれた三千円を見て胸が少しちくりとした。いつも見ているはずなのにいつまでも慣れることのできない自分に『まだ期待を持っているのか』と情けなくなる。朝食を作りダイニングテーブルに並べる。椅子に腰を掛けテレビをつけた。そこでは二日前に起きた飛び降り自殺についての議論が交わされている。自殺に至るまでの経緯をあたかもそれが真実かのように語る専門家は彼女の何を知っているんだろう。どんどんと重くなる頭の中を見て見ぬふりするようにトーストにかじりつく。口の中にバターの香りが広がってゆく。『美味しい』素直にそう思った。食べ終わった頃に時計を見ると七時を指していた。急いで洗い物をし、残りの身支度を済ませる。家を出るとじめっとした梅雨特有の暑さが肌にまとわりついた。ヘッドホンを耳に被せると周りの音が何も聞こえなくなる、その感覚が好きだった。

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